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26話 孤独はイヤ。独りはイヤ。

 雅之おじさんが朝から学校へ連絡をしてくれた。行方知れずになっていた妹と再会したこと、今、僕の家で保護している。しかし、今、妹の精神面が非常にもろくなっているため、兄である僕の助けが必要な状態であるという内容で学校に連絡を入れてくれた。学校側もそのような事情であれば、休むのことをやむを得ないということになり、僕は引き続き休むことになった。



 どうして、雅之おじさんの言うことが、学校側に通ったのかというと、雅之おじさんが僕の保証人になっているからだ。



 いつの間に、そうなっていたのか、僕にもわからないが、どうも雅之おじさんが僕の父さんの親類と話をしてくれていたらしい。その結果、雅之おじさんが僕の保証人になったという。



 雅之おじさんにはお世話になってばかりだ。本当にご迷惑ばかりかけてすみません。



 朝、瑞希お姉ちゃんに起こされて、すぐに私服に着替えて、瑞希姉ちゃんの家に来た僕は、雅之おじさんに学校へ連絡してもらって、学校を休むことになり、今は自分の家に戻って、瑞希姉ちゃんと朝ごはんを食べている最中だ。



 今日の朝食は焼き魚、漬物、卵焼き、みそ汁、ご飯だ。台所のテーブルに瑞希姉ちゃんと2人で座って「いただきます」と言って朝食を食べる。



「まだ、朝からお疲れ様。明日香ちゃんはまだ眠っているわ。昨日の夜は1日中、お母さんが一緒に寝ていたけど、熟睡したままで、1回も起きなかったって、よっぽど疲れていたようだって、お母さんが言ってたわ」



「雅之おじさんにも瑞枝おばさんにもお世話になりっぱなしで、なんと感謝の言葉を言ったらいいのか、僕にはわからないよ。こんなにお世話になっちゃって、本当にどうしよう」



「何を今更な話を言ってるのよ。お父さんもお母さんも好きでしてるんだから。蒼ちゃんは甘えていればいいのよ」



 僕と瑞希姉ちゃんは朝食を食べながら、明日香の話をする。



「本当は私も今日は休みたかったんだけど、お父さんとお母さんが学校に行くようにって、きつく言われたから、蒼ちゃんと一緒に休めないの。なにかあったら連絡してね。すぐに飛んで帰って来るから」



 瑞希姉ちゃんがいないのは、僕にとっては寂しいが、瑞希姉ちゃんも学校を休んでばかりしていられない。僕と明日香の問題だし、瑞希姉ちゃんには迷惑をかけたくない。学校には行ってもらおう。



「明日香はいつ元気になるかわからないから、今日は瑞希姉ちゃんは学校に行ってきて。僕と瑞枝おばさんが明日香に付いているから」



 2人で朝食を食べ終わって「ごちそうさまでした」と言い、2人で台所に立って、朝食の後片付けをする。それが終わったら、瑞希姉ちゃんは鞄を持って、学校へ出かけていった。



 僕は玄関に鍵をかけて、隣の瑞希姉ちゃんの家にいく。雅之おじさんも仕事に出たらしく、瑞枝おばさんが玄関で出迎えてくれた。僕は玄関で靴を脱ぎ、リビングへ入って瑞枝おばさんの座っているテーブルの対面の椅子に座る。



 昨日は、パジャマに着替えさせてからすぐに、明日香は寝てしまったらしい。だから瑞枝おばさんも何も話せていないという。



「だから、今日は蒼ちゃんと明日香ちゃんの2人で、ゆっくりと話してちょうだい」



 時間はたっぷりあるから焦らないようにと、瑞枝おばさんは言う。後、あまり明日香を刺激しないように、それと「今は傷ついていると思うから優しくしてあげて」と頼まれた。



「この半年間、明日香は誰とも会わない状態で、1人でアパートに住んでいたようです。その孤独感、寂しかった、苦しかった気持ちが1日で癒せるとは思いません。だから明日香が話してくれるまで、ゆっくりと待とうと思います」


「そうね。それが1番だと思うわ。一番大事なことは、このおばさんの家が安心できる場所だって、明日香ちゃんに理解してもらうことだと思うの。そこだけは蒼ちゃんもお願いしていいかしら」


「わかりました。明日香に説明します」



 僕は席を立って、2階の明日香が寝かされている部屋へ行く。ノックをしてから部屋へ入る。明日香はまだ、布団の中で眠っていた。母さんの位牌がどこにも見当たらない。たぶん、明日香が抱いて眠っているんだろう。



 僕は部屋の壁にもたれて、明日香が起きるまで、目を瞑った。すぐに浅い睡眠に入っていく。



 しばらくすると布団の中で明日香が目覚めた。



「蒼お兄ちゃん」



 明日香の声で僕も目を開ける。



「明日香、よく寝たね。少しは気分が落ち着いたか」


「ここはどこ?」


「瑞希姉ちゃんの家だよ。僕達が昔住んでいた家の隣だよ」


「あ、瑞希お姉ちゃんの家、隣だったのを思い出した」



 明日香は布団から上半身だけ起こして部屋の中を見回している。



「当分の間は、明日香は瑞希姉ちゃんの家でお世話になるんだよ。あのまま、あのアパートで暮らしていたら、栄養失調で倒れていたかもしれないからね」


「私は、あのアパートから引っ越しすることになるの?」


「それをこれから明日香と相談するんだよ」



 明日香がこの瑞希姉ちゃんの家が気に入ったなら、雅之おじさんも瑞枝おばさんもここに置いてくれるだろう。僕と一緒に昔の家に住みたいっていうなら、僕はそれでもいいと思う。明日香があのアパートに絶対に住みたいというなら、止めはしないけど、一度、ハウスクリーニングが必要だろうけど。



 明日香は戸惑った目で僕を見ている。



「それって、私が自由に選んでいいってこと?」


「そうとも言えるし、そうではないとも言える」



 これは明日香と僕と雅之おじさんと瑞枝おばさんとで決めることだから、明日香の意見を最優先で聞くけれど、僕やおじさんやおばさんが考えていることは、明日香が安心して、落ち着いて生活できる場所を提供することだから。皆で相談して決めないといけない。



「蒼お兄ちゃんも私のことを真剣に考えてくれえるの?」


「もちろんだよ」



 僕は明日香に向かってにっこりと笑う。なるべく明日香には安心してもらいたかった。



 明日香は母さんが死んで、僕がお葬式にも来なかった時に、蒼お兄ちゃんに私は捨てられたんだと思ったらしい。



「だけど蒼お兄ちゃんのこと諦めきれなくて、1月に2回、お父さんのお墓へお参りに行ってたの。いつか蒼お兄ちゃんに会えるんじゃないかと思って」



「僕は母さんが他界したことも知らなかった」



 母さんが他界した時は、僕が父さんの親類の中を転々として生活していた時期だったから。最後に預けられた親類の家で暮らしている時に、母さんが他界したんだと思う。僕は誰からも母さんが他界したことを知らされていなかった。



 明日香は驚いたように目を見開いている。



「そうだったの。お母さんの親戚が、お父さんの親戚に手紙を出したって言ってたから、蒼お兄ちゃんは知ってるものだとばかり思ってた」


「どこでどうなったのかはわからないけど、僕が母さんの他界を知らなかったことは本当の話だよ」



 もしかすると父さんの親類は知っていたかもしれないけど、なぜ、僕に教えてくれなかったのかわからない。父さんの親類も知っていたとは限らないし。



「どうして明日香が父さんのお墓を知ってたの?」


「お父さんが他界して、すぐにお母さんとお墓参りに行ったことがあったから」


「そうなんだ。母さんは父さんが他界したことを知ってたんだね。意外だったよ」



 僕は明日香の近くへ歩いて行って、隣に座り、明日香の頭を撫でる。



「蒼お兄ちゃんはお母さんのこと恨んでる?」


「ううん、恨んでないよ。あんまり母さんとの思い出は覚えていないんだ。明日香こそ父さんのこと恨んでるかい?」


「ううん、私もお父さんとの思い出をあまり覚えてないの。蒼お兄ちゃんのことはよく覚えていたのにね」



 明日香がそう言って悲しそうに笑った。僕は明日香の背中を撫でる。肉が少なく細い体だ。ずいぶん、痩せたんだろうな。



「あのアパートは母さんと一緒に暮らしていたアパートなの。だから嫌な思い出も良い思い出も、あのアパートには詰まってるの。だから、あのアパートに帰らなくちゃっていう思いもある」



 そうだろうな。長年、母さんと暮らしてきたアパートだもんな。明日香の気持ちは少しはわかる。



「でもね。もう疲れたの。独りに疲れたの。そして、孤独はイヤ。疲れたの。独りになるのはイヤ。蒼お兄ちゃんともこうして会えたんだし、もう寂しい思いをするのはイヤだよ」



 明日香がいきなり泣き出した。目から涙が溢れ出て、頬を伝って流れ落ちる。僕はポケットからハンカチを取り出して、明日香の顔を拭いてやる。



「大丈夫。蒼お兄ちゃんはどこへも行かないよ。だから、明日香はもう独りじゃない。孤独じゃない。ここには瑞希姉ちゃんもいる。雅之おじさんもいる。瑞枝おばさんもいる。だからもう大丈夫だよ」



 明日香は僕の首に縋り付いて泣いた。僕は黙って、背中をさすってやる。段々と泣き止んできて、呼吸が安定してきた。明日香は僕のハンカチで顔を拭いている。



「蒼お兄ちゃん、高校に通ってるんでしょう。今日は学校はどうしたの?」


「明日香がこんな状態なのに、高校に通っている場合じゃないだろう。理由を説明して、休ませてもらったよ」



 本当は雅之おじさんが学校側に事情を説明してくれたんだけど、この辺りは後から説明しなおせばいいだろう。



「どこの高校に通ってるの?」


「家から歩いて15分ほどの高校だよ。一応、進学校になってる。僕もこの2学期に、父さんの家に引っ越してきたばかりなんだ。やっと高校にも慣れてきたって感じかな」



 結構、長い間住んでるような気がしてるけど、僕も9月に入ってから転校してきたばっかりだったな。自分のことなのに忘れているなんて、恥ずかしい。



「私ね、中学3年生なのに、もう半年以上も学校に通ってないの。だから中学卒業しても高校受験は無理かもなって」


「まだ9月だよ。まだわからないじゃないか。明日香の中学のテスト結果も見てないから無責任なことはいえないけどさ。必ず、明日香の通える高校があるはずだよ。大丈夫。今からでも挽回できるよ」


「今の中学には通いにくいな。だって半年以上も休んでるし、友達とも全部、縁が切れちゃってるから、登校するのがとても不安で・・・・・・」



 いったん、長期間、学校を休んでしまうと、そういう気持ちになるだろうな。それも友達と縁が切れた状態だと、余計に行きにくいよな。



「その気持ちはなんとなくわかるよ」



 僕も父さんが他界した後に、父さんの親類の家を転々としていたから、転校ばかりしていて、友達なんていなかった。友達をつくってもすぐに別れないといけないから苦しかった。学校なんて行きたくないって思った時もあった。



「そうなんだ、蒼お兄ちゃんもそんな時期があったんだね。私、どうしたらいいかな?」


「焦って、すぐに答えを出す必要はないよ。今はゆっくりと休めばいい」


 ここでゆっくり休ませてもらって、考えればいい。相談だったら、僕も聞いてあげられるし、瑞希姉ちゃんに相談することもできる。それに雅之おじさんと瑞枝おばさんにも相談できる。今の明日香には4人も相談できる人がいるんだ。焦って決める必要はないよ。今はゆっくりとしよう。明日香には休息が必要だ。



 僕は明日香の頭を撫でてやる。明日香はコクリと頷いた。



「僕は瑞枝おばさんに明日香が起きたことを知らせてくるから、明日香はもう少し、布団の中で寝ていればいいよ」



 僕がそういうと、明日香は布団の中へ潜っていった。僕は部屋を出て1階のリビングへ行く。リビングのソファに座っていた瑞枝おばさんが僕のほうへ振り返る。僕はリビングのソファまで行き、瑞枝おばさんの隣に座った。



「明日香が起きました」


「そう、元気そうだった」


「昨日よりは取り乱していないです」


「そう」



 瑞枝おばさんが僕の顔を見てにっこりと笑う。



 僕は、明日香が母さんと暮らしていたアパートにも未練はあるらしいことを説明する。でも、もう独りはイヤだ。孤独はイヤ。寂しいのはイヤと泣いている明日香の心があることも話す。



「だから、ここで少しゆっくりと休憩しようと言ってきました」



 ここにいれば僕もいるし、瑞希姉ちゃんもいるし、雅之おじさんもいるし、瑞枝おばさんもいるから独りになることはないと明日香に行ったこと説明した。



「ゆっくりと考えればいいって言って、降りてきました。今、明日香は布団の中に潜っています」


「そうね。今の明日香ちゃんに必要なのは、安心して、落ち着いていられる環境ね。それと人の温もりだわ。今はゆっくりとすればいいわ。焦って決める必要なんてないもの。ありがとう。蒼ちゃん」


「いえ、明日香がお世話になってるんです。僕もボーっとしていられないです。いつも瑞枝おばさんと雅之おじさんに迷惑をかけてすみません」


「何を言ってるの。他人行儀なことを言うのはやめてよ。瑞希をお嫁さんにもらってくれたら、きちんとした親子よ」



 瑞希姉ちゃんが僕のお嫁さん。僕の頭の中にそのフレーズがこだまする。顔が熱くなるのがわかる。体温が上昇する。胸がドキドキする。恥ずかしい~。今の僕は耳まで真っ赤になっているだろう。



「瑞希も蒼ちゃんからのプロポーズを待ってるんだから。蒼ちゃんもしっかりしてね」



 プロポーズ・・・・・・僕は首まで赤くなっているのがわかる。瑞枝おばさん、やんわりした雰囲気で爆弾発言するのはやめて~。



「僕、少し疲れたから、一旦、家に帰ります。後のことは瑞枝おばさんに任せてもいいですか。後でまた、様子をみにきます」


「わかったわ。ウフフ」



 僕は急いでリビングを出て、玄関で靴を履いて、玄関を出る。そして一旦、自分の家に戻って、2階の自分の部屋のベッドに寝転んだ。


 いいように瑞枝おばさんにからかわれちゃったな。あ~恥ずかしかった。


 少し休んだら、また、明日香の様子を見に行こう。僕は私服のままベッドに横たわった。

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