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43話 頑張った結果

 昼休憩になった。教室の後ろのドアで瑞希が待っている。僕は嬉しくて席を立って瑞希の元へ走る。すると瑞希は僕の顔を見て、目を白黒させている。そしてウットリした顔になって、顔を真っ赤にしている。



「毎日、迎えに来てくれてありがとう」



 僕は満面の笑みで微笑んだ。



 すると瑞希が壁に手を着いて、胸を押えている。誰かに拳銃で撃たれたような恰好だ。



 瑞希と手を繋いで中庭のベンチへ行く。ここは生徒達があまり来ない、お弁当を食べるには絶好のスポットだ。2人でベンチに座ってお弁当を広げる。瑞希はお弁当の蓋を開けながら、僕をチラチラと見てくるが、なぜ僕が化粧をしているのかを聞いてこない。さっきからずーっと顔を真っ赤にして黙ったままだ。



 お弁当を食べながら、僕は瑞希に宣言する。



「僕、今日の放課後に藤野健也と戦うことに決めた」



 瑞希が口に含んでいた、おかずを噴く。



瑞希がジーっと僕を見つめる

”本気なの?あの無神経と本気で戦うの?”


僕は真剣な顔をしてコクリと頷く。

”本気だよ。だって瑞希も困ってるでしょ”


瑞希が可愛らしく、箸の先を口で咥える。

”どうやって、勝負するの?何をする気?”


僕は自分の両頬を人差し指で指す。

”僕って可愛い?”



 瑞希はお弁当を隣に置いて、いきなり僕に抱き着いた。



「今日の蒼ちゃんは可愛すぎよ。これって反則だわ。女の私でもウットリしちゃうもの。食べちゃいたい」



 僕はにっこりと瑞希に破顔した。



「藤野健也と人気者勝負を挑む。藤野健也はイケメンで恰好いいけど、可愛さでは僕が勝ってると思う。だから、瑞希に選んでもらうんだよ。恰好いいほうがいいか、可愛いほうがいいか、それで僕が勝ったら、瑞希を諦めてもらう」



 瑞希は僕に抱き着いたまま、僕にささやく。



『そんなの蒼が勝つに決まってるじゃない。私は蒼のことが大好きなのよ。それがこんなに可愛くなって。私がメロメロになるのは当たり前じゃない。勝負する前から蒼が勝つのは決まってるわ』



 僕は瑞希の耳元で優しくささやく。



『琴葉ちゃんにアドバイスをもらったんだ。藤野健也は凄い自信家だって、だから藤野健也の自信を潰せば、瑞希に近寄ってこないだろうって、琴葉ちゃんが言ってた。だから僕は可愛さで勝負する。そして藤野健也の自信を潰す。それしか方法はないから』



 瑞希が僕の頬にキスをする。



「ありがとう、蒼。可愛いわ。離したくない」



 離してくれないと、お弁当を食べることができないよ。昼休憩、終わっちゃう。



 僕達は座り直して、お弁当を食べる。瑞希は僕の顔を正視することができずに、チラチラとチラ見する。堂々と見てくれたらいいのに。



 お弁当を食べ終わって、僕は瑞希を見つめる。



「今日、昼休憩中に生徒会室へ行って、香織に会って来る。香織も健也と瑞希を離したいって、前から言っていたから協力してくれるはず。だから、僕、生徒会室へ行ってくるね」



 瑞希が僕の腕を持って、激しく首を横に振る。



「行くのはやめて。香織さんがもし、蒼に惚れちゃったらどうするの?今の蒼はとっても危険なのよ。女子だったら、誰でもウットリしちゃうほど可愛いのよ。行くのはやめて」



 瑞希もオーバーだな。香織は藤野健也が大好きな、生粋のブラコンだ。間違っても僕にウットリして惚れることなんてないよ。



「瑞希の考えすぎだよ。香織はブラコンだ。だから大丈夫。だから僕、行ってくるね」



 僕は瑞希を中庭に置いたまま、生徒会室へ急いだ。途中ですれ違う生徒達が僕の顔を見ている。特に女子がウットリした顔をしている。自分で自分の顔をジーっと観察できないからわからない。



 生徒会室のドアをノックして中に入る。生徒会室のパイプ椅子に座って、紅茶を飲んで待っていた香織が、僕の顔を見るなり噴いた。



「蒼大、その顔はどうしたの。もう女の子じゃないの」



「色々とあってね。時間もないし、話し合おうよ」



 香織は顔を真っ赤にして、僕と目を合わせない。そのくせ、チラチラと僕を盗み見する。これでは話ができない。僕は香織の真正面にパイプ椅子を持って行って座ると、香織の両肩を掴んで、無理矢理に僕の顔を見せる。



「今日の放課後に香織のお兄さん、藤野健也先輩と勝負することにした。香織も参加してほしい」



 香織は僕の迫力に焦ったのか、声が妙にうわずっている。



「どんな勝負をしようというの?お兄様は学校一のイケメンで、頭脳明晰、スポーツ万能よ。普通の勝負だったら、蒼大は絶対に勝てないわ」


「だから僕は可愛さで勝負する」


「・・・・・・」



 香織が固まった。意味は通じているのかな?



「イケメン対可愛いの人気者対決だ。僕にはそれで勝負するしか方法がない」


「勝敗はどうやって決めるの?」


「3年6組の全生徒と香織が審査員で、どちらが良いか決めてもらう」


「・・・・・・確かにいい勝負になるかもしれないわね」



 僕は思わず香織の両手を握りしめる。



「香織、ありがとう。これで、香織が僕の味方についてくれれば、この勝負に勝てるよ」



 僕は嬉しくなって、香織の手を握ってブンブンと振った。香織は顔を真っ赤にして俯いている。



「香織、もうすぐで、藤野健也先輩は、香織だけのものになるよ。お互いに頑張ろう」



 僕は向日葵のような笑顔を香織に向ける。香織の顔は真っ赤で今にも頭から湯気が出そうだ。



「わかったわよ。今回だけは、目的も一致してるし、協力してあげる」


「放課後に3年6組のクラスで待ってるから、すぐに来てよ」



 僕はそう言い残して生徒会室を出て、自分の教室へ向かう。教室に着いた時に、昼休憩の終わりのチャイムが鳴った。



 僕が椅子に座ると、芽衣がユラユラと体を揺らして僕の所へやって来る。顔が真っ赤だ。僕は席を立って、芽衣の手を握って向日葵のように笑った。



「芽衣のおかげでなんとかなりそだよ。琴葉ちゃんに相談して良かった。いつも相談に乗ってくれてありがとう。芽衣には本当に感謝してる」



 芽衣がウットリとした顔で僕を見る。



「本当にきれいで可愛いわ。まるで美少女ね。私まで惚れてしまいそうで怖いわ」


「何を冗談を言ってるんだよ。いつも冷静で、頭脳明晰の芽衣なのに」



 僕はコロコロと笑う。すると隣の席で様子を見ていた咲良が立った。少し興奮している。



「蒼のことは私が最初に好きになっただから。今は仲良い友達だけど、芽衣、取らないで」


「だって、こればかりは仕方ないでしょう。私の胸がキュンとしちゃったんだもの。蒼、いつでも相談に来てね。私も話がしたいし。待ってるわ」



 芽衣が僕に妙に色っぽい視線を送ってくる。僕は手を振って、芽衣を見送った。そして自分の席に座って、勉強の用意をする。隣の席から咲良のうめき声が聞こえる。



「蒼には1度、断られてるけど、諦めきれなくなってきたよ。あんなに可愛いかったら、ギュッとしたくなるじゃん」



 咲良の心の声がダダ洩れしている。僕には瑞希がいるから諦めてね。



 科目教師の先生が教壇に立つ。午後の授業の始まりだ。僕は勉強に集中する。女子達の視線は気になるが、僕の集中を妨げるようなことはない。瑞希のためにも良い成績を取らなくちゃ。だから勉強しないと。



 科目教科の先生が僕のことを妙な目で見ているけど、今日1日の辛抱だ。そんなのは無視、無視。



 午後の授業が終わった。僕は鞄を持って、教室を出て1階にある3年6組の教室へ走る。すると琴葉ちゃんが3年6組の教室の前で僕を待っていた。



「公正な審判が必要でしょう。私が審判をしてあげる」



 ありがとう琴葉ちゃん。助かります。



 僕は深々と礼をして、3年6組の教室の中を歩いていく。美咲姉ちゃん、楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃんから「可愛い」という声があがる。その中を歩いて僕は藤野健也の前に立った。



「藤野健也先輩、僕と勝負してください。そして僕が勝ったら、2度と瑞希姉ちゃんの周りをうろつかないでください。2度と瑞希姉ちゃんに近寄らないでください。瑞希姉ちゃんを諦めてください」


「君は3年生の教室まで来たと思ったら、失礼な物言いだね。君が僕と勝負だって。僕が勝つに決まっているじゃないか。勝負する前から結果が見えている。だから君は帰りたまえ」



 琴葉ちゃんが教室へ入って来て、藤野健也を指差す。



「2年生の男子が、3年生のあなたに勝負を挑んでるのよ。勝負から逃げるのかしら。あの健也くんが。この勝負を受けなかったら健也くんの不戦勝負けとするわよ」


「琴葉先生、何しに来たんですか?この教室に用はないでしょう」


「蒼ちゃんに頼まれて、公正な審判をしに来たのよ。だから健也くん、この勝負を受けなさい」



 3年6組に残っていた、ほとんどの生徒達はその場で固まった。琴葉ちゃんが教壇に上がると、妖艶な笑みを浮かべて宣言する。



「勝負は簡単よ。蒼ちゃんと健也くん、どちらが人気があるか勝負よ。参加者は3年6組に残っている生徒全員。この勝負に負けたほうが、瑞希ちゃんに近寄ることを禁止。瑞希ちゃんを口説くことも禁止。瑞希ちゃんのことを諦めること」



 3年6組にいた生徒が「面白そー」と騒ぎ始めた。こうなっては藤野健也も勝負を受けるしかない。勝負の方法はいたって簡単だ。箱の中に自分が恰好いい、または可愛いと思った者、1名の名前を書いて、箱の中へ投票していくだけだ。参加者は僕と藤野健也だ。



 3年6組の先輩達には迷惑をかけることになる。蒼は教壇に立つと深々と礼をする。そして「先輩達にはご迷惑をかけて申し訳ありません。どうか僕を許してください。藤野健也先輩と勝負をさせてください。お願いします」と先輩達全員に訴えた。



 先輩達は「頑張れー」「応援してるぞー」と声をかけてくれた。教室の中はお祭り騒ぎだ。アピールタイムが設けられた。僕が先に挨拶をする。琴葉ちゃんが入念にメイクを直してくれる。



「僕は2年3組の空野蒼大といいます。どうか僕に勝たせてください。お願いします」



 僕はまた深々と礼をした後に、先輩達に煌めいた笑顔を送った。男女を問わず先輩達が顔を真っ赤にする。女子生徒の中にはウットリしている女子も多い。



 次は藤野健也だ。



「皆も知ってると思うが、元生徒副会長の藤野健也だ。よろしく頼む」



 藤野健也はいつものように髪の毛をかき分けて、爽やかな笑顔で笑う。歯がキラリと光って眩しい。



 教壇の上に段ボールで作られた箱が置かれた。その中へ1人1人、投票していく。



「私も参加します」



 走って駆け付けたのだろう香織が教室の中へ入ってきた。用紙をもらって名前を書き込んで箱の中へ入れる。全員の投票が終わると、琴葉ちゃんが集計に入った。用紙をより分けていく。琴葉ちゃんが教壇に立って、集計結果を発表する。



「27対0で、蒼ちゃんの勝ち。今回の人気者投票の勝者は空野蒼大くんと決まりました」



 琴葉ちゃんは誇らしく胸を張って、僕の腕をあげる。



「そんなバカな!1票も僕の所に入っていないなんて、これは八百長だ」



 男子の先輩達の中から声が上がった。



「健也の爽やかスマイルなんて、毎日、見飽きてるんだよ。それに蒼ちゃんのほうが絶対に可愛いだろう。男とわかっていてもウットリするぞ」



 女子の先輩からも声があがる。



「蒼ちゃんの可愛さは神よ。癒しよ。パーフェクトよ。ウットリしちゃう。持って帰って可愛がりたい。お持ち帰りしたい」



 僕を褒め称える声が、クラス中にこだまする。藤野健也が四つん這いに崩れ落ちた。



 琴葉ちゃんがパンパンと手を叩く。



「さっきの敗者の条件を覚えているわね。今後、瑞希ちゃんに一切、拘わらないこと。瑞希ちゃんのことを諦めること。わかったかしら健也くん。あなたは負けたの。だから瑞希ちゃんのことを諦めなさい。これは正当な勝負での決着よ。約束は守りなさいね」



 藤野健也は小さい声で「わかった。瑞希のことは諦める」と呟いた。藤野健也の背中を香織がさすっている。そして、藤野健也を立ち上がらせると、2人で教室のドアのほうへ歩いていく。



 香織が僕のほうへ振り向いた。そして藤野健也の横で爆弾発言をする。



「蒼大、勝利、おめでとう。私も蒼大にときめいちゃった。蒼大のこと好きよ。また今度、連絡するわ」



 香織はにっこりと笑って、藤野健也と教室を出て行った。するとそれを聞いた、美咲姉ちゃん、楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃんの声がこだまする。




「「「「蒼ちゃんは私のものよ」」」」




 その言葉を聞いた瑞希が絶叫する。



「蒼は私の宝物なの。絶対に他人なんかに渡さないんだからー!」



 瑞希は僕に飛びついて、抱きしめると僕の頬にキスをする。クラス中が大騒ぎだ。藤野健也は倒したけど、状況が悪化したように思うのは僕だけだろうか。取り乱した瑞希をなんとかなだめる。

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