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違和感の拡散

イザベラ様とエミールを合わせるのが今日の目的だった。お見送り時にエミールも呼ぶつもりでいたのだが、なかなかいい展開になってくれた。

イザベラ様はエミールの事情をご存知なかった。戦争で目を負傷し今は家で療養しておること、暗いのも目のためだと説明した。


「そうだったのですね。ぜひ挨拶させてください。戦争で名誉の負傷をされた方に敬意を評したいです」


言われてみれば確かに薄暗い廊下を歩いてエミールの部屋の前へ。


「エミール、イザベラ様がご挨拶したいとのことよ」


イザベラ様が立ち上がるエミールを見て息を飲んだ。


エミールは、右目を失明し王都に戻って以来、このタウンハウスで療養生活を送っている。

身体はどこも悪くはないので屋敷内を歩くこともあるが、基本的には室内にいてベッドの上だ。そのせいかどうかはわからないのだが弟は病弱の少年のようだ。

……いや、いまの表現はぼかしすぎて本質をついていない。贔屓目なく忌憚なく言わせていただくと弟の色気が半端無いのだ。弟がエロい。

弟がカッコいい、というとちょっと違うと思う。父と母から同じように遺伝子を受け継ぎ、私とはあぁ姉弟だね、似てるねっていう感じの容姿だ。

だがめっちゃエロい。ぼんやりとしている様子が誘っているようだ。食事のときなんか、ちょっと子供には見せられない。

儚げとか憂いみたいな言葉で丸めてしまいたいが、まあエロいんだいね。要するに。


いやー、これはモテちゃう。すごくモテちゃう。生娘だろうがマダムだろうが、色気にやられて惚れられちゃう。だから私は貧乏田舎領地持ち子爵であっても弟は結婚できると思ってお嫁さん候補を探しているのです。


「は、初めてお目にかかります。イザベラ・スライゴです」

「エミール・スードです。わざわざ挨拶に来てくださりありがとうございます」


年齢以上に落ちついた雰囲気を持つイザベラ様が少し戸惑っている。これ、いけるんじゃないか。


「新しい麦の話は姉から聞いております。ぜひ協力させてください」

「いえ、こちらこそ協力いただきありがとうございます」

「お若い上に女性でそのように研究熱心で素晴らしいと思います」


微笑む弟にイザベラ様は俯いた。薄暗くても弟の妖しい魅力の詰まった笑顔の破壊力は抜群のようだ。

そして弟よ、もし目を怪我していなければお前は今頃社交界嵐と呼ばれて恐れられる存在になっていたと思う。それは無意識でやっているのかい、あとでこっそり姉さんに教えてくれ


「普段はケニオン男爵が話し相手に来てくださるの」

「なのでヴィアトリーチェ様はケニオン男爵と親しいのですね」

「親しい、そうねそう言われると親しい寄りね」

「わ、私もなにかできることがありましたらおしゃってください」

「嬉しいわ! お客様が多いことはいいことだもの」

「本などたくさん差し入れできますわ」

「あ、本はあまり……」

「すみません! やだ私、なにを言っているのかしら。エミール様は目のぐあいがよろしくないのに……」

「気にしないでください、それにそんなに気を使っていただかなくて結構ですよ」


イザベラ様は暗闇でもわかるほど赤くなっている。


「そう言えば楽隊がいなくても音楽を奏でる機械というのがあるそうですわ」

「機械が音楽? オルゴールみたいなものかしら?」

「いや、音楽、というか音を形にして物のように運搬できるんだよ。戦争中に開発された技術だね、僕も一度見たことがある」

「それですわ。今民間でも使えるよう研究が進められているんですって」

「じゃあマリーマリーハニーの歌がCDになってエミールでも聞くことができるのね」

「しーでぃー? しーでぃーとはなんですか?」

「……なにかしら。なにかと言い間違えたのかしら? やだわ、歳をとるって」

「姉さんはたまに自分でもわからないことを言うよね」

「それくらいマリーマリーハニーの歌が素晴らしかったのよ。あ、この前のウォートン公爵の晩餐会でマリーマリーハニーが歌を歌ってくださったの」

「そうなんですか」



「エミールに会っていただいてありがとう。本当にありがとうございます」


時間が来たのでイザベラ様は帰られる。エミールとも会話が弾んで私は大満足だった。

意外とやっぱりお似合いだと思うのよね。


「イザベラ様がよければまたいらしてください」


イザベラ様は苦笑して言った。


「はい。私もヴィアトリーチェ様とエミール様とお話しするのは大変興味深く面白いひと時でした」

「イザベラ様は王都にいらっしゃるの」

「はい。父も私の婚約相手を探しているようですから」


そうか。内政侯爵で現場主義、社交シーズン中でも領地へ行くスライゴ侯爵が今年はやけに夜会を主催していると思ったらそういうことか。むしろ18歳のイザベラ様に婚約者がいないことのほうがおかしいくらいだ。


「……できることなら私はずっと研究ができたらいいんですけどね」

「あぁ、イザベラ様は王国で働きたいのですね」

「え?」

「だってイザベラ様のような才能を国が放っておくわけありませんもの、イザベラ様が活躍するのが楽しみです」


イザベラ様は研究が第一なのか。なら結婚して田舎に引っ込むなど眼中にないか。イザベラ様の活躍は楽しみだけれど、エミールのお嫁さんは無理ね。残念だけどしょうがない。

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