31話 新しい始まり
明日香は、アパートから無事に引っ越しとなり、千堂家の一員となった。中学校も転校となり、僕達の街の中学に無事に転校することができた。母さんの仏壇は明日香の部屋に置かれ、位牌も仏壇に置かれて、明日香は毎日のように仏壇に手を合わせてから、中学校に通っている。
明日香の中学の成績は僕が考えていたよりも良かったようで、今は少し遅れているが、これから挽回することが可能だろう。明日香の希望としては、僕の通っている高校に入学したいと思っているらしい。
明日香の引っ越しが無事に終わったのと同時に、瑞希姉ちゃんの引っ越しも終わった。
瑞枝おばさんは、言っていたとおり、瑞希姉ちゃんを家から追い出して、僕の家で2人で秘密の同棲をすることになった。
同棲・・・・・・その言葉が僕と瑞希姉ちゃんの心の中に重くのしかかる。
今まで気軽に一緒にベッドに寝たり、抱き合ったりしていたが、それができない。ギクシャクした状態になった。
だって今の2人は同棲している仲なのだから。
瑞希姉ちゃんは僕の家に引っ越ししてきてから、僕のことを意識してしまい、僕との接触を極力避けている。訳を聞けば、恥ずかしいからだそうだ。
恥ずかしいのは僕も同じだ。瑞希姉ちゃんのことを妙に気にしてしまい、以前のように甘えることができない。
僕と瑞希姉ちゃんは別々の部屋で寝ているが、寂しさがピークに達している。このままではいけないと思って、今、僕と瑞希姉ちゃんはベッドの上でお互いに、顔を見合わせて正座をしている。
僕は瑞希姉ちゃんを見つめる。
”このままの状態はマズイと思うんだ”
瑞希姉ちゃんも僕を見つめる。
”私もこのままだとマズイと思ってるわよ。でも意識しちゃうの”
瑞希姉ちゃんは涙目になっている。
”以前のように蒼ちゃんを抱っこしたいよ~”
僕は瑞希姉ちゃんに優しく微笑む。
”僕も瑞希姉ちゃんに抱っこされたい”
瑞希姉ちゃんが顔を赤くする。
”どうしても、同棲を意識して、恥ずかしくなっちゃうのよ”
ハァとため息をついて僕。
”じゃあ、このまま、また別々の部屋で寝る?”
瑞希姉ちゃんは首を激しく横に振る。
”寂しいの。一緒に寝たいの。寂しいの”
僕は何も言わずに部屋の電気を消した。瑞希姉ちゃんは僕のベッドの布団の中で体を丸めている。微かに体が震えている。
僕もベッドの布団の中へ入る。
お互いに背中合わせの状態で、寝ているが、目が冴えて、全く眠気がこない。隣に瑞希姉ちゃんが寝ていると思うと、眠れない。たぶん、瑞希姉ちゃんも同じだろう。
このままだと、また別々の部屋で眠ることになる。それは僕も瑞希姉ちゃんも望んでいることではない。今までのような関係に戻りたい。
僕は瑞希姉ちゃんのほうへ体を向けて、瑞希姉ちゃんの肩に手をかける。すると瑞希姉ちゃんは寝返りをうって、僕のほうを向く。
2人の目と目があう。僕をパッチリと開けているし、瑞希姉ちゃんも目をパッチリと開けて、僕を見ている。お互いに見つめ合う。
瑞希姉ちゃんが困った顔をする。
”このままだと2人共眠れないね”
僕は覚悟を決めて、布団の中に潜り込むと、瑞希姉ちゃんの体を引き寄せて、胸に顔を埋める。瑞希姉ちゃんの胸から、心臓の音が聞こえる。瑞希姉ちゃんの胸のドキドキ感が僕に伝わってくる。
ここで瑞希姉ちゃんを抱き寄せる手を放したら、瑞希姉ちゃんは恥ずかしくて、隣の部屋へ逃げていくだろう。それはイヤだ。僕は瑞希姉ちゃんの心臓の鼓動を聞き続ける。段々と瑞希姉ちゃんの心臓の鼓動が静かになっていく。そして、心地よい音に変わっていく。僕はそれを聞いて、気持ちよくなって目を瞑る。
すると瑞希姉ちゃんは僕の頭を抱きすくめる。そして背中に手を回してきて、僕の背中を優しく何度もさする。
僕は瑞希姉ちゃんの良い匂いに包まれて、心臓の鼓動を聞きながら、気持ちよく眠りに落ちた。
◆
朝、浅い眠りの中で、布団から顔をあげると瑞希姉ちゃんがスースーと寝息を立てて、気持ち良さそうに眠っている。その寝顔を見て、安心して僕は微睡みの中へ沈んでいく。
「蒼ちゃん、起きて。朝ごはんの用意ができたよ」
僕は優しく肩を揺すられて、目を覚ます。目を開けると、瑞希姉ちゃんがパジャマ姿のまま、ベッドの縁にしゃがんでいた。僕は何も言わずに瑞希姉ちゃんの首へ手を伸ばして、抱き寄せる。
「こんなことしてたら、朝ごはん、食べてる暇、なくなっちゃうよ」と言いながら、瑞希姉ちゃんはベッドの上に横になって、僕を抱きしめる。
久々に安心して眠ることができた。まだ眠っていたい。そんなことを考えていると、両頬を引っ張られた。僕はビックリして目を開ける。そこには笑っている瑞希姉ちゃんの顔があった。
「蒼ちゃんは甘えたさんね。今日の夜、また、抱っこして寝てあげるから、今は起きようね。朝ごはん食べないと、学校に行けないよ」と笑っている。
瑞希姉ちゃんに連れられて、1階まで降りる。そして洗面所で歯を磨いて、顔を洗って、サッパリとする。
瑞希姉ちゃんは髪の毛をおろしたまま、パジャマ姿にエプロンをつけている。
台所のテーブルの上には、焼き魚、卵焼き、納豆、お味噌汁、ご飯が並べられていた。僕がテーブルの椅子に座ると、瑞希姉ちゃんも対面の椅子に座る。
2人で「いただきます」と言い、ゆっくりと朝食を食べる。
「瑞希姉ちゃん、昨日はよく眠れた?」
瑞希姉ちゃんは顔を赤くしてコクリと頷く。
”よく眠れたよ。朝、ちょっと恥ずかしかった”
「僕も同じ」
僕はにっこりと笑う。そして期待の目で瑞希姉ちゃんを見る。
”今日も一緒に寝ようね。楽しみだな”
「蒼ちゃんのエッチ」
今まで一緒に寝ていたけど、そんなことを言われたことをなかった僕は、狼狽える。
「そんな意味じゃないよ」
瑞希姉ちゃんは舌先を唇から出して笑う。
”知ってる。冗談”
僕は安堵の息を吐いた。
いつも食べているが、瑞希姉ちゃんの料理はいつ食べても美味しい。僕はぺろりと完食した。2人で「ごちそうさま」と言った後、2人で朝ごはんの片付けをする。瑞希姉ちゃんが食器を洗って、僕が食器を拭いて、食器棚に片付けていく。
昨日までギクシャクしていた流れも、今日はスムーズだ。いつも通りに戻ったと僕は安堵した。朝ごはんを食べ終わって、僕達は制服に着替えるために2階へ上がっていく。瑞希姉ちゃんも髪をおろしたままのパジャマ姿だし、僕もパジャマ姿のままだ。
瑞希姉ちゃんが引っ越ししてきてから、僕の隣の部屋が瑞希姉ちゃんの個室となった。瑞希姉ちゃんは隣の部屋へ入っていく。僕は自分の部屋に入って、制服に着替えて、鞄に今日の勉強道具一式を入れて、学校に行く準備を整える。
暫くすると部屋のドアが開いて、瑞希姉ちゃんが顔を出す。
”学校に行く準備はできたかな?”
僕は頷いて鞄を持つ。そしてにっこりと笑う。
”大丈夫。学校に行こう”
僕達は1階に降りて、玄関で靴を履いて、玄関に鍵をかけて、道路に出る、そして2人で手を繋いで登校する。
登校している途中で莉子と悠にあった。僕達は2人に「おはよう」と声をかける。莉子がジト目で僕達を見る。
「最近、ギクシャクしていると思ったら、今日は一段と仲良いわね。何かあったのかしら?」
僕は不思議な顔をして瑞希姉ちゃんの顔を見る。
”今日はいつもと、どこが違うかな?”
瑞希姉ちゃんも僕に不思議な顔を向ける。
”どこも、変なところはないと思うけど、わからないわ”
「「どこも変わったことはないけど」」
悠が僕達を見て噴き出した。
「2人でジッと見つめ合うし、2人でハモって返事してるじゃないか。それで今までと同じですって言われても説得力ないぞ。瑞希姉ちゃんも雰囲気が変わったというか、お淑やかになってるし、絶対に変わったぞ2人共」
僕は少し焦って瑞希姉ちゃんを見る。瑞希姉ちゃんも焦って、僕を見る。
””マズイ。バレたら、非常にマズイ””
莉子が顔を赤くして、呆れた顔をする。
「こらこら、蒼大、瑞希先輩、目を見つめ合って会話しない。そんなの仲良い夫婦でもなかなかできないわよ。これじゃあ、絶対に咲良が入り込む余地はないわね。早く咲良を諦めさせなくちゃ」
咲良の名前を聞いて、瑞希姉ちゃんがキッと僕を見る。
”どういうことなの。咲良ちゃんとどういう関係なのよ”
僕はフルフルと首を横へ振る。
”ただのクラスメイトだよ。ただの友達。疑われるところは何もないよ”
瑞希姉ちゃんが繋いでいる手に力を入れる。完全に何かを勘違いしてるね。これは帰ったら質問攻めに合うな。莉子もいらないことを言うなよ。
僕達と莉子と悠は4人でゆっくりと学校へ登校する。学校の近くになっても、瑞希姉ちゃんは僕の手を放そうとしない。
僕は困った顔をして瑞希姉ちゃんの顔を見る。
”いつも、この辺りで、繋いでいる手を放していたのに、今日はいいの?”
瑞希姉ちゃんはにっこりと優しく微笑んだ。
”いいの。もう同棲してるんだから、堂々と登校するの”
僕はハァとため息をついて、諦めたように笑った。
”瑞希姉ちゃんの好きなようにすればいいよ”
莉子と悠がジーっと僕達を見ている。莉子が口を尖らせる。
「いつまで2人で見つめ合ってるのよ。何回、見つめ合えば気が済むのよ。見てるこっちが恥ずかしくなるのよ」
「本当に蒼大も瑞希姉ちゃんも雰囲気が変わったな。一体、どうしたんだ」
「「何でもない。いつも通り」」
また、ハモってしまった。
僕達は逃げるように、足早に悠と莉子から離れて登校する。このまま登校していると、何を言われるかわからない。
僕と瑞希姉ちゃんが手を繋いで登校していると、僕の背中をポンと叩いて、目の前で美咲先輩がクルリと振り向く。
「あれ? 今日は2人で手を繋いで登校しちゃって、仲良しアピールを朝からしてるの? こんなことをすると瑞希は有名人だから、後から大変なことになるわよ」
美咲姉ちゃんはいたずらっ子のような顔で微笑む。
それを聞いて僕は焦って、顔を引きつらせて、瑞希姉ちゃんの顔を見る。
”そういえば、瑞希姉ちゃん、有名人じゃん。これはさすがにマズイんじゃないかな?”
瑞希姉ちゃんはニコニコと笑っている。
”いいの。学校中に蒼ちゃんとの仲を認めてもらうんだから”
そんな大胆なことを考えていたのか。僕にはそんな度胸はないよ。早く繋いでいる手を放さなくちゃ。僕が繋いでいる手を放そうとするが、瑞希姉ちゃんはギュッと握って、絶対に放さないと力いっぱいに掴んでくる。
その様子を見て美咲姉ちゃんが不思議そうな顔をしている。
「何を見つめ合っていたかと思ったら、今度は何を手で遊んでるの。今日の2人って何か変だよ。仲の良い幼馴染っていうより、恋人同士みたい。それも長年連れ添ったカップルみたいね。何かあったの」
「「何にも、ないわ」ありません」
「2人共、声がハモってるわよ。瑞希。これは教室に行ったら、楓達に報告しないとね」
「止めてよ。変な噂を流すのは」
美咲姉ちゃんは逃げるように校門へ走っていった。
僕達は手を繋いだまま、校門を潜って、校舎の中に入り、靴箱の所で分かれる。
瑞希姉ちゃんが笑って、僕の頭を撫でた。
”今日、早く帰ってきてね。待ってるから”
僕もコクリと頷く
”うん、なるべく、早く帰るよ”
2人、見つめ合った後に違いに分かれて、僕は教室へ向かう。
元、生徒会長の瑞希姉ちゃんと、僕が手を繋いで登校してきたことは、昼頃には学校中の噂になっていた。
第2章 同棲編 の始まりです。
読者の皆様、どうか、この作品を温かく見守ってください。
一生懸命、第2章を書き上げたいと思っています。
評価・ブックマーク・励ましコメントをお願いします。
(評価・ブックマーク・励ましコメントは私の書く気持ちの原動力になります。
どうかよろしくお願いします。)
読んでくださった皆さん、ありがとうございますペコリ(o_ _)o))