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22話 美咲姉ちゃん

 朝、玄関に鍵をかけて、瑞希姉ちゃんと手を繋いで登校する。通学する生徒達が多くなってくると、手を放すが、それまでは手を繋いで歩くのが、僕達の日常になっていた。



 手を繋いで歩いていると、瑞希姉ちゃんを近くに感じて、とても安心する。瑞希姉ちゃんも上機嫌で、繋いだ手を振って歩いている。時折、僕の顔を見て”楽しいね”という視線を送ってくる。僕もニッコリ笑って”楽しいよ”という眼差しを送る。



 そんな、言葉のないやり取りが最近は楽しい。なんだか通じ合っているようで嬉しい。



 2人で手を繋いで歩いていると、路地から悠と莉子が現れた。あれ?莉子の家って、悠の家の近くだったけ?



 悠と莉子は僕達を見て、顔を真っ赤にし、悠は俯いて莉子は口を尖らせている。2人の手はしっかりと繋がれている。



「悠、莉子、おはよう。今日は2人で登校なんだね。手を繋いで仲良さそうで、いい感じだね」


「蒼大には言われたくない。蒼大だって瑞希先輩と手を繋いでるじゃないの」



 莉子が口を尖らせて、言い返してくる。褒めただけなのに、なぜ、そんなにかみつくんだよ。照れすぎだろう。そんな莉子の頭を、悠が優しく撫でている。すると莉子は口を尖らせたまま、黙ってしまった。



「今更だけど、本当に蒼大と瑞希姉ちゃんは仲いいな。ただの幼馴染に見えないぞ」



 悠が僕達を見て、そんなことを言う。



「だって、私と蒼ちゃんは悠が思ってるよりも、ずっと仲良しなんだから。例えばね・・・・・あぐぅ」



 急いで瑞希姉ちゃんの口を両手でふさぐ。このままだと何を暴露されるかわからない。危険すぎる。



 少し困った顔をして僕は瑞希姉ちゃんを見る。”変なことを暴露しないで。バレちゃうから”と視線を送る。僕の困った顔を見て、瑞希姉ちゃんはいたずらっぽい目で笑って”だって、皆に言いたいじゃん。私達が仲いいことを言ってもいいでしょ”と視線を送ってくる。



 僕は両手でクロスさせて”それはダメ”と強調する。”仕方ないわね”と瑞希姉ちゃんが肩をすくめる。



 その様子を見ていた悠と莉子が、顔を真っ赤にしている。



「蒼大、2人で目で語り合うのはやめてよ。見ているこっちは余計に恥ずかしくなるわよ」



 莉子が恥ずかしそうに、体をモジモジしている。悠は感心したように頷いている。



 僕達と悠と莉子は一緒に学校まで登校する。生徒が多くなってきたので、僕と瑞希姉ちゃんは手を放す。



 莉子は僕達のほうを見て不思議な顔をする。



「瑞希姉ちゃんは学校では結構、有名人だからね。変な噂がたったら可哀そうだから」


「蒼大も、気を遣ってるんじゃん。ただの優柔不断男で、軟弱男かと思ったけど、違うのね」


「僕と瑞希姉ちゃんは仲の良い幼馴染だからね。悠と莉子みたいな彼氏と彼女じゃないからさ」



 それを聞いた莉子はまた、顔を赤くして俯いてしまう。こんなに恥ずかしがる莉子を見たのは初めてだ。



 それでも莉子は悠の手を放さない。しっかりと手を繋いでいる。それが初々しくて可愛い。



 瑞希姉ちゃんの背中をいきなり女子がポンと叩く。僕の見たことのない女子だ。女子は僕を見てヘラヘラ笑っている。



「こんにちは、蒼ちゃん。私、栗本美咲クリモトミサキ、瑞希とは同級生で、一応親友よ。蒼ちゃんのことは瑞希から聞いてるわよ。瑞希から聞いてたよりも可愛いね。今度、3年生の教室にも遊びに来てよ」


「初めまして、栗本先輩。3年生の教室は雰囲気がピリピリしていて近寄りにくいですよ。僕は2年生だし、気後れします」


「3年生の教室が無理だったら、今日、学食で会いましょうよ。蒼ちゃんの知らない瑞希の色々を教えちゃうよ」



 栗本先輩はにこっりと笑う。なんだか栗本先輩って、いたずら好きのような気がする。でも瑞希姉ちゃんの親友なら、良い人なんだろ。



 瑞希姉ちゃんの顔を見ると、ため息を吐いている。そして”ごめんね”と優しく笑いかけてくる。



「わかりました。いつも学食でお昼を食べているので、ご一緒できる時があれば、よろしくお願いします」



 栗本先輩は「約束だよ。学食で待ってるからね」と言って、瑞希姉ちゃんの腕を引っ張って、校舎へ走っていく。瑞希姉ちゃんは後ろを振り返って、僕に手を振った。僕も小さく手を振り返す。



 莉子と悠と僕は校舎の中に入って、2階へのぼって自分達の教室へ入っていく。すると莉子と悠を見てクラスメイト達が騒ぎ出す。まだ、莉子と悠が付き合ったことで、クラスメイト達には衝撃が残っているようだ。



 蓮は既に登校していて、芽衣の机にしがみ付いている。



「悠と莉子もつきあったんだし、そろそろ芽衣も俺とデートなんかしない~。俺、デートプランを練りまくるからさ」


「そうね。蓮がもっと真剣に私を口説いてくれるなら、考えてもいいけど。蓮、まだ他の女の子も口説いてるでしょう。色々と蓮の噂を耳にしてるわよ。その間は無理かな」



 芽衣が上手く蓮の口説きを躱している。


 

 僕が自分の席に座ると、珍しく早く学校に来ている咲良が隣の席に座っていた。僕の顔を見て、優しく笑って手を振る。



「やあ、咲良、今日は朝、早いね」


「そうなのよ。朝から咲が元気で、朝早くに起こされちゃったのよ。遅刻するよりマシだからいいけど」


「咲ちゃんか、いつも元気いっぱいだね。咲ちゃんの笑顔、可愛かったな。また会いたいな」


「蒼なら、いつでも家に来てよ。咲も喜ぶから」


「うん、ありがとう」



 咲良が僕に好意を持っていることは知ってる。今、僕は瑞希姉ちゃんに自分の心が傾いているような気がする。だから、咲良の家に行きにくい。咲良に対しては悪いけど、クラスで一番に仲良しの女子の友達という感覚が強い。それなのに、これ以上、咲良の期待を膨らませるようなことをするのは、結局、咲良を傷つけることになるかもしれない。なるべく咲良を傷つけたくない。どうすればいいんだろう。



 もし、咲良がいなくなったとしても、僕は悲しいだろうし、寂しいだろうけど、心に穴が開いたようにはならないだろう。でも瑞希姉ちゃんがいなくなると考えると、心に穴が開いたようになる。自分がどうしていいか、わからなくなるだろう。僕には瑞希姉ちゃんがいないとダメなんだ。



 これを悠が言っていた恋心とは言わないと思う。少し違うと思う。でもそれが今の僕の気持ちなんだよな。



 HRのチャイムが鳴って、ダル先生が教室に入ってくる。「今度、午後の授業を取りやめて、体育祭の競技の出場選手を決めることにする。自分達でどの競技に出たいか、あらかじめ決めておくように。必ずこの時間で、全ての競技の選手が決まるようにしてくれよ。ダラダラと長引くのは困るからな。わかったか。以上だ」それだけ言って、教室を出て行った。ダル先生のHRは短くていい。



 午前の授業が始まった。体育祭が終わったら、すぐに中間考査のテストが待っている。せっかく学年で18位の成績になったのに、成績を落とすのは惜しい。僕は先生の授業をノートにまとめていく。結構、つまづく所も多いな。家に帰ったら、瑞希姉ちゃんに勉強を教えてもらわないと。



 咲良が僕の机に付箋を貼ってくる。付箋を見ると「今、やっている授業内容が難しいよ」と書いてあった。僕も付箋に「僕も難しい」と書いて咲良の机に付箋を貼る。咲良は付箋を見て、ガッカリした様子だった。



 午前中の授業は静かに終わった。昼休憩になったので、僕と蓮と凛太は食堂へ向かった。悠は莉子と一緒に教室で食べるそうだ。莉子が弁当を用意してきたらしい。莉子って料理ができるタイプに見えないけど、大丈夫なんだろうか。



 瑛太と蓮が食券を買いに行く。僕はいつものように席取りに行こうと歩いていると、いきなり腕を掴まれた。横を見ると栗本先輩がにっこりと笑っている。そう言えば、今日、学食で会おうって言われてたな。冗談だと思ってたのに、本気だったんだ。



「へへ、蒼ちゃん、捕まえた。さ~一緒に食べるわよ」



 強引に腕を引っ張られて、栗本先輩が座っている席へ連れて行かれる。栗本先輩は学食で1人で僕を待っていたようだ。他に友達らしき人達は近くにいない。僕は栗本先輩の対面の席に座る。



 栗本先輩も自分の座っていた席に座って、僕をジーっと見てにっこりと笑う。



「蒼ちゃんとゆっくり話したかったんだよ、蒼ちゃんのことは中学の時から瑞希に聞いていたからね」


「そうなんですか。栗本先輩は瑞希姉ちゃんと中学校からの友達なんですね」


「そうだよ。だから結構、何でも相談し合う仲かな。だから蒼ちゃんには感謝してるんだ。蒼ちゃんがこの街に帰ってきてから、瑞希のため息の量が減ったからね。それに毎日、楽しそうだから」



 へえ~、瑞希姉ちゃんって、昔はそんなにため息が多かったんだ。今からは想像できないな。



「蒼ちゃんって、瑞希には相当な甘えたさんらしいね。瑞希が私にだけに、蒼ちゃんが甘えてくれるのってノロケてくるんだよね。それも嬉しそうな顔してさ。瑞希は蒼ちゃんにメロメロだね」



 瑞希姉ちゃん、僕の何を栗本先輩に話してるの。甘えたさんなんて広まったら、学校に来れなくなるよ。



「瑞希は蒼ちゃんのこと本気だよ。幼馴染の弟みたいって感じで蒼ちゃんのこと見てないからね。蒼ちゃんのこと1人の男子として、惚れてるんだよ。メロメロなんだよ。だから蒼ちゃんも瑞希を1人の女子として見てあげてほしいな」


「・・・・・・」



 栗本先輩は僕が瑞希姉ちゃんのことを、幼馴染の世話好きのお姉ちゃんと思っていることを知ってるみたいだ。だからこの話を出してきたんだろう。でも瑞希姉ちゃんを1人の女子として見るってどうすればいいんだろう。



「たぶん、蒼ちゃんも瑞希のことが大好きだと思う。それは本当に幼馴染のお姉さんだからと思っているからかな。蒼ちゃんも本当は瑞希のことを1人の女子として好きなのに、気づいてないか、ごまかしてるんじゃないの」



 僕が自分で瑞希姉ちゃんのことを幼馴染のお姉さんと思い込もうとしてるってこと。自分で気づこうとしてないってこと。本当は1人の女子として瑞希姉ちゃんを見てるのに、ごまかしてるっていうの。わからない。



「瑞希はね。昔から蒼ちゃんにメロメロだから、蒼ちゃんの世話をしたがるのだって、蒼ちゃんのことが好きだから、蒼ちゃんを甘えさそうとするの。蒼ちゃんのために一生懸命に尽くしてるのも、蒼ちゃんのことが大好きだからなの。幼馴染だからじゃないの。蒼ちゃんのお姉さん役をしてるわけじゃないんだよ。そのことをわかって」



 そうか、瑞希姉ちゃんは幼馴染だから僕の世話をしているわけじゃないんだ。お姉さん役をしようと思って、僕を甘やかそうとしてるわけじゃないんだ。僕のことを純粋に大好きだから、尽くしてくれてるんだ。栗本先輩はそう言いたいんだ。



「少しわかると思います」


「良かった。これからは、瑞希のことを1人の女子をしてみてあげてね。栗本先輩が言いたかったお話は、今回はここまでにしておこうかな」



 栗本先輩が優しく微笑む。



「さ~、早くお弁当を食べないと昼休憩が終わっちゃうわ。お弁当を食べましょう」



 僕も袋からお弁当を出して、お弁当の蓋をあけた。すると栗本先輩が噴き出した。



 お弁当のご飯の部分は錦糸卵と鶏そぼろで、大きいハートマークが作られている。ハンバーグや卵焼きもハートマークにカットされている。僕のお弁当全体にいくつもハートマークがいっぱいあったからだ。



「あの瑞希がこんなお弁当を作るとはね。これ記念にカメラで撮っていいかな。後で瑞希をからかってやろう」



 栗本先輩はスマホを取り出して、僕のお弁当を連写する。そして口元を押えて笑っている。あ~あ、これで瑞希姉ちゃんが栗本先輩にからかわれるのは確定だ。でも僕の責任じゃないよ。作ったのは瑞希姉ちゃんだからね。



 僕はお弁当を食べていく。やっぱり瑞希姉ちゃんのお弁当は絶品です。栗本先輩も自分のお弁当を食べる。そして、箸を伸ばして僕のお弁当から、おかずを取って自分の口の中へ。



「おお、瑞希のお弁当って絶品だね。料理は上手いと思ってたけど、最近、また腕を上げたみたいね」



 栗本先輩が感嘆の声をあげる。



「蒼ちゃんは瑞希に愛されているんだね。瑞希ってこんなに情熱的だったんだね。再確認させられたわ」



 栗本先輩がウットリとした目でお弁当を見ている。



「・・・・・・」


「蒼ちゃん、これからは何でも、この栗本先輩に相談したらいいからね。私も蒼ちゃんのこと気に入ってるから。蒼ちゃんって可愛いから。いつでも呼んでね。私からも声をかけるからさ。これからは私のことは栗本先輩じゃなくて、美咲姉ちゃんって呼んでね」



 お弁当を食べ終わった僕と美咲姉ちゃんは席を立った。美咲姉ちゃんとは食堂で分かれた。食堂の中を見回すが蓮達の姿はない。先に教室に帰ったようだ。僕は食堂を出て、ゆっくりと廊下を歩く。

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