38話 琴葉ちゃん
琴葉先生がクンクンと僕の匂いを嗅いでいる。そんなに僕の匂いは臭いのかな。
「蒼大くん、あなたの体から女性の香りがするわね。これは瑞希ちゃんの香りね。こんなに香りがつくほど、毎日ベッタリと一緒にいるのね」
マズイ。この先生、鼻が良すぎる。それに勘もよさそうだ。
僕は3歩後退りして、保健室から逃げようと保健室のドアへ振り向こうとする。しかし、その腕を琴葉先生に掴まれてしまった。
「私に用事があったんじゃないの。何を焦って逃げようとしてるのかしら。そんなに怖がらなくても食べたりしないわよ」
琴葉先生がニヤリと笑う。なんだか怖い。本当に食べられそうな気がする。早く用件だけを済ませて帰ろう。
「僕と同じクラスの蓮のことで相談にきたんです」
蓮が今、同じクラスの柏葉芽衣という女子の周りをウロチョロしていて、芽衣がそのことで困っていること。芽衣から琴葉先生の言うことだったら、蓮も従うと聞いて琴葉先生のところまで来たこと。蓮に注意をしてもらいたいことを説明する。
「ん~、それは、どうしようかしら。蓮ちゃんのことは私も大好きだし、できることなら注意なんてしたくないわ」
琴葉先生って一筋縄では話が通じなさそう。これは諦めたほうがいいかもしれない。
「私も条件次第では、蓮ちゃんに注意してあげてもいいけど・・・・・・蒼大くん次第ね」
イヤな予感がする。これは撤退したほうがよさそうだ。
「琴葉先生が乗り気でないなら、無理は言えません。変な頼みごとをして申し訳ありませんでした。失礼します」
僕は保健室のドアのほうへ逃げようとするが、琴葉先生はいっこうに腕を離してくれない。
「なんで逃げようとするのかな。そんなに私が危険な女性に見えるのかしら?」
はいそうです。特にエロさが半端じゃないし、勘もいいし、何を考えているのかわからない所が怖い。
「ねえ、瑞希ちゃんとはどこまで進んでるの?もうやっちゃった?」
僕は目を白黒させる。この先生、何を考えてるんだ。僕達は何もしてません。時々、抱っこし合うだけの健全な関係です。
「僕と瑞希姉ちゃんは何も関係ありません。噂が大きくなって拡大しているだけです。そのことで僕も瑞希姉ちゃんも困っています」
「困っているのは蒼大くんだけじゃないの。私も瑞希ちゃんとは付き合い長いけど、瑞希ちゃんがそれぐらいのことで慌てたりしないと思うわ」
確かに瑞希姉ちゃんは困っていない。瑞希姉ちゃんは僕と付き合っていることを全校生にアピールするつもりでいるからね。僕は注目されたくないから困っているけど。
「・・・・・・」
「わかったわ。瑞希ちゃんとのことは深く聞かないことにしましょう。それと蓮ちゃんへの注意ね。引き受けてもいいわよ。条件は私の肩揉みでいいわ。いつも蓮ちゃんに肩を揉んでもらってるんだけど、最近、肩が痛くてたまらないのよ。休憩時間に来て、私の肩を揉んでくれないかしら。それで手をうちましょう」
そんなロケットみたいな胸をもってたら、誰でも肩をこると思う。
琴葉先生は僕の腕を持ったまま、椅子をクルリと回して、肩をちょんちょんと指差す。仕方なく肩揉みをはじめる。琴葉先生は僕が肩を揉みやすいように髪の毛を束ねて上に持ち上げた。
なんてきれいな項なんだ。セクシー過ぎです琴葉先生。蓮も項を見たいために肩を揉んでいたに違いない。
僕は丁寧に、少し力を入れて肩を揉みほぐしていく。
「あ~いいわ。気持ちいい~。そこ、そこがこってるのよ。蒼大くん、とても上手いわ。もっとして~」
琴葉先生の口から喘ぎ声のような色っぽい声がほとばしる。エロい。エロ過ぎる。鼻血が出そうだ。
琴葉先生が何気なく、胸を持ち上げた。僕が肩を揉んでいる角度からはロケットのような胸が丸見えだ。僕の目が胸に集中する。琴葉先生がクスクスと笑っている。僕が胸をガン見していることがバレてるんだ。琴葉先生、知っててやってるな。確信犯だ。
「蒼大くんも立派な男の子なのね。高校生だもんね。見たいわよね。本能だから仕方ないわよ」
僕は顔を真っ赤にして、顔を逸らす。
「あ、揉んでポイントがずれちゃった。もっとキチンと肩を揉んでちょうだい。肩を見ないときちんと揉めないでしょう」
これは軽い拷問だ。男子高校生には刺激が強すぎる。それでも僕は理性を総動員して、肩だけに集中して肩揉みを続ける。
「もっと、もっと強くして~。そこを強く~。気持ちいいわ。蒼大くん最高。才能あるわ」
そんな色っぽい、エロい声で褒めないでください。そんなに大声を出されると保健室の外まで聞こえちゃうよ。外で誰かに聞かれたら、絶対に誤解される。
肩を揉み終わって、手をプラプラとさせる。けっこう指先が疲れたな。強く揉んでいるのに効き目が薄いんだもんな。
琴葉先生が椅子をクルリと回して、僕の方へ体を向ける。
「ありがとう。少しの間だったけど、ずいぶんと肩が楽になったわ。蒼大くん。ありがとう。蓮ちゃんのことは任せて。ちゃんと注意しておくから。それから、これからは蒼大くんのこと、蒼ちゃんって呼ぶから、私のことは琴葉ちゃんって呼んでね。よろしくね」
あんまり親密な仲になりたくない。瑞希姉ちゃんに誤解されたら、本気で怒られそうだ。
僕は深々と礼をして保健室を出た。そして廊下を歩いて、階段をのぼって教室へ戻って芽衣の席まで行く。芽衣はにっこり笑って僕を見つめている。
「琴葉先生に蓮のことを頼んできたよ。琴葉先生、蓮に注意してくれるそうだよ」
そのかわり、僕の精神力がガリガリと削られたけどね。
「さすが蒼大だわ。絶対に琴葉先生が気に入ると思ったもの。琴葉先生って可愛いもの好きだから」
それを知ってて、僕を売ったのか。芽衣、全て計算づくなんだね。その頭の良さを他に使ってほしい。
僕は芽衣をジーっと見る。そして芽衣の胸を見る。琴葉ちゃんに負けないくらいのロケットのような胸が、そこにあった。蓮の好みがわかったような気がする。蓮って巨乳好きなんだな。
「私の胸を見て、何を考え込んでるのよ。蒼大、失礼よ」
「芽衣も肩がこりそうだなと思っただけだよ。これで芽衣からの要件は済ませたからね」
僕は自分の席に戻って椅子に座る。
授業が始まるチャイムが鳴って、科目教科の先生が教室に入ってきた。僕の頭の中で琴葉ちゃんの色っぽい声がこだまする。そしてあの胸と項が頭から離れない。やっぱり大人の女性の本物の色気ってエロいな。
頬が自然と緩んでしまう。
咲良から机に付箋が貼られた。「何、ボーっとして、顔をニヤつかせてるの?ちょっとキモイ」と書かれている。咲良にどういう返事を書けばいいんだろう。本当のことを書けば、ドン引きされるよな。マズイ。「昨日のテレビを思い出してただけだよ」と付箋に書いて咲良の机に貼る。
咲良からまた付箋が机に貼られる。「テレビを思い出してる顔じゃなかった。なんかエロいことを考えているような顔だったよ」と書いてある。
どうしてそこまで僕の顔を観察してるんだよ。そんな暇があったら勉強に集中してほしい。僕だってたまにはエロいこと考えちゃうよ。付箋には「勉強に集中するように」と書いて、咲良の机の上に付箋を貼った。隣の咲良から不機嫌な視線が向けられる。
琴葉ちゃんの深いスリットの入ったスカートから見える長くてきれいな脚を思い出す。きれいで長い脚だったな。本当にスタイルいいよな。黒のストッキングがエロい。僕の頭の中に色々な琴葉ちゃんが浮かんでくる。琴葉ちゃんに魅了の魔法にでもかけられたみたいだ。頭から琴葉ちゃんのことが離れない。
そんなことを考えている間に午前中の授業が終わった。昼休憩になると、瑞希姉ちゃんが僕を迎えに教室に来てくれた。
僕は瑞希姉ちゃんと一緒に校庭の中庭へ行く。やっぱり瑞希姉ちゃんってスタイルいいな。胸もけっこう大きいな。脚もきれいで長いし。腰もキュっと締まってるし、項もきれいだな。瑞希姉ちゃんが人気があるのも納得できるな。
瑞希姉ちゃんと中庭のベンチに座って、お弁当を広げる。
瑞希姉ちゃんがふわりと微笑む。しかし、目の奥が笑っていない。
”さっきから私の体ばかり見て、何を想像してるの”
僕は慌てて、首を横に振る。
”決してエッチな目で瑞希姉ちゃんのことを見てません”
瑞希姉ちゃんが本当?という顔で、僕の瞳を覗き込んでくる。
”少しだけ、瑞希姉ちゃんのことエッチな目で見てしまいました”
「今日、何があったの?正直に話してくれるわよね。蒼ちゃん」
瑞希姉ちゃんの眉がピクピクしてる。これはマズイ。僕は目を逸らす。
「蒼ちゃんが私に隠し事するの?」
今度は上目遣いで目をウルウルさせて訴えてきた。この攻撃には僕も弱い。
休憩時間に保健室へ行って、蓮の行動を注意してくれるよう琴葉ちゃんに頼んだことを白状する。
「それだけじゃないわね。他に保健室で何があったの?隠さずに話して、蒼ちゃん」
琴葉ちゃんに、蓮に注意をするかわりに、肩を揉んでくれと頼まれて、肩揉みをしたことを素直に白状した。
「ダメじゃない。蒼ちゃんみたいな純情でウブな男の子が、琴葉ちゃんの近くに行ったらダメ。琴葉ちゃんの魔力で魅了されちゃうわよ」
はい。既に魅了されてます。頭の中はエロい琴葉ちゃんでいっぱいです。
「琴葉ちゃんを見るなら私を見て。私だってスタイルいいんだよ。琴葉ちゃんには負けないんだから」
はい。瑞希姉ちゃんがスタイルがいいのも、きれいなのも理解してます。しかし、あの琴葉ちゃんの大人の女性の色香には勝てません。エロすぎだから。
瑞希姉ちゃんが目に涙を浮かべだした。
「あの可愛かった蒼ちゃんが、琴葉ちゃんと出会ったせいでエロエロに変っちゃんだよ。琴葉ちゃんのことなんて忘れて。私だけを見て。私だって、後、数年もしたら琴葉ちゃんの色香ぐらい、抜かすんだから」
今が大事なんです。
瑞希姉ちゃんはご機嫌斜めになって、お弁当をやけ食いする。僕のおかずまで取るのはやめて。瑞希姉ちゃんにお弁当を食べられる前に、早く食べなくちゃ。僕もお弁当を早食いする。
お弁当を食べ終わると、瑞希姉ちゃんが席から立ち上がって、僕と手を繋ぐ。そして中庭を急いで出ると保健室まで直行する。僕は何度も立ち止まろうとするが、瑞希姉ちゃんの歩みは止らない。
瑞希姉ちゃんが保健室のドアを勢いよく開けた。すると琴葉ちゃんがお弁当を食べながら、蓮に肩揉みをされている最中だった。
「ヤバい。瑞希姉ちゃんだ」
蓮は肩揉みをやめて、保健室から逃げていった。僕も逃げたい。これから何が起こるんだろう。
「琴葉ちゃん。私の大事な蒼ちゃんをエロエロにしないで。蒼ちゃんは純情でウブなんだから」
瑞希姉ちゃんが大きな声で琴葉ちゃんに訴える。その声は廊下まで響きわたった。
瑞希姉ちゃん、興奮してるのはわかるけど、僕が純情でウブって大声で叫ぶのはやめてほしい。
「男子高校生は誰でも少しはエロいものよ。それは瑞希ちゃんの幻想よ。男子高生なんて、誰でも少しはエッチなことを想像してるものよ。蒼ちゃんも例外じゃないわ」
「私から蒼ちゃんを取らないでー!私の蒼ちゃんなんだからー!」
瑞希姉ちゃんの絶叫が1階に響きわたった。その迫力には琴葉ちゃんも顔を引きつらせている。絶叫された僕も顔を引きつらせた。
瑞希姉ちゃんはそのまま床にペタリと座り込んで泣き始めた。琴葉ちゃんはからかい過ぎたのを反省するかのように、瑞希姉ちゃんの背中をさすって、謝っている。
「ここは私に任せて、蒼ちゃんは教室に戻りなさい。ここは女性2人で話したほうがいいから」
琴葉ちゃんはにっこり笑って、僕を保健室から追い出した。僕は戸惑いながらも教室に戻ることにした。
琴葉ちゃん、頼みましたよ。放課後までに瑞希姉ちゃんの機嫌を直しておいてくださいよ。
僕は心の中でそう祈った。




