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19話 尾行

 今日は、藤野健也と瑞希姉ちゃんがモールへデートに行く日だ。僕は昨日の夜から心の中が、ムカムカして眠れなかった。なぜ、こんなにムカムカしているのか、わからないが、とにかくムカムカする。



 朝早く目覚めていたけれど、ベッドの中に丸まって、僕はムカムカしていた。すると瑞希姉ちゃんが部屋に入ってきて、僕のベッドの中へもぐりこんでくる。



 瑞希姉ちゃんは丸まっている僕を抱きかかえるように僕を抱きしめる。いつもなら背中に押し付けられた、瑞希姉ちゃんのムニュっとした胸の感触で、僕は天国にいるような気持ちになって、気持ちよくて、ぐっすりと眠ってしまうのに、今日はなぜか目がパッチリと開いてしまう。2度寝ができない。



 背中から一定のリズムで寝息が聞こえはじめた。瑞希姉ちゃんは僕を背中から抱いた格好で、寝入ってしまったんだろう。瑞希姉ちゃんを起こしたくないから、僕はそのままの体制で抱き枕になっている。



 瑞希姉ちゃんの良い香りがベッドの布団の中に溢れる。その香りを嗅いで、少し僕の心は落ち着いた。少し目を瞑ると気持ちよくなって浅い眠りにつく。



 すると夢の中に藤野健也が現れた。爽やかな笑顔で歯がキラッと光っている。非常にムカつく。爽やかな笑顔って、こんなに僕の心を不快にするもんだったとは思わなかった。僕はこれから歯キラ男を嫌いになるだろう。



 藤野健也はバラを一輪だけ持って、片膝をついて、胸に片手をつけて、もう片方の手を瑞希姉ちゃんへ差し出している。まるで何か、劇の一部を見ているようだ。



「君はこのバラよりも美しい。僕のバラになってくれないか」



 藤野健也は瑞希姉ちゃんをあらゆる甘い言葉で誘惑する。瑞希姉ちゃんの頬もポッとピンク色に染まっている。藤野健也が、瑞希姉ちゃんの手の甲に軽くキスをした。あ~、そんなのダメだろう。どこのキザ男だ。お前は。



 僕は目を開く。そして、それが夢だったことに気付いた。藤野健也、僕の夢の中にまで入ってきて、瑞希姉ちゃんを口説くなんて許せない。やっぱりあいつは嫌いだ。



 寝がえりをうって、体の向きを変える。瑞希姉ちゃんの寝顔が間近にある。スヤスヤと気持ちよく寝息を立てている。僕は瑞希姉ちゃんに抱き着いた。すると瑞希姉ちゃんが僕に抱き着いてくる。僕は安心して、瑞希姉ちゃんに抱かれながら眠った。



 瑞希姉ちゃんの匂いがなくなった。僕は眠りから覚める。



 瑞希姉ちゃんがベッドの中にいない。1階からモノ音が聞こえる。瑞希姉ちゃんが台所で朝食の準備をしているんだろう。いつも僕のために朝食の準備をしてくれてありがとう。



 いつも朝が苦手なのに、今日に限って早起きをしてしまった。藤野健也の夢を見ちゃったから、気分は最悪だ。鏡で見なくても、今の僕は不機嫌な顔をしているのがわかる。すごく不機嫌だ。



 僕はベッドから起きて、1階の脱衣所へ行く。そして洗面台で顔を洗って、歯を磨く。そしてノロノロとリビングを通って台所のテーブルに座った。すると台所で朝食の用意をしていた、瑞希姉ちゃんがクルリと振り向いて、僕ににっこりと笑ってくれる。



「あら、おはよう、蒼ちゃん、今日は随分と早起きなのね」


「うん、おはよう。嫌な夢を見て、起きちゃった。本当に嫌な夢」



 瑞希姉ちゃんは僕の近くへ寄ってくると頭を撫でてくれた。でも僕の不機嫌な顔は直らない。



「あら~、今日の蒼ちゃんは相当、不機嫌ね。顔がブスっとしてるわよ。困ったな~。今日はお姉ちゃん、お出かけしなくちゃいけないから、蒼ちゃんとずっと一緒にいてあげられないのよ。困ったわ」



 瑞希姉ちゃんが悪いわけではない。あの夢にでてきた、藤野健也が悪いのだ。あの歯キラ男め。キザ野郎。



 テーブルの上に朝食が並べられる。今日は食パン、ベーコンエッグ、野菜サラダ、グレープフルーツ、アイスティーだ。



 僕と瑞希姉ちゃんは2人でテーブルに座って「いただきます」をいう。そして朝食を食べていく。朝食を口の中に放り込んで、よく噛んで食べていく。時々、瑞希姉ちゃんは手を伸ばして、僕の頭を撫でてくれる、それでも僕の機嫌は直らず、口を尖らせて、黙っている。



「今日はなぜ、そんなに不機嫌なの。このままだったらお姉ちゃん、蒼ちゃんを置いて外出なんでできないよ」


「・・・・・・」



 その外出が原因で不機嫌になっているとは言えない。藤野健也が気に入らなくて不機嫌だなんて言えない。



「帰ってきたら、蒼ちゃんといっぱい遊んであげるから、今日は大人しく家にいてね」



 今日は藤野香織との約束がある。目的は藤野健也と瑞希姉ちゃんのデートの尾行だ。嫌になる。



 朝食が終わって、「ごちそうさま」を言った僕は、フラフラと席から立って、トボトボとリビングを通って2階へ向かって歩いていく。



 すると、瑞希姉ちゃんが駆け寄ってきて、僕の背中に抱き着いた。そして僕の耳元でささやく。



『蒼ちゃんは、もしかすると私が健也と外出するから焼きち妬いてくれてるのかな。それだったら、今日はゴメンね。もう約束しちゃってるから、私、約束破れないし・・・・・・でも、蒼ちゃんがこんなに焼きもちを妬いてくれて、嬉しい。蒼ちゃん、大好きよ。愛してる』


「焼きもちなんて、妬いてない」



 僕はリビングを通って階段を上っていく。チラっと瑞希姉ちゃんを見ると困りきった顔をしている。2階の自分の部屋に入るとベッドの布団の中へ入り、体を丸くした。



 瑞希姉ちゃんが朝食の後片付けをして、階段を上って、僕の部屋へ入ってきた。ベッドの近くに座って、じっとベッドの中で丸まっている、僕を見ている。



「お姉ちゃん、ちょっと出かける用意があるから、今から家に帰るね。帰ってきたら夕食は、蒼ちゃんの大好きな唐揚げしましょう。それまでに機嫌を直しておいてね」



 そういうと僕の部屋から出ていった。自分の家に戻るのだろう。僕はそのまま、ベッドの布団の中で体を丸めて、浅く眠る。



 机の上のスマホが振動する。、のろのろと起き上がってスマホを耳に当てる。



《私だけど、きちんと起きてる?お兄様は出かける準備完了よ。まさかあんた、まだ寝てたとか言わないわよね》


《寝てた》


《はぁ、今日はお兄様と瑞希先輩との初デート日なのよ。監視しないといけない、大事な日なのを忘れてるの?この馬鹿、早く用意をしなさいよ。私だって着替えて、出かける準備はできているのに。朝、10時、モールの玄関でお兄様と瑞希先輩は待ち合わせよ。その時から尾行をしないと、巻かれてしまうわ。だから、あなたも時間ピッタリにモールの玄関に来なさいよ。到着したら、私に連絡するのよ。わかった・・・・・・プー・プー・プー》



 朝からよくしゃべる女だな。ほとんど頭の中に入んなかったよ。朝早くからキンキンと高音のうるさい声で言われても、うるさいだけで、気が滅入るな。



 香織のキンキン声で起こされて、パジャマから私服に着替える。今日は黒地に白いどくろのマークが描かれている七分袖のTシャツを着て、黒のジーンズを履く。僕の髪型は目立つけど、帽子は持っていない。これくらいでいいだろう。



 僕は玄関の鍵をかけて、家をでる。そして歩道を歩いて、ゆっくりと歩く。香織のおかげで、少し早く家を出ることができた。モールまでゆっくりと歩いていこう。



 モールについてキョロキョロしていると白のシャツに花柄スカートを履いた香織に腕を引っ張られた。



「何をキョロキョロしているの。モールに着いたら連絡してって言ったわよね。ここはお兄様と瑞希先輩との待ち合わせの場所でもあるのよ。もしお兄様に見つかったら、どうするの。バレたら台無しよ」



 香織に腕を引っ張られて、モールの玄関から離れたところに連れていかれる。



「尾行する気があるの。私なんてサングラスも用意したのよ」



 自慢気にサングラスをかけて、香織がポーズをとる。サングラスなんかかけたら余計に目立たないか。ちょっと、香織って天然が入ってるかも。



 あ、瑞希姉ちゃんを見つけた。いつものポニーテールをしている。ニットにスキニージーンズを履いている。ニットだから、瑞希姉ちゃんの胸が強調されている。藤野健也、瑞希姉ちゃんの胸をいやらしい目で見たら死刑だからな。



「なぜかしら、全く、お兄様と瑞希先輩を見つけられないわ。せっかくオペラグラスを持ってきたのに」



 香織を振り向くとサングラスをしたままで、オペラグラスを覗いている香織がいた。僕は疲れて、ため息を吐いた。



「あのね。サングラスをしていたら視界が暗くなって、オペラグラスを使っても見えにくくなるだけだよ。サングラスは取ったほうがいいよ。目立つし。それより瑞希姉ちゃんを見つけたよ。香織のお兄さんもいるんじゃないかな」



 香織はサングラスと取って、鞄の中へ入れると、僕が指さす方向を見て、藤野健也を見つける。藤野健也と瑞希姉ちゃんが仲良さそうに近寄って話している。接近していい距離は1mまでだからな。



「あ、2人がモールの中へ入っていきましたわ。私達も行きますわよ」



 香織が僕の手を取って、モールの中へ走っていく。



 藤野健也と瑞希姉ちゃんは小物ショップへ入っていった。瑞希姉ちゃんは可愛い小物を見つけては、笑顔になっている。それを見て、藤野健也も顔をほころばせている。



 瑞希姉ちゃんは小物が大好きだから、なかなか小物ショップから出てこないだろうと思っていたら、すぐに出てきた。瑞希姉ちゃんが何も買わなかったようだ。



 次は、洋服店に入っていった。藤野健也の顔色一つ変えずに洋服店へ入っていく。これは行き慣れてるな。瑞希姉ちゃんは色々な洋服を選んでいるが、瑞希姉ちゃんの好みの服ではないような気がする。僕は隣の香織を見る。香織が着そうな服装だ。



「香織ってこの店には、よく来たことがあるの?」


「そうね。お兄様と一緒にモールに来た時には、必ず立ち寄る店よ。私好みの洋服が数多く置いてあるの」



 へ~そうなんだ。香織がよく行く店なんだ。藤野健也が洋服を持って、レジに並んでいる。藤野健也から瑞希姉ちゃんへのプレゼント攻撃か。



 藤野健也と瑞希姉ちゃんが洋服店から出てきた。藤野健也が満足気に瑞希姉ちゃんに笑顔を向けている。ここまで歯がキラリと輝いている光が見えそうだ。瑞希姉ちゃんも藤野健也の顔を見て笑っている。



 今日の藤野達也の洋服はTシャツにブラックデニムを履いて、ジャケットを羽織っている。とても大人っぽい。



 2人は男性用の洋服店に入っていった。瑞希姉ちゃんが洋服を選んで、藤野健也の胸に服を合わせて、悩んでいる。藤野達也の顔がなんだかにやけている。キモイ。笑うな。瑞希姉ちゃんも藤野健也の体を触っちゃダメ。



 隣をみると、こんな近距離なのにオペラグラスを使用している。道行く人が香織を見て怪訝な顔をしている。これじゃあ、香織のほうが変態だよ。注意したほうがいいのかな。



 香織が僕の手を握ってる力が増している。力いっぱいに握ってくる。僕はお前のお兄ちゃんじゃないからね。文句はお兄ちゃんにぶつけような。僕の手にぶつけないでほしい。



「香織、力いっぱいに僕の手を握ってるんだけど?どうしたの?」


「あの2人の仲の良さ。ムカムカきます。私だけのお兄様なのに、許せない」



 2人はイタ飯屋に入っていった。僕達もイタ飯屋に入る。そして、瑞希姉ちゃん達から見えない位置にあるテーブルに座った。僕は魚介類のスープスパにした。香織はキノコのクリームスパを注文する。



 2人の会話が微かに聞こえる。



「今日、モールに付き合ってくれて嬉しいよ。瑞希と初めてのデートだから昨日から緊張しているよ」



 藤野健也は必殺歯キラリで笑顔の威力を倍増させる。瑞希姉ちゃんの顔は僕からは見ることができない。



「別に今日は、藤野くんとデートしてるつもりないから。藤野くんもモールに用事があったし、私もモールで買い物をしたかったから付き合っただけよ。勘違いしないでね」



 結構、瑞希姉ちゃんもズバズバ言ってるな。僕だったら瑞希姉ちゃんにこれだけ言われたら、心が折れちゃうな。藤野健也の心臓って鋼鉄並みだな。まだにっこりと笑ってるよ。少し引くわ~。



「そんなに蒼大のことが好きなのかい。僕も必死でアプローチしてるんだけどな。いつも瑞希は本気にしてくれない。僕は瑞希のことを本気で好きなんだ。そろそろ本気で相手をしてくれよ」


「蒼ちゃんは私の全てなの。健也とは比べられないよ。健也は中学からの幼馴染。それ以上でもそれ以下でもない。だから、健也のことを本気で考えることなんて、私にはできないわ。何度も言ってるよね」



 藤野健也は少し腕を組んで考えている。



「それなら幼馴染として、僕も瑞希のことを誘うことはできるんだよな。幼馴染としてならいいんだろう?」


「私に恋愛感情を向けないんだったら、別にかまわないけど。健也は私のこと好きなんでしょう。だからダメ」



 藤野健也はにっこりと笑う。歯がキラリと光る。挫けない男、藤野健也。ある意味で凄い奴だ。



「大丈夫。僕は何回、瑞希に断られても諦めない。中学の時から断られ続けてるから慣れてるし、絶対に瑞希の心を僕に向けさせてみせるから。未来は1本じゃないだろう」



 中学の時から振られ続けてるって、どんだけの回数、振られてるんだよ。いい加減に諦めろよ。



 クリームスパを食べている香織の手が止り、フォークを持つ手が震えている。頼むから僕にフォークを投げてくるのは止めてくれよ。



「世界一のお兄様を振り続けているなんて許せません」


「でも、お前のお兄さんと瑞希姉ちゃんが付き合うのも気に入らないんだろう?」


「お兄様は私のものです。誰にも渡すつもりはありません」



 どうすればいいっていうんだよ。香織、お前、自分で無茶なことを言ってる自覚あるか?ないよね。



 瑞希姉ちゃん達を見ると、藤野健也がまだ、瑞希姉ちゃんに話しかけている。



「瑞希、僕はこれでも結構、女子には人気があるんだ。今までにも何人も女子から告白を受けている。それを全て断っているのは、瑞希のことを愛しているからだ。僕は瑞希だけを愛しているんだ」


「やめてよ。こんな場所で、何を大声で言ってるの。あなたが私を愛してたとしても、私はあなたを愛してないの。そんな風に見てないの。あ~、いつもの平行線だわ。健也って、本当に面倒な性格してるよね」


「僕はどんなことを言われようと瑞希のことを諦めない。また今度、誘ってもいいか?」


「誘ってきても私に断られるだけよ。今日は特別に付き合ってあげてるだけなんだから。こんなことだったら、今日も断ったらよかったわ」



 香織が藤野健也の愛の告白を聞いて、席を立って、飛び出そうとする。僕はその手首を捕まえて、席に座り直させた。



「尾行なのに、出て行ってどうするのさ。もっと頭を使ってくれよ」


「あんたに言われると無性に腹が立つわね。ムカつく」



 なぜ、僕はこんなところで、香織のお守りをしてないといけないんだ。情けなくなってきた。帰ろうかな。



 藤野健也と瑞希姉ちゃんが店を出た。もちろん支払いは藤野健也だ。



 僕と香織も店を出る。その時香織が鋭い視線を僕に向ける。”男なんだから奢りなさいよ”と視線が訴えてくる。僕はため息を吐いて、香織の分も支払って店を出た。



 店を出ると瑞希姉ちゃんと藤野健也は、雑貨ショップへ入っていった。この雑貨ショップは時計から本、財布まで色々なものを売っている。



 雑貨ショップは通路が狭く、色々な商品が背丈まで積まれているので、見つかりにくい。僕と香織も雑貨ショップの中へ入る。この店も瑞希姉ちゃんが好きな店の1つだ。



 瑞希姉ちゃんは時計のコーナーで、時計を見ているようだ。店員に言って、〇ショックの腕時計を見ている。いくつか時計を見た中で、気に入るものを発見したようだ。紙で包装してもらい、手提げ袋に入れてもらっている。瑞希姉ちゃんがレジで支払いをして、雑貨ショップから出て行った。



 それから瑞希姉ちゃんと藤野健也はモールの中を歩いては、色々な店の中に入って、ウィンドショッピングをしている。段々とモールの玄関が近づいてきた。



 モールの玄関で立ち止まると、藤野健也と瑞希姉ちゃんは、少しの間立ち話をして分かれた。



「私はお兄様を追うわ。またね。蒼大。何かあったら連絡するから」



 別に香織からの連絡なんていらないよ。ろくなことがなさそうだから。香織は藤野健也を追って走って、モールから去っていった。



 僕は瑞希姉ちゃんと離れた距離で大通りを歩いていた。するといきなり瑞希姉ちゃんがクルリと振り返って、僕に目がけて走ってきた。咄嗟に逃げようとするが、近くに隠れる路地がない。



 僕は瑞希姉ちゃんに捕まった。瑞希姉ちゃんはにっこり笑って、僕の頭をコツンと叩く。



「人を尾行するなんていけないんだよ」



 いつから気づいていたんだろうか。僕は別に変なことはしてないぞ。



「・・・・・・・」


「あのね、蒼ちゃんのその髪型と、香織さんのあの服装。あなた達2人って、自分達が思っているよりも目立っていたわよ。私が気づいたぐらいだから、健也も気づいてたんじゃないかしら。蒼ちゃんと香織さんの組み合わせって面白いわね。2人で私達を尾行してたんだもんね。私はモールに入る前の待ち合わせの時から気づいてたわよ」



 え、最初から気づいてたの~。最初からなんて恥ずかしい~。



「私が蒼ちゃんの髪型を見間違えるわけないじゃん。どうして、私達を尾行なんてしていたの?」


「香織に誘われたから」


「なぜ、断らなかったの?」


「・・・・・・」



 今、ここで瑞希姉ちゃんのことが気になったって言いたくなかった。だから僕は黙る。



 口を尖らせて、黙っている僕の手を取って、瑞希姉ちゃんは嬉しそうににっこり笑って、手を握る。僕達は手を繋いで家に帰った。家に帰って、玄関のカギを開けて、2人で家の中へ入ってリビングへ行く。



 すると瑞希姉ちゃんが首に手を回して僕を抱きしめてくる。そして耳元で呟いた。



『蒼ちゃんが朝から機嫌が悪かったのは、焼きもちを妬いてくれてたんだね。尾行してきたのも私のことを心配してくれたからでしょう。お姉ちゃん、嬉しい。だって蒼ちゃんに愛されてる証拠だもん』



 瑞希姉ちゃんの体からは良い香りがした。



 瑞希姉ちゃんは、モールの雑貨店で買ったモノを僕に渡す。「プレゼントだよ」とにっこりと笑う。



 僕はリビングのソファに座って、包装用紙をきれいに剥がして、中をみると〇ショックの腕時計だった。隣に座ってきた、瑞希姉ちゃんが僕にもたれかかって、体を預けながら、「蒼ちゃん、すっかり忘れてるでしょう」と微笑む。



 僕は何を忘れてるんだろう。



「もうすぐ、蒼ちゃんの誕生日だよ。少し早いけど、私からのプレゼント。蒼ちゃん、腕時計を持ってなかったでしょ」



 そっか、もうすぐ僕の誕生日か、すっかり忘れていたというか、今まで祝ってもらったことがなかったから、覚えていなかった。



「ありがとう瑞希姉ちゃん。誕生日を覚えていてくれて。プレゼントも気に入ったよ。本当にありがとう」



「良かった」と言って、瑞希姉ちゃんは僕にギュッと抱き着くと頬にキスをした。

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