表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/24

夜の友情

「申し訳ありません」


粗相しまくり空気読めなさすぎでいたたまれず、食事後帰ることしかできなかった。場違いな人間は帰って欲しかったに違いない。理由らしい理由を告げなくても馬車は呼ばれていた。

自分が貴族だなんておこがましい。本当の貴族の皆様、生まれてすみません。


「私の屋敷で少しお茶をしていきませんか」


顔を伏せる私にユングリング公爵は優しく言った。声だけ聞くと本当に素敵な王子様のようだ。それでも断ろうと顔を上げた。

ユングリング公爵は優しく微笑んでいた。それは私が最初に目にしたあの冷たく恐ろしい軍人貴族とはまったく違った顔だった。


「いえ、あの」

「もう着きます」


2度目のユングリング公爵邸。柔らかい明かりが昼とは違った雰囲気で包む。

無駄な装飾のないシンプルなしかし上品な公爵邸。今の私には何もかもが恐れ多い。


「スード女子爵が招待客の名前を呼んでいたから私が間違うことなく会話をすることができた。ありがとう」


お礼を言われることなんてしていない。誰を伴って行ってもユングリング公爵は公爵に恥じない招待客であっただろう。


玄関先で尻込む私にそっとユングリング公爵は先を促す。

怖く冷たい顔ばっかり気になっていたがこうしたスマートな態度は高貴な身分だからこそなんだ。


そしてこの家の若い執事、メイド達はいることを感じさせずに私のガウンを脱がせサロンは快適に保たれ私の手に紅茶が注がれている。使用人のレベルが恐ろしく高いことに今更気がつく。


「スード女子爵のマリーマリーハニーの考察は大変興味深く聞かせていただいた」


……。


「しかし社交というのはめんどくさい。人と知り合うにはこんなに手続きが多いのか、そこまでしないと覚えていられないのか?」

「それをユングリング公爵が言ってしまっては身も蓋もありません」

「やっと笑った」


顔を上げて話していた。私は笑っているようだ。


「迷惑をかけてしまったと思っている。だから嫌な気持ちのままスード女子爵を帰したくなかった」

「お気遣いありがとうございます」

「最初に気遣ってくれたのはあなただ」


え?


「最初に、ケニオン男爵の奥方だと大変失礼な勘違いをしてしまった」

「驚きましたけど、それは失礼でもなんでも……」

「婚約破棄以降、結婚をしていないあなたにはしてはいけない間違いだった」


ユングリング公爵は殺しそうな顔で私を見ている。あぁ、この人は真剣に考えているとこういう顔をするのだなとわかったきた。


「そのことはまったく気にしていないんです、本当です。私は結婚することに執着が薄いようですから……。ずっとそうなんです。」


そう、結婚しなくても大丈夫だと誰に教えてもらったんだろう。


「金銭的に、政治的に、地政的に……色々理由があって結婚をしなければいけない状況はあると思いますが、理由がなく相手がいない場合はする必要がないと思うんです。私の場合は相手がいないんですけどね」


ちょっと自虐的になってしまったがここはここは軽い笑いどころ。

トラウマとか変な勘ぐりしないで笑って話を流してくれればいいんだよという合図。


「それは、あなたが選ぶことができると思っているからですか!? 結婚することとしないことを」

「選ぶだなんておこがましいですね。私は選ばれないだけなので……」

「いえ、そうではなく、貴族社会で結婚しなくていいだなんて考えることは……」

「あぁ、殿方も『結婚しなければいけない』んですね!」


男性は女性を選ぶ側だと思っていた。でも結婚しないことを選ぶことはできないんだ。

元婚約者も私との結婚が嫌ではあったけど、結婚そのものは拒否したわけじゃない。実際婚約破棄の翌年、婚約・結婚している。


「大変ですね、殿方って」

「すごい……」


ユングリング公爵は呆れたように呟いた。なにがすごいんだろう、私のモテなさ具合だろうか。


「不本意だがこれからこのように社交をしなければいけない。やっていける自信がないな」

「いえ、ユングリング公爵はもう全てを理解していらっしゃいます」

「今日隣だった令嬢も覚えていないのに?」


やっぱり覚えていないんだ。そしてかなり好感を持たれていたことも気づいていない御様子だ。


「女性は、その、難しいんだ。似たような顔が多くて……スード女子爵は覚えたが……」

「あら、私の隣に必ずケニオン男爵がいるとは限りませんよ」

「さすがに忘れない」


すごい自信のようだが今日の行きですら、ドレスの色であろう「紫」、髪の色であろう「黒」そしてフォークを持つ手の側と覚えなければいけなかったのに。


「次どこかの夜会でお会いした時、私に声をかけることができたら、なんでもひとついうことを聞きましょう」

「それはいい考えだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ