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イザベラ嬢と父と兄

私は学ぶことが好き。この世のことを全て知りたい。

そう家庭教師に言ったら少し困った顔をして、「そうなるといいですね」と言われた。そのときは戦争があるから学ぶことを続けることは難しいんだと思った。しばらくして私は自分が女であるから難しいのだと気づいた。


「イザベラ、スード女子爵への麦の件、どうだい」

「はい。領地代行である方が近いうち王都にいらっしゃるようで、一度話をする機会を作ってくださるとのことです」

「なんならイザベラもスード女子爵領へ行ってこればいいじゃないか」


嫌です。お父様のような移動狂にとってはリル山脈なんてちょっと行ってくるレベルなんでしょうけど、私には無理です。私はおうちが大好きなのでおうちにずっといたいんです。


「でエミール殿はどうだったかな」

「え!?」

「スード女子爵が弟の嫁を探しているのは有名な話だからね。きっとイザベラを呼んだのも顔合わせのつもりだったんだろう」


全く気がつかなかった。

そうか私は結婚適齢期としてこうした招待を女性からでもうけるのね。


その、エミール様は、大人の魅力に満ちていて、ちょっと魅力が溢れすぎていて、ダダ漏れ過ぎて、私には早すぎる方だった。

父との繋がりで、私はこの年齢にしてはいろんな殿方に会ったことがあると思っていたけれど、あのような妖艶な方は初めてだわ。


「その顔はまんざらじゃない顔だな」

「お兄様、黙ってください」


呼んでもいないのに書斎に入ってくるお兄様は本当にデリカシーがない。ガサツで帳簿の数字さえ合えば他のことは気にしない。だから結婚相手もいないのよ。早く結婚してくれないかしら。


「目の見えない爵位なし貴族ならちょうどいいじゃないか。結婚して後は家で好きなだけ勉強すりゃあいい」

「失明されてるのは右目だけで左目はちゃんと見えてます!」

「いや、スード女子爵は弟が結婚したら爵位を譲るだろう」

「え、なんでよ?」

「スード女子爵がこれから結婚し、子をなすには若くない。そのような賭けはなさらない方だ」

「養子という手もある、みすみす駒を減らすには得策じゃないと思うけどね」


父も兄も他家の話で盛り上がっているようなので私は失礼して自分の部屋へと戻った。

メイドにも片付けさせない私の部屋は本と紙で溢れている。ベッドサイドのテーブルには目覚めて式がひらめいしまったため慌てて書いたものが消すことができず残っている。


私は本当は勉強がしたい。

しかし父は口では否定したことを言わないが、内心では結婚してほしいと思っている。その証拠に父が領地経営と関係ない夜会を開き、晩餐会に出席している。あの父が。


父に私の勉強を認めてもらうには価値を提示するしかない。そのために学びたい物理を捨てて動植物の遺伝についての分野に切り替えた。この新しい麦はその一歩だ。私の知識が領地経営に役に立つのであれば父も私を無理には結婚させないだろう。


ただヴィアトリーチェ様は私が研究したいという気持ちを否定しなかったどころか国で働くのだと思ってくださった。女の私が。

戦争ではいろいろな技術が進んだ。それは人を殺すためだったかもしれないが多くの学者は国の元に研究を進めることができた。私もそんな風になりたいと思ったが誰にも言えなかった。言えるわけがない。


ヴィアトリーチェ様は私が学んだ知識以上のものをお持ちだ。知識ではなく身につけた思考のような。貴族らしからぬフランクな態度と先進的な考え方。とても不思議な方だ。


それに「歌がしぃーでぃーになって聞くことができる」?

学者に必要なのはインスピレーション。私なんかよりもヴィアトリーチェ様のほうがよっぽど才能ある学者になるかもしれない。

ご縁を結びたい。そう思ったのは学者以外に初めてだわ。


……エミール様とも、あのエミール様がどのような女性と結婚されるのか、それがわかるまで観察していたい。

私、観察は得意なの。

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