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1話 初登校

 僕は今、高坂高校の職員室にいる。朝のHR前だから多くの先生達が職員室で忙しそうにドタバタしている。



 事務員の方に案内されて職員室に入り、今、少しプチデブというか、少しふっくらしているというか、椅子の上でダルそうに座っている新田陸ニッタリク先生の前にいる。今度、僕の担任になってくれる先生だ。



「お前が転入生の空野蒼大ソラノアオトか。こんな2学期のはじめの、中途半端な時期に転入してくるとは珍しいな。ま~、クラスで問題なく、やってくれるなら問題ない。俺に迷惑かけるなよ」



 う~ん、新田先生の言っていることをまとめると、「俺に迷惑かけるな。ダルいから」って言いたいんだろうな。これはダメな先生のパターンだな。あだ名をつけるなら「ダル」だな。いつもダルそうにしてるから。



 僕は先生の説明を聞いて、そんなことを考えていた。



「お前、以前に、この街で暮らしていたんだってな。それなら、この街について、説明はいらないだろう」



「僕が住んでいたのは小学校3年生までです。今となっては、ほとんど覚えていません。新しい街のようなものです」



「そうか。だったら早く友達を作って、そいつ等に教えてもらえ」



 やっぱり、新田先生、自らがこの街のことを説明することはなさそうだ。やっぱり「ダル」だな。



「HRの時に一緒に付いて来い。お前のクラスは2年3組だ」



「はい」



 学校中にHRを報せるチャイムが鳴る。新田先生は何か、授業に使うのだろう、プリントを小脇に抱えて、席を立ちあがって、歩き始めた。僕はその後ろへ付いていく。



 新田先生が2階に上がると、まだ席に着いていない生徒が廊下ではしゃいでいた。新田先生の顔を見ると、慌てて教室の中へ入っていく。



「早く、教室の中へ入れ~」と大声で言った後「面倒くさいな」と小声で、新田先生は呟いた。本当にダルそうな先生だ。



 僕は新田先生の後に続いて2年3組の教室の中へ入っていく。先生の横にならんでクラスメイトを眺めると、皆が「誰だ?」という顔で僕のほうを見ている。中学の時も何回も転校しているので、この雰囲気には慣れているが、緊張するのは慣れない。



「今日は転入生を連れてきた。これからお前達と同じクラスの生徒だ。仲良くしてやれよ。問題を起こして、俺の手を煩わすなよ」



 ダメだ、この先生、本音がダダ洩れだ。これからは「ダル」と呼ぼうかな。



 大柄な男子が「ダル先生の説明はいいから、早く転入生の紹介をしてくれよ」と大声で言った。



 やっぱり先生のあだ名は「ダル先生」なんだな。僕が思っていたのは間違っていなかった。僕も「ダル先生」呼ぼう。



 ダル先生は「お前が自分で自己紹介するんだよ。早く皆に自己紹介しろ」と言ってきた。



「僕は空野蒼大と言います。昔、この街に住んでいたんですが、小学校3年生の時に、親の事情で、この街から離れていました。また、この街で暮らすことになったので、よろしくお願いします」と自己紹介をした。



 クラスメイトから疎らな拍手が起こる。僕みたいな普通の男子高生が転入してきたからっていって、大騒ぎされることは今まででもなかった。美少女やイケメンなら別なんだろうけど、僕はいたって普通のタイプだから。



 僕はクラスメイトに深々と礼をする。



「これで転入生の紹介は終わりだ。くれぐれも俺の手を煩わせないように。面倒だから。日々、平和に授業をこなすように。クラスのお前達も同じだぞ。俺に迷惑をかけるなよ~」



 ダル先生はダルそうに教壇の上でクラスメイトに話しかける。クラスメイトも大半は聞いていないようだ。。



「空野、お前の席は、クラスの中央にある空席だ。咲良、悪いがお前が空野の面倒を見てやってくれ。周りの生徒も空野に協力してやってくれや。空野は自分の席へ行って、早く座って授業の用意をしろ。俺からは以上だ。」



 僕は空席に向かって歩いていく。席につくと咲良と呼ばれていた女子がにっこりと笑ってくれた。とてもやさしそうだ。



「私、堂本咲良ドウモトサクラっていうの。空野くんだっけ。仲良くしてくださいね。なんでもわからない所は聞いてね。私でできることがあれば教えるから」



 僕は堂本さんに頭を下げて、お礼をいった。隣に可愛い子がいるなんてラッキーだな。



 HRのチャイムがなり、ダル先生は教室から去っていった。



 さっき、ダル先生に話しかけていた長身の生徒が、僕の所へ歩いてくる。身長が高くて、シャツごしにでも筋肉隆々なのがわかる。僕は正直、内心で引いていた。



「お前、小学校の時に転校して行った、蒼大だろう。俺だよ。小学校の時に、よくお前を虐めてた、小栗悠オグリユウだ。覚えてないかな。いつもお前を虐めてて、瑞希姉ちゃんに怒られてたんだけど」



「ゴメン。覚えてない。小学校の時は優柔不断で人見知りが激しくて、小学校で虐められていたのは覚えてるし、だれか女の子に助けてもらってたのは覚えてるけど・・・・・・細かいことを覚えていなくてごめん」



「そんなことはいいさ。俺が覚えてるんだからな。俺は蒼大が戻ってきてくれたことを大歓迎するぜ。早速、今日の帰りにでも遊びにいかないか。街のことも教えてやるよ。俺のことは悠と呼んでくれ」



 はじめは外見だけで怖いと思ったけど、話してみると小栗くんは良い奴のようだ。小栗君が手を差し伸べてきのたで、僕はおもわず、にっこりと握手した。



 もう2人、僕のほうに寄ってきた。1人は第2ボタンまで外して、髪の毛を茶髪にして、耳にピアスをしている。とても外見がチャラい。



「空野くん、覚えてないかな。小学校3年生の時、同じクラスだったんだよ~。あんまり放課後は遊んだこと、なかったけどさ~、学校内ではそれなりに仲良かったんだけど~。あ、僕は神崎蓮カンザキレンって言うんだ。気軽に蓮と呼んでよ。空野君のことも蒼大って呼ぶからな。仲良くしようぜ~」



 蓮は僕に強引に握手した。積極的な奴だけど、悪い奴ではなさそうだ。僕は「よろしく」と手短にこたえた。



 もう一人は体が華奢でヨロヨロしていて、典型的なオタクっぽい男子だった。



「僕は黒部瑛太クロベエイタって言うんだ。小学校の時、空野くんと一緒に虐められ組だった。この学校には陰湿な虐めなんてないから安心して。空野君と街に帰ってきてくれて嬉しいよ。仲良くやろう。僕のことは瑛太でいいからね。空野君も瑛太と呼んでくれると嬉しい」



 あっという間に小学生の時に友達だったらしい3人と出会えて僕は嬉しかった。やっぱり、この街に帰ってきて良かったと思った。



 皆はそれぞれ自己紹介が終わると自分の席に戻っていった。僕は小学校の記憶がほとんどない。でも3人は友達になってくれそうだ。これは嬉しいことだ。誰も知り合いがいないより、よほど快適だ。



「空野君、以前はこの街にいたんだね。さっそく、3人も知り合いができてよかったね。私も安心したよ~」



「ありがとう、堂本さん。そうだね。本当に運がいいね」



 堂本さんの近くに2人の女子がやってきた。



「咲良も転入生の世話なんて押し付けられて大変だよね。私だったら嫌~って答えてるわ」



「そんなこと言わないの。莉子もきちんと自己紹介をしてあげてよ」



 堂本さんが莉子の呼ばれている子の手を引っ張って、僕の前に立たせる。



倉下莉子クラシタリコって言うの。転入生くん、あんまり咲良に迷惑かけないでよね」



 身長が小さし、幼児体型のわりにはハキハキとした物言いだな。ここは素直に聞いておこう。この手のタイプは苦手だな。



「うん、堂本さんに迷惑かけないように頑張るよ」



もう1人の女子が深々と礼をした。



「私は柏葉芽衣カイワバメイと言うの。咲良の友達よ。空野くん、学校に来たばかりだから、何かとわからないことも多いと思う。私も咲良を応援するから。空野くんも、私に色々と聞いてきてもいいからね」



 おっとりした口調に優しい眼差し、癒されるわ~。さっきの倉下さんとは大違いだな。このことは友達になれそうだ。



「空野蒼大と言います。慣れないことも多いですが、よろしくお願いいします」



 柏葉さんは倉下さんを連れて自分達の席へ戻っていった。



 僕はさっそく、鞄の中から新しい教科書を取り出して、ノートをと筆箱を用意して授業に臨む。



 高坂高校の転入試験にも合格してるぐらいなので、成績はそんなに下のほうではない。授業さえ、きちんと聞いて、要点をノートにまとめていけば、授業から遅れていくことはないだろう。



 僕は午前中の授業を無難にこなして、昼休憩となった。悠が僕の席にやってくる。



「蒼大も弁当をもってきていないようだな。俺と一緒に学食へいくか。案内してやるよ」



「俺も行きたいな~、一緒に行こう蒼大」



「僕もご一緒します」



 蓮と瑛太も一緒に学食へ行くことになった。学食はまず食券を買って、トレーを持って、食堂から料理をもらうシステムになっている。



「俺はいつも日替わりを食べてる。これが一番、外れがないし、飯も多く食べられる」



 悠がにっこり笑って、日替わり定食を勧めてくる。今日の日替わり定食は唐揚げ定食だった。僕も唐揚げは大好きなので、日替わり定食を頼むことにした。



 蓮と瑛太も日替わり定食の食券を買って、列に並ぶ。



 食券を料理場のおばちゃんに渡して、トレーを持って、料理が出てくるのを待つ。5分もしない間に、唐揚げ定食がトレ-の上に並べられた。僕と悠はトレーを持って、食堂の空き席を探す。丁度、窓際の席が空いた。そこへ僕と悠は対面に座って、トレーを置く。ほどなくして蓮と瑛太もトレーを持って、僕達の席の隣に座った。



 全員がそろったところで、各々が定食を食べていく。



「蒼大、転入、早々に堂本と友達になれるなんてラッキーだぞ。堂本はクラスでもマスコット的な存在だからな」



「そうそう、可愛いうえにドジっ子でさ~。放っておけないというか。庇ってやりたいというか。可愛いんだよな~」



「僕は断然、柏葉さんが良いです。あのおとっりした眼差し、落ち着いていてお姉さん的な優しさがあって、ほんわかしていて、見ているだけでも癒されます」



 悠と蓮と瑛太が口々に、それぞれ言いたいことを言っている。



 確かに転入早々、堂本さんのような可愛い女子と知り合いになれたのはラッキーだと思う。それに柏葉さんも優しいし、この際、倉下さんのことは放っておこう。話題にもなってないし。



「俺なんかさ~、毎日のように堂本さんに、帰りに遊びに行こうって誘ってるんだけど、信用してもらえないんだよな~」



「それは日頃のお前の行動が悪いんだろう。女子なら誰にでも声をかける性格をなおせ。そうすれば少しは堂本も本気にしてくれるかもしれないぞ」



 悠が蓮をたしなめている。そうか、蓮は女子であれば誰にでも声をかける性格なのか。確かに外見からも軽そうだもんな。



「僕は柏葉さん一筋ですからね。蓮とは違います」



「うるさい、この根暗。お前、一度も、柏葉とまともに話せないじゃなか~。お前に比べたら俺のほうがマシだわ~」



 瑛太が言った言葉に蓮が反論する。そういえば瑛太って根暗そうだもんな。柏葉さんに簡単に話しかけられるタイプじゃないよな。それにしても蓮は軽すぎだよ~。小さい時もそういう性格だったのかな。全く思い出せない。



 僕達は雑談をして食堂に時間を潰した。昼休み終了のチャイムが鳴り、僕達はトレイを返却口に返して食堂を出て、教室に戻る。



 教室に帰ると、弁当の良い香りが漂っていた。堂本さんがお弁当を片づけている。堂本さんは弁当派か。



 午後の授業が始まった。僕は先生の説明を聞いて、ノートに要点をまとめていく。これなら授業についていけそうだ。



 午後の授業がおわり、ダル先生のHRとなった。「今日は何も伝達事項なし。まっすぐ家に帰れよ。俺に迷惑かけるなよ~」と言って、ダル先生は教室を出て行った



 僕は、机の上を片付けて教室を出る。悠が「一緒に帰ろうぜ」と声をかけてきた。「俺はデートがあるから、蒼大、また明日ね~」と言って、蓮は教室をでて、他のクラスへ走っていった。忙しい奴だ。瑛太は帰りに学校の図書館に寄って帰ると言って姿を消した。



 僕と悠は教室をでて階段を降りて、校舎を出る。偶然にも途中まで通学路が一緒だった。



「お前は覚えてないかもしれないが、結構、小学校の時、お前をからかって、虐めて遊んでいたんだ。瑞希姉ちゃんに怒られてさ~。いつも瑞希姉ちゃんに俺が泣かされてたよ。お前は瑞希姉ちゃんのお気に入りだったからな。だから、俺は、余計にお前を虐めたんだと思う。今更、謝るのもおかしいが、小学校の時はすまなかったな」



「いいよ。別に、僕はほとんど、覚えてないんだし、気にすることないよ。高校に入ってから友達になってくれてありがとう」



「面と向かって言われると体が痒くなるな。ここで俺は道を曲がるから。それじゃあ、また明日、学校でな」



 僕と悠は通学路の道を分かれた。悠ってほんとうに体がでかいな。あんなに歩ているのに背中が大きく見える。



 僕は1人で通学路を歩いて家に着いた。ポケットから鍵を出して、鍵を回すと、扉が開いてある。おかしいな、きちんと朝に鍵は閉めたはずなんだけどな。



 僕は不審に思いながら、玄関へ入って靴を脱いでリビングへ行くと、台所に制服のシャツ姿のままエプロンをしている。ポニーテールの女性が、料理を作っている。なんだか鼻歌まで歌って、上機嫌だ。



「あの~。この家は僕の家なんですが。家を間違っていませんか?」



 ポニーテールの女子はクルリと俺へ振り返った。クリクリした瞳に切れ長の二重瞼が印象的だ。ポニーテールが機嫌よく揺れている。



 見知らぬ女子は僕を見ると、お玉を鍋の中に置いて、リビングへ走って来ると、いきなり僕に抱き着いた。



「会いたかったよ蒼ちゃん。会いたかった。お姉ちゃん、会いに行ってあげるって約束してたのに、1度も会いにいけなくてゴメンね」



 僕に抱き着いた女子は僕に抱き着いたまま、泣いている、目から涙を流して僕の肩に顔を当てて、泣いている。



「あの、落ち着いてもらえないですか。僕も混乱していて、順を追って、教えてほしいんですが」



「そうだね。私は蒼ちゃんの隣に住んでる千堂瑞希センドウミズキ。高坂高校の3年生だよ。君のお父さんに、私の親が家の管理を任されていてね。だから家の鍵を持ってたの。時々、家の掃除もしてたんだからね」



「それはどうも、ありがとうございます」



「蒼ちゃん、私のこと覚えてない?小学校3年まで毎日、一緒に帰っていた瑞希姉ちゃんだよ。蒼ちゃん、大好きって言ってくれてたじゃない」



 ん~なんとなく思い出してきたぞ。いつも家に連れて帰ってくれる、手の温もりと安心感。だれか僕をいつも守って、家まで連れて帰ってくれていた。それが瑞希姉ちゃんというわけだな。



「すこし思い出しました。小さい頃はお世話になりました」



「そんな他人行儀はやめてよ。私の家と蒼ちゃんの家は家族ぐるみの付き合いだったんだよ~。だから私は蒼ちゃんのお姉ちゃんなんだから。遠慮しちゃダメなんだからね」



 そんな感じだったんだ。僕、何にも覚えてないや。瑞希姉ちゃんには悪いけど、思い出せない。



「・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」



「今日は、蒼ちゃんが大好きだった、カレーライスを今、作ってるからね~」



 確かに昔の僕はカレーライスが好きだった。本当に瑞希姉ちゃんは小さい頃からの幼馴染なんだな。



「・・・・・・蒼ちゃん、昔の約束、覚えてるかな・・・・・・」



「・・・・・・約束ですか。すみません小さい頃の記憶って、霞の中にあるようで、思い出すのに時間がかかるんです。今は覚えてません」



「・・・・・・そっか、残念。私はずっと覚えていたんだけどな・・・・・・ま、いっか。そのうち思い出してね」



 その顔は一瞬、寂しそうに見えた。僕は悪いことをしたような気分になる。



「じゃあ、もう一度、私のことを言うわね。私は蒼ちゃんの幼馴染のお姉さんで、千堂瑞希。これからは、蒼ちゃんの身のまわりのお世話は、お姉ちゃんが全部してあげるからね」



 瑞希姉ちゃんは優しい眼差しでにっこりと笑顔で宣言をした。

潮ノ海月でございます。

読者の皆様。読んでいただきありがとうございます。

応援をよろしくお願いいたします。(*- -)(*_ _)ペコリ

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