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35話 自己嫌悪

 家に帰って、僕は1人部屋にこもった。どうしても罪悪感が沸いてくる。でも、咲良のことはクラスメイトの仲良しの女子としか見ることができない。そしてそれ以上に発展したいとは思えなかった。



 咲良からはっきりしてほしいと告白してきたのだ。だから僕ははっきりと答えてあげるほうが良いと思って咲良のことを振った。だが、後味のよいものではなかった。



 どうにかすれば彼女を笑顔にすることができたのかもしれない、もっと良い方法があったのかもしれないと思うと心が苦しかった。それは僕が思っているだけの幻想で、僕が咲良を受け入れない限り、彼女の笑顔はないと心のどこかではわかっている。そして、僕は咲良を受け入れなかったのだから、咲良を笑顔にしてあげることはできない。そのことはわかっている。



 僕は瑞希姉ちゃんと咲良とどちらが大事かと聞かれて、瑞希姉ちゃんのほうが大事だと答えたのだ。その心に偽りはない。瑞希姉ちゃんから告白されているとか、僕から瑞希姉ちゃんに告白しているなんてことは関係ない。僕にとって瑞希姉ちゃんは必要な人で、もしいなくなると僕が壊れてしまう。僕が僕として動けなくなる。咲良と比べることなんてできるはずもない。



 世界中の中で僕が1番、必要としてるのは瑞希姉ちゃんだ。これは僕の勝手な考えで、自分勝手な、自己中なことは自覚している。でもこれが僕という卑怯な人間の考えている。決定していることなんだ。



 僕はなんて卑劣で傲慢な人間なんだろう。なんて自分勝手で自己中な人間なんだろう。僕は瑞希姉ちゃんにも優しくしていないのかもしれない。瑞希姉ちゃんを大事にしていないのかもしれない。



 ただ、瑞希姉ちゃんの優しさが欲しくて、瑞希姉ちゃんの愛が欲しくて、瑞希姉ちゃんの温もりが欲しくて、瑞希姉ちゃんを独り占めしているだけの子供じゃないのか。僕は自己保身のために瑞希姉ちゃんの傍にいるだけじゃないのか。



 それを瑞希姉ちゃんへの愛とは言わないだろう・・・・・・僕は所詮自分のことしか考えていない人間なんだ。



 学校から帰ってきてから自己嫌悪な考えばかりが、僕の頭の中をグルグルと繰り返す。



 瑞希姉ちゃんが家に帰ってきた。玄関を開ける音でわかる。階段をのぼってきた。僕の部屋をノックする。そして僕の部屋を瑞希姉ちゃんが覗く。そして僕の顔を見て、駆け寄ってくる。そしてベッドの上で放心状態になっている僕の頭を抱え込んだ。



「咲良ちゃんをキッチリと断ってあげたんだね。蒼ちゃん、大丈夫?顔色が真っ青だよ」


「心配してくれて、ありがとう・・・・・・大丈夫だよ」


「今、何を考えてるの。お姉ちゃんはそのことのほうが気になるわ」


 瑞希姉ちゃんの顔は真剣だ。真剣に僕のことを心配してくれている。


「後味悪い・・・・・・最悪だ・・・・・・」


「・・・・・・」



「自分がどれだけ、傲慢で自己中な人間か再認識させられた。瑞希姉ちゃんもこんな最低で傲慢で自己中で自己保身ばかりの、僕みたいな人間から離れたほうがいい。瑞希姉ちゃんが僕のために犠牲になっちゃうよ」



「どうしたの?何を考えてるの?蒼ちゃんはそんな人間じゃないよ。自分を追い詰めるのは止めて」


「今日は夕飯はいらない。瑞希姉ちゃんも受験勉強を頑張って。今日は僕を1人にしてほしい」


「そんなことできるはずがないじゃない。こんな蒼ちゃんを放っておけないわよ」



 僕はベッドから立ち上がて、優しく瑞希姉ちゃの体を触って、自分の部屋から瑞希姉ちゃんを外の廊下に出して、ドアをを閉めて、ドアにもたれて、座った。



 ドアの外から瑞希姉ちゃんのドアを叩く音が聞こえる。それでも僕はドアを開けなかった。瑞希姉ちゃんは自分の部屋へと戻っていった。私服に着替えるためだろう。



 僕はその間に1階に降りて、玄関から外へ出た。家にいたら瑞希姉ちゃんが心配すると思ったから。外に出て1人になりたかった。僕はあてもなく路地を歩く。そして大通りに出る。大通りをよろよろと歩いていく。



 僕よりも年上の男性と道で肩がぶつかってしまった。年上の男性は僕の肩を掴んで恫喝をしてくる。僕はどこか他人事のように、その様子を見ていた。何をそんなに怒ってるんだろう。たかが肩がぶつかっただけなのに、僕が高校生だと思って馬鹿にしてるんだろうな。体も華奢だし、体力もなさそうだし、女顔だし。恫喝したらビビると思ってるんだろうな。馬鹿な大人。



 僕の胸倉を掴んで引きずり回していた男性が僕の顔面に右の拳を叩き込む。そして、倒れこんできたところをひざ蹴りをこめかみに叩き込む。そして倒れた僕の脇腹をトウキックで蹴りつける。そして倒れたままの僕をそのままにして、男性は大通りを歩いて行った。僕はをヨロヨロと立ち上がって歩く。最悪な気分だ。僕なんてどうなってしまってもいい。



 目の前で信号が赤に変わった。僕はどうなってもいいやと歩き始める。周りの皆はそんな僕を見て驚いている。後ろから腕を持たれて、止められた。誰が僕を止めたんだろうと振り向くと目を吊り上がらせた葵さんが立っていた。



「こんなところで何をしてるの?今、赤信号だってわかってるのに歩いて行こうとしたよね。蒼ちゃん、自殺でもするつもりなの。車に勝てるわけないんだよ。顔色も悪いし、口も切れてるし、左目も青くなってるじゃない。さっき大通りで男性と喧嘩してたのは蒼ちゃんなのね。何をやってるの?」


「喧嘩はしてませんよ。僕みたいな貧弱で、体力もない、ヒョロヒョロの学生が、大人に勝てるわけないですよ。僕は一方的にやられていただけですよ。赤信号、教えってもらって、ありがとうございます。失礼します」



 僕は葵さんに頭を下げて、また大通りを歩きだす。葵さんは追いかけてきて、僕の腕を捕まえる。



「今日の蒼ちゃん、変だよ。このまま放っておけないよ。このことは瑞希ちゃんは知ってるの?」


「瑞希姉ちゃんは関係ないです。瑞希姉ちゃんをこれ以上、僕のことで巻き込んじゃいけない。だから瑞希姉ちゃんに知らせないでください」


「今頃、瑞希ちゃん、蒼ちゃんのことを心配しているはずよ。蒼ちゃんの家を教えなさい。葵さんが送って行ってあげるから」


「・・・・・・」



 今日は僕は家に帰るつもりはなかった。明日も家に帰るつもりはない。こんな、傲慢で自己中で、自己保身しか考えていない人間が生きていちゃいけない。僕は瑞希姉ちゃんの知らない土地に行かなくちゃ。このままここにいるなんて、これ以上、傲慢で自己中で、自己保身なことを行動をしちゃいけない。誰も知らない土地に行かなくちゃ。僕なんて消えたほうがいい。



「何があったのはかよくわからないけど、このまま蒼ちゃんを放っておくことなんてできないわ。私の家がすぐ近くなの、まずは私の家に行きましょう」



 葵さんがヨロヨロしている僕の腕を引っ張って信号を渡って、路地を歩いて、自分が住んでいるマンションへ連れていく。葵さんのマンションは12階立てに12階の角部屋だった。僕は葵さんに手をひかれるまま、葵さんの家の中へ入っていく。葵さんが靴を脱がせてくれる。そしてリビングにある小さな3人がけのソファに僕を座らせた。



 初めて、大人の女性の人の部屋に入ったんだな。僕はボンヤリとそんなことを考える。葵さんは別の部屋でどこかに連絡をしているようだ。もしかすると瑞希姉ちゃんかもしれない。また瑞希姉ちゃんに迷惑がかかる。



 僕はヨロヨロと立ち上がって、靴を履いて、ドアを開けようとするとドアチェーンがかかっていて、その音を聞いた、葵さんが別の部屋から飛び出してくる。葵さんにソファに連れ戻される。



 葵さんは台所に立って、僕にアイスオーレを作ってくれた。ソファの前にあるテーブルへアイスオーレを置いてくれる。そして葵さんは僕の隣に座った。



「今、瑞希ちゃんには連絡しておいたわ。ずいぶん心配してたわよ。何も言わずに家を飛び出したんですってね。瑞希ちゃんを心配させてどうするのよ。いったい何があったのか葵お姉さんに言ってみなさい。少し話をすると気分が楽になるものよ」



 今日、咲良を振ったことを話した。そして咲良を受け入れなかったことを、断ったことを話す。そして、僕が瑞希姉ちゃんを思っている心は、甘えたい心だったり、優しくされたい心だったり、優しく包み込まれたい心ばかりで、瑞希姉ちゃんを求めていたんだなと気付いたことを説明した。



 僕は傲慢で、自己中で、自己保身ばかりの人間で、全て自分のことばかりを考えている自分勝手な人間だと気づいたと話した。そんな自分がイヤになって家を飛び出して、街をウロウロ歩いていたと俯いたまま呟く。



「はぁ、蒼ちゃん、本当に高校生なのね。思春期ど真ん中ね。葵さんも思春期の時、そんなことを色々と考えたこともあったな。懐かしいわね。いつの間にか大人になっちゃって、忙しくて、そんなこと考える暇もなくなっちゃったけど」



 葵さんにも、僕と同じ悩みを持ってた時期があったんだ。



「私にも蒼ちゃんと同じように悩んだ時期もあったのよ。5年ほど前になるけどね。5年も前だと昔過ぎるかもしれないけど。確かに蒼ちゃんと同じように考えていた時期もあったわよ。今は大人になって乗り越えたというか、少しは知恵がついたみたいだけどね」



 葵さんはヘラヘラした笑いを浮かべて自分の髪を掻いた。



「今すぐ、蒼ちゃんと話をして、蒼ちゃんを元に戻せるかというと、さすがを葵さんでも無理かもしれないのよ。だから、今、助っ人を呼んだのもうすぐ来ると思うから、それまで葵さんと一緒にここで待ってようね」



 僕はヨロヨロとソファから立ちあがる。すると葵さんも立ち上がって、僕の両肩を持って、真剣な瞳で僕を見つめる。



「蒼ちゃん、逃げちゃあいけない。逃げても解決しない。逃げても直らない。今、逃げたらダメなの。開きなおるのはもっとダメ。きちんと自分の心を解決しないとダメだよ。葵さんと一緒にここに座ってるの」



 僕は無理矢理、ソファに座らされた。その時、インターホンが鳴る。葵さんがチェーンロックを外して、玄関の鍵を開けて、玄関のドアを開ける。



 すると瑞希姉ちゃんが飛び込んできた。

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