発売日
2作品目です。
もし良かったら『ワールドコネクト』もどうぞ!
「ようこそ、『モンスター·バトル·フロンティア』の世界へ」
期待と興奮混じりにログインした俺は、円形状の大広場の一角にいた。
そして、キャラメイク時に設定した姿の面影もない自分の姿がそこにはあった。
「な、なんじゃこりゃあああああ!」
可愛らしい叫び声が大広場をかけ巡った。
★☆★☆★
「ねえねえお兄ちゃん、この前テレビで宣伝してた『モンスター·バトル·フロンティア』買って!それで一緒にやろっ」
春の桜が舞散る季節、妹の遥花からリビングのソファーで寝ているとそんな事を言われた。
『モンスター·バトル·フロンティア』
通称『MBF』
確か5年前の1月に、日本とアメリカの大企業が協同開発でVRフルダイブ技術が完成し、今年の夏頃に世界で初めてフルダイブ技術を仕様した、VRMMORPGが発売されるのだとか。
ゲームにほとんど興味がない俺でもなぜ知っているのかと言うと、新聞やニュースに何度も取り上げていたからだ。
「え、いや、俺はいいよ、あんまりそういうの興味ないし」
「お願い!お兄ちゃん、一緒にやろ?······」
上目遣いで遥花が言い寄ってきた。
俺達兄弟は母がイギリス人の為、遥花は整った顔立ちにすらりと背中まで伸びた金髪、まだ十四歳だが十分魅力的だ。
不覚にも俺はドッキっとしてしまった。
お父さんとお母さんは今は外国に二人で仕事をしているので、家には俺達二人だけだ。
······仕方ない、あまり興味ないが遥花がそこまで言うならお父さんに電話してみるか。
「分かった、お父さんに電話してみるな」
「やったあああああああああ!」
俺はリビングで跳ね回りエキサイトする遥花をどうにか宥め、お父さんに電話をした。
お父さんに電話を掛けてみたところ、全然問題ないらしくお金を銀行に振込んでくれた。
★☆★☆★
そして発売日前日の昼、七月の太陽が地面を焦がそうばかりに照りつける日差しの中、俺は長い行列の先頭に並んでいた。
「あ、暑い······」
俺は肌突き刺すような日差しの中、目を瞑り今の現状の事の発端を思い返す。
「お兄ちゃん起きて!『MBF』買いに行くよ!』
「なんでだよ~、まだ眠いし発売日は明日だぞ」
寝ぼけ眼を擦り俺は遥花にそう言った。
しかし、遥花がただ発売日を間違ってしまったと思った事が失敗だった。
「だからこそだよ!今行かないと明日には長い長い行列なんだからね、今日の夜までには並んでいないとダメなんだよ!」
「いやでもさ、まだ丸1日あるんだぞ、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないから言ってるの!」
頑として譲らない遥花は、俺の前に登山でも行くのではないかと思えるような、大きいバッグをドンと置いた。
「ほら、お兄ちゃん行くよ、準備準備っ!」
こうなると遥花は止まらない。
俺は観念してしぶしぶ身支度を始めた。
それで電車に乗ること数時間、やっと目的のヨドビシカメラに着き、現在に至るという訳だが·····
それにしても暑い、今は午後1時、最も暑い時間帯だ。
熱中症にかかってしまわないように、腐るほど買って来たペットボトルの水は今や数える程しかない。
当の遥花は既にノックアウトして、日陰で伸びていたりするのだが······
俺は脚立に腰を下ろして頭をガックっと下げる。
俺達はゲームを買う為に、熱中症という死と隣り合わせの下らない戦いを繰り広げているのだった。
そして発売日当日の開店時間、俺と遥花は疲れきった体に鞭を打ち、VRMMORPG対応のマシンを買いに店に入った。
入店して白色と黒色の『XZERTA』を一つずつ手に取り、滞りなく会計を済ませた。
★☆★☆★
俺と遥花は買って来た『XZERTA』を起動しネットに接続、頭に『XZERTA』を被り、遥花との音声接続をした。『MBF』のアプリを選択したら急に視界が暗転、次の瞬間真っ白な空間にいて手もとに色々なメニューが並んでいた。
先ずは名前を決める所から始める。
「あっそうだお兄ちゃん、名前は本名はダメだよオンラインでの本名は絶対ダメだから」
「そうなのか、だったら何にしようかな」
「そこは個人のセンスです、お兄ちゃんの名前は清水翠だからカタカナで『ミドリ」とかでいいとおもうよ?」
「そんな事で良いのか」
俺は拍子抜けながらも『ミドリ』に設定した。
「では、先ずは『MBF』の説明をしちゃうね」
「ああ、お願いだ」
今さらだが遥花は結構ゲーマーなのだ。
「通称『MBF』は、今日買ったゲームマシン『XZERTA』の内臓アプリで、世界初フルダイブ技術を仕様したゲームなんだよ。このゲームの凄いところは自由度が他のゲームとは別次元で、建物の中も勿論建物の隙間や水の中にも入れるという何でも可能なゲームなんだよ、ゲームの世界とはいえ味覚、聴覚、視覚、嗅覚、触覚の全てが感じられるという正にゲームの革命と言える物だよ!······っ」
「······何となく凄い事は分かった」
俺は遥花の凄まじい迫力に引き気味になりながらも、内心興味を持ち初めていた。
「このゲームの目的は特に無いのが特徴的·····って言っても目的が沢山あるって言う意味でね、『MBF』の世界は東京と同じくらいの広さでそこにボスキャラクターが居るんだけど、それを倒すと次のクエストに進める仕組みになっているんだよ。それだけがこのゲームの目的じゃなくて、ただゲームの世界で商売をしたり、ただ生活をするだけっていうのもアリって訳。」
「あっ······さっき言ってなかったけどこのゲームは犯罪も可能だからね、せ、性的な事は出来ないけど、窃盗とか人殺しする事も出来ちゃうから」
いや、犯罪良いのかよと内心突っ込みながらも、遥花の説明は続いていたのでそのまま聞く。
「このゲームのもう一つ凄いところがあって、プレイヤー全員に固有スキルが貰えるんだよ、その性能はランダムで決まるから運次第になるけどね」
俺はパソコン等には詳しくないが、スーパーコンピューター数十台分の処理能力がないと無理ではないのかと思ったが、そういう事はいくら考えても分からないので考えないことにした。
「さて、もうこのゲームの凄さが十分わかったと思うからキャラメイクに移るね」
キャラメイクってなんだと遥花に聞くと遥花は得意気な顔で、
「キャラメイクって言うのは名前とか職業決めるものなんだけど、このゲームが他のゲームと違うところは、外見撮影があって自分の外見をベースにキャラを造るんだよ。身長も体型も少しだけ変えられるけど、あまり非現実的なキャラには出来ないかな。」
身長が平均の俺はもう少し高くしたいという小さな願いは儚く散った。
······ゲームなんだからもう少し高くしたっていいじゃないか······
「まあ、ここからが重要で職業とクラスを決めるよ」
遥花は俺の心のヒビを無視し次の説明に入った。
「先ずはクラスの数は数十種類にも及んで、私のオススメは無難な重戦士、剣士、魔導士、とか後はファイターとかかな、暗殺者とかもあるけどそういうのは使いどころが限られているからね」
「むむむ······」
「俺は前衛か中衛が良いかな、なんか格好いいし夢あるし」
「そう言うことなら重戦士か剣士、ファイターが良いかな、お兄ちゃんのスタイルだと剣士が良いかも、あんまり重戦士って感じじゃないしかと言ってファイターもな~って感じだから」
なんか遠回しに俺を貶してないか?
俺はそんなこんなで剣士にすることが決まる。
重戦士と剣士の違いは重戦士は防御力が高く剣士は敏捷が高いという違いがあるらしい。
遥花は後衛の魔導士を選択していた。
ファイターは遥花曰く、前衛を魔法で後ろから援護するクラスらしい。
兄弟なのに選ぶ職業は真逆のスタイルだった。
続いて職業だが種類は3つほどあった。
戦闘職、商売職、生産職の3つだ。
俺は別にゲームで商売も何かを生産するつもりもないので、真っ先に戦闘職を選んだ。
遥花も俺と同様の理由で戦闘職を選んだ。
どうでしたか?次回は多分結構先になると思います。