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39話 3人のお姉ちゃん

 放課後になっても瑞希姉ちゃんは教室に現れなかった。僕は心配になって鞄をもって、自分の教室から出て、1階の廊下を歩く、確か瑞希姉ちゃんのクラスは3年6組のはずだ。僕は3年6組のクラスを覗く。



 瑞希姉ちゃんは机に突っ伏して、顔を伏せている。楓姉ちゃん、恵梨香姉ちゃん、凛姉ちゃんの3人が瑞希姉ちゃんの机の周りを取り囲んでいる。



 僕はそっと教室のドアの所にたって見ていると、楓姉ちゃんと目があった。



「いいところに来たわ。蒼ちゃん、瑞希ったら昼休憩が終わってから様子が変なのよ。蒼ちゃんが元気づけてくれるかしら」



 恵梨香姉ちゃんと凛姉ちゃんも僕を見る。



「瑞希がこんなに参ってるなんて、今まで見たことがないわ。一体、昼休憩に何があったよ」



「瑞希はいつもは姿勢正しく、授業を受けているのに、昼休みを過ぎてから、この有様よ。こんなの瑞希らしくないわ」



 そうですよね。僕もこんなに参ってる瑞希姉ちゃんを見るのは初めてだ。3人のお姉ちゃん達は僕の手を掴んで教室の中へ連れ込んで、瑞希姉ちゃんの隣に僕を立たせた。



「瑞希姉ちゃん、大丈夫?僕だよ。蒼大だよ。わかるかな?」



 瑞希姉ちゃんがボソボソと独り言を言っている。



『琴葉ちゃんに蒼ちゃんを取られた。琴葉ちゃんに蒼ちゃんを魅了された。私に魅力がないから・・・・・・』



 確かに琴葉ちゃんの大人の色っぽい魅力には瑞希姉ちゃんが勝てるはずがない。だって瑞希姉ちゃんはまだ、高校3年生なんだから。高校3年生であんなに色っぽかったら逆に怖い。



 僕は瑞希姉ちゃんの耳元に口を近づけてささやく。



『瑞希姉ちゃんはきれいで可愛いよ。僕は瑞希姉ちゃんのことしか見えない。僕は瑞希姉ちゃんのものだよ。瑞希姉ちゃんが世界で1番、大好きだよ』



 僕のささやきを聞いた瑞希姉ちゃんの耳がピコピコと動く。耳だけ動くなんてすごく器用だな。瑞希姉ちゃんはガバっと立ち上がると、僕の腰に手を回してギュッと、僕を抱きしめた。そして、僕の頬に自分の頬を擦りつける。どうやらここがどこかわかっていないらしい。



 こんなところで抱き着くなんて、ここは3年生の教室だよ。皆が見てるよ。恥ずかしい。



 3人のお姉ちゃん達から「キャー」と黄色い歓声が沸いた。教室にいる先輩達が全員、僕達のことを見る。これはダメだ。噂は本当だったと確信されること確定だ。



『蒼ちゃん、嬉しい、私も蒼ちゃん大好き』



 瑞希姉ちゃんがウットリとして目で僕を見つめて呟いた。



 恵梨香姉ちゃんがニヤリと笑う。



「瑞希ったら、蒼ちゃんにメロメロじゃん。これは面白くなってきた」



 楓姉ちゃんが頬をピンク色に染めて、体をモジモジと動かしている。



「瑞希ったら、大胆すぎよ」



 凛姉ちゃんがキリっとした顔付で瑞希姉ちゃんを見る。



「瑞希、ここは教室だ。場所を考えろ」



 瑞希姉ちゃんが3人の声でハッと我にかえる。そして教室中をキョロキョロと見回して「ハワァ」と奇声をあげる。本当にここが教室だってことを忘れていたみたいだね。大変なことになったよ。



 瑞希姉ちゃんが僕を見て涙目になっている。



「どうして?ここ教室?私、何を口走ったの?」



 完全にパニックを起こしてる。なんとかしなきゃ。



「大丈夫だよ。小さな声でしか呟いてないから、お姉ちゃん達3人にしか聞こえてないよ」



 僕はやんわりとした笑顔で瑞希姉ちゃんの肩をポンポンと叩く。



 ここはウソを言ってでも、何を口走ったかは、ごまかすしかない。でも瑞希姉ちゃんが僕に抱き着いたことは、クラス全員が見ている。ごまかしようがない。



 藤野健也が僕達に近づいてきた。



「瑞希、これは一体どういうことだい。僕に断りもなく、瑞希と蒼大くんが付き合うなんて、そんなこと、僕は許せないな」



 イヤな先輩がやってきたな。せっかく瑞希姉ちゃんを落ち着かせようとしてるのに、近づいてくるなよ。



「僕が瑞希のことを、ずーっと想い続けていることは、瑞希が一番に知ってるじゃないか。なぜ、僕を無視するんだ。瑞希、僕だけを見てくれ」



 藤野健也ってイケメンだけど、頭脳明晰だけど、スポーツ万能だけど、残念な先輩だな。本当に性格が残念だ。香織もこんなお兄ちゃんのどこがいいんだろう?



 楓姉ちゃんが瑞希姉ちゃんを庇うようにして立つ。



「瑞希、早く帰る用意をしましょう。早く勉強道具を片付てね」



 恵梨香姉ちゃんが藤野健也を見る。



「健也、いちいち、うるさい」



 凛姉ちゃんが僕に微笑む。



「健也のことは放っておいていいから。蒼ちゃんは心配しなくていいよ」



 楓姉ちゃんが鞄に勉強道具を詰め込んで、瑞希姉ちゃんに持たせると、一緒に歩き出した。恵梨香姉ちゃんと凛姉ちゃんが僕の手を持って、教室を出るために歩きだす。



 後から藤野健也の声が聞こえてくる。



「瑞希、必ず、君のハートは僕がゲットしてみせる。君は僕を見直す日が必ずくるから、待っていてくれ」



 恵梨香姉ちゃんが「誰もお前のことなんて待ってねーし」と小声で呟いた。僕も同感だ。キモイ。



 3人のお姉ちゃん達と瑞希姉ちゃんと僕は校舎を出て校門を潜る。



 恵梨香姉ちゃんがクルリと振り向いて、僕と瑞希姉ちゃんを見てにっこりと笑う。



「さて、学校も出たことだし、ゆっくりした場所で、2人の話を聞かせてもらいましょうか?絶対に逃がさないから」



 楓姉ちゃんが僕の腕に自分の腕を絡ませる。楓姉ちゃんの巨乳がムニュっと僕の腕に当たる。柔らかくて気持ちがいい。



「私も2人のこと聞きたいな。だって私も蒼ちゃんみたいな弟がほしいから」



 凛姉ちゃんが瑞希姉ちゃんの手を握る。



「私達は瑞希と蒼ちゃんの味方だ。だから2人共、事情を話してくれないか」



瑞希姉ちゃんが困った顔をして僕を見る

”どうしよう。どこまで話したらいいの?”


僕は首を横に振る。

”同棲のことは絶対にバレちゃダメだよ”



 恵梨香姉ちゃんがニヤリと笑って僕の肩を持つ。



「2人で見つめ合って、何を相談してるのよ。大通りの喫茶店にいくわよ」



 僕と瑞希姉ちゃんはいつもの道を外れて、路地へと歩いていく。もちろん3人のお姉ちゃん達も一緒だ。



 路地を曲がって大通りに出る。大通りを真っすぐに駅へと向かって歩いていくと、以前に葵さんと入ったことのある喫茶店があった。3人のお姉ちゃん達は僕と瑞希姉ちゃんを捕まえたまま、喫茶店に入っていく。



 店の中はオシャレなピアノの演奏が流れている。ジャンルはジャズだと思う。僕達は大きい楕円形のテーブルに座る。そして皆、それぞれの飲み物を頼んだ。



 恵梨香姉ちゃんがテーブルに手を置いて、僕と瑞希姉ちゃんを見る。



「さて、2人の馴れ初めを教えてくれるかな?それと今、どういう状況になっているか教えてほしいな」



 瑞希姉ちゃんがポツポツと語り始めた。小学校3年生の時まで僕がこの街に住んでいたこと、その時の幼馴染だったこと。僕が他の街に引っ越ししてからも、ずっと会いたくて待っていたこと。そして僕が今年の2学期になってこの街に戻ってきたこと。家が隣同士で今では一緒に登校していて、お弁当も瑞希姉ちゃんが作って2人で一緒に食べていると語った。



 瑞希姉ちゃんは小さい頃から僕のことが好きだったことを言って、テーブルに突っ伏した。



 僕は2学期にこの街に帰ってきて、瑞希姉ちゃんのことを思い出して、ずっと幼馴染の世話好きなお姉ちゃんとして接してきたが、最近は少しずつ、瑞希姉ちゃんのことが気になり始めていると説明する。



 楓姉ちゃんはおっとりと笑んで、雰囲気を柔らかくしてくれる。



「それじゃあ、瑞希はずっと昔から蒼ちゃんのことを好きで世話をしていたというのね。そして、最近では蒼ちゃんも瑞希のことが気になり始めたというわけね。じゃあ、2人は両想いなのね。素敵じゃない」



 凛姉ちゃんが微笑む。



「瑞希の初恋が実ったわけか。それはおめでとうだな。でも2人はまだ告白はしていないのか?」



 恵梨香姉ちゃんが鼻息を荒くしている。



「ここまでくれば、告白なんて関係ないんじゃない。2人が両想いをわかり合っているんだから」



 楓姉ちゃんは僕の手を握る。



「それでも女の子は告白を待っているものよ。だってきっちりとお付き合いしたいんだもの」



 凛姉ちゃんが不思議な顔をして僕を見る。



「瑞希は準備万端なようだが、なぜ、蒼ちゃんは瑞希に告白しないんだ?」



 最近まで自分が瑞希姉ちゃんに恋をしていることに全く気付いていなかったことを説明する。

今までお姉ちゃんと思ってきていた意識が強すぎて、どうしても1人の女性として切り分けて瑞希姉ちゃんを見ることが難しかったことを話した。



 楓姉ちゃんがにっこりと笑う。



「確かにお姉ちゃんとして好きなのと、1人の女性として好きなのとは意味がちがうものね」



 幼馴染のお姉ちゃんだからこそ、1人の女性として見るのは難しい。それでも、瑞希を1人の女性として見ようと努力した、蒼ちゃんは偉いと言われた。



「それで、最近は1人の女性として見ることはできてるの?」



 僕は顔を少し引きつらせって頷いた。



「最近はずいぶん見方が変わってきたと自分では思っています。まだまだですけど」



 凛姉ちゃんがポンと自分の両手を合わせる。



「蒼ちゃんがきっちりと瑞希を1人の女性として見ることができるようになったら、告白するということね」



 さすが女子高生3人組。追及が厳しい。



「はい、そのつもりでいます。告白するなら、僕から瑞希姉ちゃんにきちんとしたいです」



 3人のお姉ちゃん達から拍手が沸き起こった。瑞希姉ちゃんは目に涙をためて「嬉しい」と呟いている。



 恵梨香姉ちゃんがいたずらっぽい笑いを浮かべる。



「両想いなのもわかったし、いずれ蒼ちゃんから瑞希に告白することもわかったわ。それを邪魔するつもりはないわ。でもね私達も蒼ちゃんを気に入ってるの。蒼ちゃんみたいな弟がほしいの。瑞希が彼女になってもいいから、私達を蒼ちゃんのお姉ちゃんにしてよ」



 3人のお姉ちゃん達がめいめいに「蒼ちゃんを弟にしたい」と言い始めた。僕は「瑞希姉ちゃんが彼女になったら、お姉ちゃんがいなくなるから、別にいいですよ」と答える。すると3人のお姉ちゃん達は大喜びだ。



瑞希姉ちゃんが困った顔で僕を見る

”そんなこと、この3人に約束しちゃだめよ。蒼ちゃんのこと狙ってるんだから”


僕は瑞希姉ちゃんの手を握った。

”大丈夫だよ。その時は瑞希姉ちゃんが僕の彼女になってるんだから”


瑞希姉ちゃんが首をゆっくりと横に振る。

”あなたは3人の性格を知らないから、のほほんとしてられるのよ”


僕はふわりとした笑顔を瑞希姉ちゃんに向ける。

”3人共、僕達のことを応援してくれるって言ってるから大丈夫だと思うよ”



 楓姉ちゃんが僕へ寄りかかると耳元でささやいた。



『楓お姉ちゃんにはいっぱい甘えてもいいからね。前の瑞希みたいに頼って、甘えてね。待ってるから』



 僕はその色っぽいささやきを聞いて、顔を真っ赤に染める。



 恵梨香姉ちゃんがニヤニヤ笑って僕を見る。



「今度、休みの日に、皆で温泉にでも行かない?受験の準備ばかりで体がバキバキなのよね。もちろん蒼ちゃんも一緒でね」



 瑞希姉ちゃんが肩をワナワナさせて立ち上がって3人のお姉ちゃん達に指を差す。



「私の蒼ちゃんに手を出さないで。私が蒼ちゃんの彼女になっても、蒼ちゃんのお姉ちゃんは続けます。絶対に蒼ちゃんを誰にも渡しません」



 静かなムードの喫茶店の中で、瑞希姉ちゃんの声が響きわたった。3人のお姉ちゃん達は笑いだす。僕は恥ずかしくて早く喫茶店から逃げ出したかった。

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