男爵令嬢アリシアと男爵令嬢ベスと男爵令チェルシー
「まさかアリシアに好きな方がいるなんて!」
「私、なあんにも聞いてないわ!」
「他の殿方と態度が変わらないんだもん、気がつかなかったわ」
「そうよ! アリシア、私たちモテるからたくさんの殿方とお話しする機会ができてしまうのは仕方がないにしろ、お慕いする方がいるならもっと自分をアピールしないと!!」
「私にもまだわからないのよ……」
「わからないってなにが?」
「これが恋なのかしら?」
「私たちに聞かれてもねえ、チェルシー」
「私たちもわかんないわよねぇ、ベス」
「お話で読んだような、胸の高鳴りとか顔が熱くなるとかそういうのはないし……気のせいってこともあるのかもしれないし……。若いうちに決めちゃっていいのかなって、不安になるのよ……。ちょっと、ロス男爵がほかの方より、気になってしまうだけで……」
「『あの方は他の方とは違う』っていうこと?」
「きゃー」
「今度ロス男爵をお茶に誘いましょうよー」
「やだ、ベスやめてよ! まだ本当に好きかなんて」
「触れる手。近く顔……」
「もー、やめてよー。チェルシーはどうなのよ!?」
「私は絶対公爵家に嫁ぐわ! 最低でも侯爵!」
「公爵家なんて見たことないでしょ私たち」
「だからもっと身分の高い方とお知り合いになって、夜会で出会って公爵様と恋に落ちるの」
「ベスは?」
「どんな方かなんてわからないけど……。最近ねヴィアトリーチェ様っていいなって思うの」
「え?ベス、結婚しないの?」
「結婚はしたいわよ、もちろん。でも、女性ながら田舎とはいえ領地を収め、社交シーズンでは多くの男性を従えて夜会で楽しく過ごされていて」
「あ、確かに……」
「そうね、ヴィアトリーチェ様の周りはいつも殿方がいっぱいよね」
「ちょっとああいうの、素敵だなって」
「やだベス、背徳的だわ!」
「ヴィアトリーチェ様ってお顔は決して美しくはないと思うの」
「確かにそうね。美しさならマリーマリーハニーのほうがずっとずっと綺麗だわ。あれだけ美しいときっと結婚相手は選り取りみどりなんでしょうね……」
「でもヴィアトリーチェ様が美しくないって思ったことってないわよね」
「うーん、それってやっぱりヴィアトリーチェ様も美しいってことなんじゃない?」
「例えば、この前のアリシアの赤いドレスみたいに流行っているけど似合わない格好って、ヴィアトリーチェ様は絶対しないわ」
「え、あれダメだった?」
「……」
「……」
「わかってたわよ、あれは似合ってないって。でも流行っていたし、ドレスだけ見たらすごい素敵だったし、もしかしたらいけるんじゃないかって少し思ったんだけど」
「アリシア、やっぱりアリシアには淡いブルーやミントグリーンの色が一番よ」
「それにあの形はアリシアの背にあってなかったわ」
「やっぱり……」
「とにかく、ヴィアトリーチェ様は決して自分が美しくならないということをしないとってもセンスある方なのよね」
「それって素敵だわ」
「すごく難しいことよ」
「結婚できなくてもそういう形もありなのかなって思うの」
「でも結婚はしたいわ、私」
「ロス男爵と?」
「もー、それはまだわからないわよ!」
「ね、私たちずっと友達よね」
「もちろん!」
「結婚して公爵夫人になっても、男をはべらせ夜会を渡り歩くようになっても」
「戦争が来ても」
「私たちは絶対に絶対、ずっと友達よ」