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レベル?100だぜ。……二進数に直せば。  作者: 枇杷
第一章 キチとの遭遇
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第三話 たとえ罪を背負うとも

 男の子を拾ってから三日たった。


「火が欲しいんだけどな……」


 火がないと料理ができない。

 石同士をぶつけて火花を起こそうとしたが、出ない。

 いつかキャンプでやったように、木の棒を使って摩擦で火を作ろうとしたが、やはり上手く行かない。

 

 街にいきたいが、少年の体力がな……。

 長旅に耐えられるか分からない。

 ここでもうちょっと回復させるべきだ。


 故にまだまだ森での生活は続くだろう。 

 あ〜、肉が食いたい。

 …………。

 やむを得ん。

 俺は……犯罪に手を染めようと思う。





  一日中、道の真ん中に立って商人の馬車が通るのを待った。

 そしてようやく馬車が来たところである。

 今だっ!

 俺は草陰から飛び出す。


「止まれ!」


 俺が立ちふさがると、馬車は急停車する。

 う、馬って正面に立たれるとちょっと怖いな。


「なんだ?どうしたよあんちゃん」


 ボサボサの髪の男が降りてくる。

 一人とは好都合だぜ。

 オーケー、始めが肝心だ。

 ビビらせてやんぜ。


「命が惜しかったら、マッチかライター置いてきな」


「はぁ? なんだ、葉巻でも吸うのか? 火くらいなら貸してやるよ、ほれ」


 男はマッチをこっちに投げて渡した。

 あ、あれ?

 ミッションコンプリートか?


「ところであんちゃん、なんだってこんなとこにいるんだ? 街まで乗せてくってんなら銀貨二枚で手を打つぜ」


「なんと! 二人いるんだが大丈夫か?」


「二人か……。一人なら乗れないこともないんだがな……」


 ダメか。

 ていうか友好的だな。

 

「無理なら諦める。だが、このマッチを譲ってはくれないか?」


「大銅貨一枚」


「えっ?」


「マッチ一箱で大銅貨一枚だ」


 金持ってないんだが。

 何か代わりの物を出すしかないな。

 仕方ない。俺の宝を差し出すか。


「金はない。代わりにこのタニシでどうだ?」


「い、いらねえよ……。はやく捨てろよそんなもん」


「じゃあこの河原で拾った綺麗な石でどうだ?」


「いらねえって。なんでガキが集めそうな物ばっかなんだよ」


 かといって、野いちごやドングリは貴重な食料だしな。


「もういいよ。マッチはただで譲ってやる。そのかわり、街にいったら『ジュール商会は信用出来る』って噂でも流してくれ」


「ジュール商会? それがあんたのことか?」


「ああ」


「わかった。約束しよう。ちなみにここから街までどのくらいだ?」


「この道を東に、馬車で一週間ってとこだよ。じゃあ俺はもう行くわ。達者でな」


 そう言うと男は馬車に乗って走り出した。

 俺は見えなくなるまで、その後ろ姿を見ていた。

 親切なおっさんだったな。


 さて、戦利品もゲットしたことだし帰るか。

 てくてくと洞窟へと戻った。



 

 

 洞窟の中では少年が寝ている。

 俺が近寄ると、少年は身体を起こした。

 まだ調子は悪そうである。


「よう。今日はマッチを手に入れたぞ。今日は肉にしよう」


「あ……あの、あり……がとう……ございます」

 

 はじめて声を聞いたな。

 ゲホゲホと咳き込みながらだったので、今までのどの調子が悪くてしゃべれなかったのかもしれない。


「気にするな。マッチくらい」


「それも、だけど、その、助けてくれて……」


「いいから休めって」

 

 一命は取り留めているようだけど、拾った時は今にも死にそうだったし。

 そうだ。

 聞いておきたいことがある。


「なあ、お前はなんて名前なんだ?」


「名前……ない」


「ない? どうして」


「私……奴隷……だった」


 ふぅん。

 じゃあ俺がつけるか。

 子供に名前を付けるなら、レイかマリかアスカにしようと思っていたがどうしよう。

 男だもんな。

 レイなら男でも大丈夫だろ。

 

「お前の名前は今日からレイだ。いいな?」


「……わかった」


「ちなみに俺はアイゼリック・シュルト・ヴァン・ギルサンダーという。 ま、元帥とでも呼んでくれればいい」


「はい、元帥」


「うむ。では俺は戦場にいってくる。レイはここで待っていろ」


 俺が立ち上がろうとすると、やはり服を引っ張られた。

 さっきも馬車を襲う前、洞窟を出て行こうとすると引き止められたのだ。

 なんとなく分かるが、俺のことが好きとかではなく、彼は一人が怖いのだろう。


「いいからここで待っているんだ。すぐ帰ってくる」


「……うん」


 少年をおいて、俺は野いちごが多くある場所に向かった。



 


 野いちごエリアに近づいてきたので、足音を立てないように注意する。

 目的は野いちごではないのだ。

 今日のターゲットは……いた!


 町娘のような格好の二足歩行ウサギだ。

 夕食はウサギ肉だぜ。

 今日もバスケット片手に野いちごを摘んでいる。

 時折、花の匂いをかいで、ふふっと笑っている。


「おいしそうなベルリがたくさんなっているわね。いくつか摘んで帰れば、病気のおばあさんもきっと良くなるわ」


 ウサギは一人言を言っていて、俺には気づいていない。

 よ〜し。

 ゆっくり、ゆっくり。

 そ〜っと近づいて……後頭部を殴打ッッ!!


「きゃっ!?」


 女性のような悲鳴をあげ、ウサギは動かなくなった。

 動かなくなったところでウサギの服をむく。

 服は食えないし、ここで捨てていこう。

 …………。

 むいている途中で手が止まる。


 俺は何をやってるんだ?

 罪悪感が半端ない。

 だ、だがこれも自然界の掟だ。

 弱者は強者の糧なのだ。

 俺は悪くない、俺は悪くない。

 俺は……

 ・

 ・

 ・

 ・



★☆★☆


 その夜。


「ほら、焼けたぞ。ウサギの丸焼きだ」


「……おいしい」


「そうかそうか!」


「元帥、一つ聞いてもいい?」


「なんだい? お兄さんに話してごらん?」


「なんで泣いてるの?」


 …………。

 俺は喪失感を感じていた。

 推理小説で気に入っていた女の子があっさり殺されてしまったような、そんな感覚。

 俺が殺めてしまったあのウサギちゃんも、ウサギたちのヒロインだったのかもしれないな。

 

「クッ……! ごちそうさまぁ!!」


 涙でほどよい塩味の着いたウサギ肉を俺は完食した。

 レイもしっかり完食したようだ。

 日本で食べた飯には遠く及ばないけど、こんなもんだろ。


「ねえ、アイゼリック」


「アイゼリック? なんだそりゃ?」


「え?」


「あっ……。何かね?」


 あぶねー。

 俺の名はアイゼリック・ナントカ・ギルサンダーだった。

 うっかりしていた。

 世界最強の魔術師ともなると、うっかり本名を忘れてしまうこともあるのだ。


「私も……ゴホッゴホッ……手伝いたい」


「手伝うって?」


「その、ウサギ狩りとか」


 おっと。

 さすがにアレをやらせるのはな。


「や、やめておこうぜ。危険だよ」


「やらせて欲しい」


「だが…………」


「…………」


「わかった……」


 結局、無言の圧力に根負けした。

 ということで次の日から一緒に狩りをするようになった。

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