第五話 俺じゃなくて俺の相棒が力に目覚めたっぽい……
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三ヶ月たった。
ガリガリだったレイももう元気だ。細身ではあるがな。
俺たちはまだ森にいる。
街にいこうといったら、レイが難色を示したのだ。今行っても、身寄りの無い自分はすぐに奴隷商に捕まってしまうとのこと。
なるほど、身長180cm近い俺はともかく、150cm弱のレイは格好の的だ。見るからに弱そう。さらに美少女エルフときた。
俺だったら、レイが売られていたら衝動買いするかもしれない。買えない値段だったら宝くじを買いまくる。今のレイはそれぐらい美少女になってしまっているのだ。
辛いサバイバル生活の中でレイは貴重な清涼剤だ。
レイの意見は尊重したい。
★☆★☆
俺はその時、食べられそうな草を集めていた。
「これよもぎっぽいな。取っとくか」
無造作に摘み取っていく。
この三ヶ月、結局あの洞窟に戻れずにいた。どうやら、あの一帯は元々熊の縄張りだった。だが熊がいなくなったことを嗅ぎ付けた豚が、その縄張りを乗っ取ったという形だ。豚はなおも縄張りを広げようとしている。困ったものだ。
あいつは倒さないとこっちの命に関わるからな。
うっかり出くわして撲殺されかねない。
そんなことを考えながら、俺は今の拠点へと帰った。
「レイさ〜ん。帰ったよ〜」
あれ?
レイがいない。
「上よ、ソウジ」
レイは木の上にいた。
出会った頃のおどおどした雰囲気はさっぱり消えてしまった。ちなみにソウジというのは俺が日本で高校生に扮していたときの名だ。
〜〜〜
『結局、本当の名前は何なの?』
『俺には108通りの名があるからな。俺ほどの魔術師ともなると』
『それも作り話なんでしょ?』
『つ、作り話でも設定でもねぇよ……。だから俺のことはギルサンダー殿と呼べと何度言ったらーー』
『名前教えて!』
『ひぅっ!? だ、だかりゃ、ギリュシャンラーって……』
『本当の名前教えて!!』
『二宮創二です』
〜〜〜
あまりにせがまれるので、女子に甘い紳士な俺は教えてやったという訳だ。
と、それはいいとして。
「なにやってんだ?」
高いところから周りを警戒しているんだろうか。俺も木に登ることにした。
「ちょっと待ってて」
そう言うとレイはお手製の弓を構えた。木の上なんて足場が悪そうなのに、何を狙ってるんだ? 木の上に登り、再びレイの方をみる。
「……っ!!」
声をかけるのがためらわれた。射抜くような視線で何かを見つめている。集中しているのが伝わってくる。
ん?
なんかレイを中心に、少し風が渦巻いてるんだが。
レイは真っすぐ飛ぶかも怪しい弓をキリキリと引いていく。
——ヒュオン。
鋭く風をきる音と共に矢が放たれた。
コンマ数秒遅れて、
——ズォォオオオン!!
遠くで大きな音がして、さらに遅れてわずかに地響きがした。
大きな音がしたあたりで鳥が一斉に羽ばたいているのがみえる。
え?
レイさん?
「行こう、ソウジ」
「仰せのままに」
うっかり尊敬語になった。
レイとともに300mほど離れた、矢の着弾点と思われる場所へ移動する。そこにはイノシシの死体があった。眼球から入った矢が後頭部を突き抜けている……。
「あの、これはレイが?」
「そうだよ。今夜は豪華だね」
何この子強すぎ。
レイがイノシシの足をつかむ。運ぼうとしているようだ。
ぐっ、と手に力を込めて、
「ふぬぬぬぬっ!!」
1mmも動いていませんよ?
レイの顔が真っ赤になっていく。力み過ぎ。でも良かった〜。筋力では負けてなくて良かった〜。
「レイは非力だなぁ。ここは俺に任せろ」
「うん……。お願い」
イノシシを担ぐ。
だいたい60kgくらいか。
それでもあの弓の技量はチートだよなぁ。
もう奴隷商なんて脅威じゃない気がする。
俺は歩きながら聞いてみることにした。
「なあ、そろそろ街へいってもいいんじゃないか?ここにいても豚がいるし」
「うん。私も前よりは強くなれたと思う」
「おお! なら明日出発しないか?」
「そうだね。……でも、街に行っても教えてね?」
「教える?」
「ほら、毎晩おしえてくれるじゃない」
「ほぉう……。もっと知りたいと」
「う、うん……」
勉強熱心なお嬢さんだ。
夜の勉強会の虜になってしまわれたようだ。
毎晩、たき火の明かりをたよりに算数を教えている。
小学校レベルの四則演算である。
奴隷だったレイにはそれが新鮮らしい。
いつか保健体育も教えてあげなくちゃ。
教育者としての猛烈な使命感にかられた。
★☆★☆
夜になりました。
イノシシ、おいしかったです。イノシシは意外と脂肪が多かった。塩はないので、しそっぽい草と一緒に食べた。塩と胡椒のありがたみがよくわかる。
「服が欲しいな……」
いろいろ不便なサバイバルに思いを巡らせていると、ふとそんな言葉が口から漏れた。俺は別段ファッションに気を遣う方ではない。だが、ずっと同じ私服なのだ。
洗っているとはいえ、もうボロボロなんだよ。レイの奴隷服という名のただの布はもう土に還った。今はずっと俺の上着を着ている。
うむ、とてもエッチな格好だ。
「服? そんなことより、ワリザン教えて!」
「そうだよな、服なんてどうでもいいよな」
「ワリザンはカケザンの逆をすればいいんだよね」
「ああ」
こうして夜は更けていく。
街に行ったら行ったで苦労しそうだな。
でも、楽しみだ。
レイは眉を寄せながら、俺が地面に書いた簡単な数式を解いている。
「レイ、そこを解いたら今日はもう寝よう」
「もう? いつもより早くない?」
「明日は早朝に出発だ。明るいうちに行けるとこまで行こう」
「は〜い」
素直に返事をして、いそいそと寝床作りを始めるレイ。
今更だけど、レイってこんな明るい性格だったんだな。
出会ってから一週間は内気な子だと思っていたんだけど。
ま、なにはともあれ今は寝るか。