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レベル?100だぜ。……二進数に直せば。  作者: 枇杷
第一章 キチとの遭遇
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第四話 敗北ではない。戦略的撤退だ。

「これよりレイに狩りの極意を伝授する。心して聞くように」


「いえす、プロフェッサー」


「己の感情を消す。これが最初にして最後の極意だ」


「それだけ?」


 きょとんと首を傾げるレイ。

 

「そうだ。無我の境地へと至ることこそが狩りの真髄だ」


「プロフェッサー、よく分からないです……」


 レイには難しいかな?


「ところで、元帥じゃなかったの? なんでプロフェッサーって呼ばなくちゃいけないの?」


「今日はハンティングのプロとしての俺を見せる時だからだ。プロフェッサーというのは俺の渾名のひとつだ」


「……?」


 レイは不思議な物を見る目でこっちを見ている。今ひとつ俺の言うことが分かってないようだ。


「呼び方は統一した方が便利じゃない?」


「な、なんてこというんだ!? 分かってない、わかってなぁい!!」


「ご、ごめんなさい」


 レイが一瞬ビクッとなった。

 

 正論ぶつけるとか、マジやめろよな。これだからトーシロは……。


 気を取り直して。


 昨日と同じく、野いちごゾーンにきている。今日は昨日と違って、ウサギは白いワンピースを着ている。


「ここにあらかじめ摘んでおいた野いちごがある」


「うん」


「これであのウサギをおびき寄せるんだ」


「そのあとは?」


「……殺すんだ」


 やっぱりこんなことやらせるべきじゃない。見た感じ、レイは中学生くらいの歳だろう。あまりショッキングなことは……。


「やっぱり俺がやろうか?」


「いい。私、アイザッ……元す……プロフェッサーに助けてもらってばっかりだから、役に立ちたいの」


「そうか……」


 そうだな。

 

 ここはもう、安全な日本じゃないんだ。生き物を殺すことをためらっていては、自分が死ぬことになるんだ。俺は心を鬼にして見守ることにした。


 


 レイがウサギの前に姿を現す。

 

 野いちごを見せて微笑みかけ、警戒心を解こうとしてるみたいだ。ウサギはフンフンと鼻をひくひくさせながら、近づいていった。

 

 あと5メートル。

 

 あと3メートル、2、1。


 ーーガッ!!


「いやっ!?」


 今日もウサギのか細い悲鳴が森に響く。 

 

 レイが突然ウサギの首をつかんだのだ。そのまま両手で締め上げていく。


「や”め”ッ————」


 のどを絞められながらも、ウサギは叫ぼうとする。だがレイは無表情で首をつかんだまま、力を緩める気配はない。


「ゴロジデヤルゴロジデヤル!!」


 聞こえない。

 俺には何も聞こえない。

 ウサギの恨みのこもった魂の叫びなんて聞こえない。


「ゴロジ————」


 ——ゴキッ。


 鈍い音がしたかと思うとウサギの両腕(両前足)が、だらんと垂れ下がった。


「殺ったよ! プロフェッサー!」

 

 ウサギを片手に、無邪気に駆け寄ってくるレイ。


「よくやった。いやホントに」


「プロフェッサー、どうして震えているの? 寒いの? 温めてあげようか?」

 

 いや、ついさっきウサギを冷たくした人に言われてもね……。

 

 でも、俺がやらせたんだよな……。逆にこっちがショッキングな光景でトラウマになったじゃねえか。


「ウサギもとれたことだし、帰るぞレイ」


「うん!」


 レイは上機嫌だ。

 一方俺は複雑な気分だ。

 

 考えてみれば、レイは奴隷だったって言ってたし、俺よりよほど過酷な人生を歩んできたんだろうな。

 

 …………。

 

 できればいい暮らしをさせてやりたいし、俺もしたい。

 

「レイ、もう少ししたら、街へ行かないか? ……レイ?」


「…………」


 あぜんとした顔で突っ立っている。


「レイ、どしたよ」


「プロ! 前、前っ!!」


「あっ、こら。プロフェッサーつったろ。勝手に略すんじゃ——」


 レイに注意しながら、前を向く。

 するとそこには、


「ブヒィィイイ!!」


 そこには二足歩行の豚がいた。

 いやオークか? いや二足歩行豚か?


「ブヒャヒャヒャヒャ! 男の方は殺すが、女の方は命だけは助けてやるぜぇ?」


 女?

 

 ここには男しかいないんだが。確かに俺は女顔の爽やかなイケメンではあるがな。


「女はあとでたっぷり犯してやるからよぉ!」


 レイはすぐに俺の後ろに隠れてしまった。レイにつかまれた服から、震えているのが伝わってくる。


 まいったな。

 武器もないのに、どうする……。

 

 オーク?の大きさは2メートルを優に超えている。豚の手の棍棒が実にデンジャラスだ。力比べで勝てるとは思えない。正面から戦ってはダメだ。


 ここには男しかいないから、俺かレイを女だと勘違いしているんだろう。


 いや待てよ?

 いるじゃないか、女が。


「おい豚、お前が犯したいというのはこのウサギだな?」

 

 首を折って殺したから、外傷はない。

 オークはウサギが気絶しているだけだと思っているのだろう。


「い、いやそんな特殊な性癖はねえよ……」


「隠す必要はない。なぁに、心配するな。こっちはコイツを引き渡してやってもいいって言ってんだぜ? その代わり、この場は引いてもらおう」

 

 オークは困惑した顔を見せている。

 何言ってんだ、とでも言いたげである。

 無理もない。

 条件の良すぎる提案に驚いているのだろう。


「戦えば双方傷を負うことになる。仮にお前が勝ったとしても、その後のお楽しみに使う体力が残ってなかったら台無しだろ?」


「…………」


 なおも訝しげな視線を送ってくる。

 まだ説得にはいたらないか。


「な、いい取引だと思わないか?」


「なあ、その、一つ聞きたいんだが、お前はお前の後ろの奴とウサギを比べたときウサギとヤるか?」


 後ろの奴ってレイのことか?

 なんだ? 何を言っている??

 ……あ、まさかこいつ。

 

 両刀か。


 そりゃそうか。

 獣姦がいける奴なら、美少年くらい喰ってしまうのだろう。

 ま、人(豚)の趣味に口はだすまい。


 質問の意図を察するに、レイとウサギとではどっちがオススメかを聞いているのだろう。レイを渡すわけにはいかない。ならば答えは決まっている。


「ああ、このウサギにするな」


 自信を込めてそう言ってやった。

 

 奴は商品に対する信頼が欲しいのだ。

 であればコイツが求めている言葉を言ってやるのみ。


 豚は一瞬驚愕に目を見開くと「マジか……」とつぶやいて、俺から目を逸らした。

 今だ!

 目を逸らした瞬間に、俺はワンピースウサギを豚に投げつける。


「ほらよ! 欲しけりゃくれてやる!」


「ちょ、おま、何すんだ!」


「レイ、走るぞ!」


 レイの手をつかみ、一目散に駆け出す。

 

 捨て台詞の一つも吐きたいところだが、あいにく余裕がない。走っているスピードが違うため、レイを引きずりそうになる。レイは年下な上、栄養失調状態だから仕方がない。

 

 レイを担ぎ上げ、森の木々を縫うように疾走する。振り向いてはダメだ。それだけでロスになる。


「はぁっ、はぁっ!」


 命が掛かってんだから意地でも頑張る。背後に迫る音はない。巻けただろうか。

 

 10分ほど全力に近い速度で走ったところで、茂みの中に隠れた。


「きっつ……。脇腹超いてぇ……」


 豚野郎は見当たらなかった。

 ふぅ、ほっと一安心だ。


「あ、あの……」

 

 ちょいちょいと服を引っ張られた。

 いつもの仕草だな。


「どうした?」


「なんで助けてくれるの?」


 今更な質問だな。

 ではお答えしよう。


「それが運命だからだ」


「運命?」


「そうだ。俺がレイを助ける運命だったのだ」


「運命……」


 レイは深く考え始めてしまった。

 

「あまり考えすぎないことだ。とりあえず納得しておけ」


「……うん。あの……」


「ん?」


「ありがとう」


「おう」


 しかし汗かいたな。

 シャワー浴びたい。もちろんそんなの無いけど。


「レイ、川に行くぞ」


「うん」


 周りに警戒しながら、俺たちは水浴びに行った。





「ふぅ……」


 服を脱いで川に入る。ミネラル豊富そうな水が気持ちいい。レイの方を見ると、河原でもじもじしている。


「どうした?」


「あの、えっと」

 

 どうしたんだろう。

 今までは俺の上着をタオル代わりに身体を拭いてやっていたが、そろそろ水浴びくらいしたいだろうに。


 髪もボサボサで、目元は隠れているままだ。深い緑の髪も相まって万博のキャラみたいなんだが。


 水が怖いのかな?


「よし、俺が入れてやろう」


「え!? あっ」


 服(といっても奴隷服なので実質ただの布)を脱がし、川に入れる。そして頭から水をぶっかけてやる。


「きゃあっ!?」


 まるで女の子みたいな声だな。

 胸なんかよく見ると微妙に膨らんでて女の子みたいだな。

 下半身なんて、アレがないしまさに女の子みたいだ。


 ……女の子じゃね?


 レイはすぐに胸元を隠すとうずくまった。

 水をかぶったおかげで、ボサボサだった髪がストレートになり、かき分けられた前髪から目元がみえた。

 羞恥に赤くしている顔は、美少女といってもよかった。


 そしてそれ以上に驚いたのが、


「耳が……長い?」


 レイはエルフ耳だったのだ。

 今まで髪に隠れてみえなかった。

 

 状況が違ったなら、その耳に対し賛辞を送り拍手喝采するところだが、今はそんなことする気にはなれなかった。


 ぎゅっと瞑られたレイの目の端に光る涙が、俺の心を抉る。

 お?

 もしかしてセクハラ事案ですか?


 ……女の子だったのか。

 パーキングエリアにしたくなるほど真っ平らだったんで気付かなかった。



---------------------



 森の中央、一匹の豚がいる。


「今日は変なキチ◯イに遭遇しちまったな……」


 ぼそりと独り言を漏らす。


「だがせっかく女を見つけたんだ。俺は諦めねえぞ?」


 下卑た笑いを浮かべながら。

 

 

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