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ささやかな奇跡の事後報告


「なんか私って無力だなあ」

「姉さんなに言ってるの?」


私の馬鹿さ?ダメさ? なんかわからないけれど、落ち込む。

婚約破棄された直後のように落ち込む。


なんでかはわからないけれど ーきっとそれは神様の領域なんだろうー 私は私のこと以上の記憶があって、でもそれは普通の会話で使う単語程度で、特殊な知識も役に立つ経験もなにもない。

すごく自分が無力で、受け入れるしかない。ただ受け入れる前のこのショックは、この歳でも辛い。なにかを頑張っていたら違ったのかなと思うけど、なにも思いつかない。なにもできない。


「役にたたない宮殿」

「宮殿?」

「エミールの目を治す方法を知っていたら、私が新しい商売で大富豪になったら、そういうすごいことの可能性が私にはあったかもしれなかったんだけど、実際はそんなのあなたじゃ無理ですって言われた、みたいな」


支離滅裂。きっとこんなこと言われてもエミールも困るよね。


「ねえさん、僕に手紙をくれたよね、戦場に」


エミールが戦争の話をしたのは初めてだ。

これまで絶対に話すことはなかったし、戦友を呼ぶこともなかった。話したくないのだと思ってそのままなにも聞かずにいた。


「そうだったけ」

「うん。覚えてない?」

「ごめんなさい、あまり」

「そこに『穴を掘って身を隠すこと。最初に出ていかないこと。砲撃の音を聴き続けないこと。マスクを肌身離さず持つこと。食べ過ぎないこと。歌を歌うこと。降伏すること。死なないこと。エミールは全てを愛している』って書いてあったんだ。だから僕は生き残れたと思ってる。なんで姉さんがそんなこと知ってるのかわからないけど、でも僕の命を救ったのは姉さんの手紙だよ」


覚えていない。全然覚えていない。それは本当に「私」が書いた手紙なの?


「だから姉さんがなにもできないなんてことはない。『姉さんは全てを愛している』よ」


生きていてくれてよかった。

そうだった。そのために私の記憶の宮殿はあったんだ。だからいいんだ。

もう家族が死んで私1人残されたくない。

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