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レベル?100だぜ。……二進数に直せば。  作者: 枇杷
第一章 キチとの遭遇
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第二話 まだ本当の力を出してないだけ

 投げ捨てられた人に近づく。

 よかった。まだ息をしている。

 だが、生きているのが不思議なくらいに痩せ細っている。

 正直、男か女かもわからない。

 ボサボサの深い緑の髪に、白い肌。

 俺より少し小さいので子供だとは思う。


「捨てられたものならもらってもいいはずだ。だから名も性別も知らない君は今から俺の物だ」


 もちろん聞いているなんて思っていない。

 

 俺は静かにその子を担いで川を探した。水を飲ませるべきだと思ったのだ。足に絡み付くような雑草の中、俺は歩く。


 

 程なくして渓流が見つかった。水の流れる音が心地よい。クリオネが住んでいそうなくらい綺麗だ。あれ?それ海水じゃね?


 まず俺は上着を脱いで湿らせて、この子の身体を拭くことにした。衛生的ではなかったのだ。この子の身体が。

 

 むむ……。胸が平らだ。男なのか。ちょっと残念だが、今は助けることに集中せねば。

 

 身体を拭いていると男の子がゆっくりと目を開けた。


「気がついたか。ほら、聖なる水だ」


 大きめの葉に水をすくい、男の子の口元に持っていく。虚ろな目で抵抗することなく飲んだ。


「よし、ここで待っていろ」


 男の子を一旦寝かせる。

 

 衣食住の食と住を確保したい。手頃な洞窟とかないだろうか。当てはないが俺はとにかく行動することにした。と、後ろで音がする。

 

 振り返ると、あの子が這いながら追ってきていた。立つ体力もないというのに……なんと言う忠誠心だ。さすが俺の部下だ。


「素晴らしいガッツだ……! だが無理はするな。俺が背負ってやろう」


 俺は部下の熱い思いに涙しながら彼を背負い、寝床にいい場所を探し始めた。


 歩くこと20分。

 洞窟を見つけた。

 なんと都合のいい。

 早速入ってみることにした。

 

 ……ちょっと暗いな。

 コウモリはいないみたいだけど。

 洞窟にしてはジメジメしていない。

 

 すぅ、すぅ。

 寝息が聞こえてきた。寝てしまったようだ。

 しかたのないやつめ。


 ぐぅ、ぐぅ。

 あれ?

 なんか音が大きくなったし、聞こえてくる方向違くない?

 うっすらと見えるシルエット。

 熊、あるいは熊だろう。もしかすると熊ということもありえるかもしれない。


 俺は静かに外に——


 ——ジャリッ。


 …………。

 なんか小石踏んだっぽい。

 熊、起こしてないよね。


 おそるおそる洞窟の奥をみると、シルエットがのっそりと立ち上がるところだった。熊は立ち上がると、グルルと喉を鳴らした。これは……最強魔術師の俺でもキツいか。


「いえね、確かに勝手に入った俺らも悪いっすけど、表札出さなかったおたくにも非があるっていうか……。いや俺もあんまこういうこと言いたくないんスけどね」

 

「ここでは表札などない。この地では俺がルールだ」


 えっ。

 しゃべるの?

 よかった。敬語使っててよかった。

 いや良くないわ。相変わらず状況は最悪だわ。


「すんませんでした。じゃ、俺らはこの辺で」


「生きて返すと思うか? ここで我が糧となれ」


 こ、コレはまずい。

 俺は一目散に走り出した。

 

 くそっ! 木と草がうっとおしい!

 

 本来なら戦ってもいいのだが、今はコンディションが悪い。走っている途中で男の子がちょいちょいと俺の服を引っ張った。

 

 なんだ! こんな時に!

 

 なにやら自分を指差している。その次に……熊を指差した。なんだ? 何を言ってるんだ?もしかして……自分を指してるんじゃなくて、自分の鼻を指しているのか?

 

 鼻……熊……。

 

 そういえば、熊は鼻が弱点だと聞いたことがある。鼻を思い切り叩けばひるむとか。よし、どうせ追いつかれるしな。急ブレーキしながらいそいで木の棒を拾う。と、同時に男の子を地面に横たえ、迎撃の姿勢をとる。

 

 飛びかかってくる熊をギリギリで躱しながら——棒を振り下ろす。


「どりゃあああああ!!」


「グオオッ!!」


 鼻を外れ、熊の目に当たった。

 

 俺はというと、突進の直撃は避けられたが、熊の前足が脇腹を掠った。あれ、服の脇腹部分が破れてる……。

 

 これは……。


 もしかしてと思ったら、脇腹から時間差でドクドクと血が溢れ出す。


「ヒィイイ!! 怖い、怖いぃぃぃいい!!」


 ねんざ以上の怪我したことないのに! 死ぬのか!? 俺は死ぬのか!? …………死ぬのか。


 …………。


 俺は熊に勇猛に立ち向かった英雄として散ってしまうんだな。

 

 ならばこの子のためにも、あの熊をなんとかしたい。せめてもう少し弱らせよう。それでどうにかなるとは思わないが。


「うおおおおッ!!」


 まだ目を抑えている熊に向かって、決死の捨て身タックルを敢行した。


「グゥッ!?」


「オフッ」


 バフンと跳ね返る。

 

 見ると、熊は必死に崖にしがみついていた。何と『都合良く』崖が合ったのだ。気づかなかった……。


 一瞬状況が頭に入ってこなかったが、これは……俺の勝ちだよな。

 

 「じゃあな、俺に挑んだのが貴様の運のつきよ」

 

 「ギャオオオオォォォーーーー…………」


 しがみついていた前足を蹴り飛ばしてやると、崖の下へと落下していった。断末魔がこだまするように響く。


「ふぅ……」


 自分の脇腹を見る。

 

 そっと手を当てると、べったりと生暖かい赤いものが手に着いた。手が……震えている。あ、あれ。なんだか寒い。

 

 寒い。


 傷口を見ていたくないので、上着で縛った。それから、男の子を背負って洞窟の奥へとおぼつかない足取りで移動した。


「……俺は……最強の魔術師だ。死ぬわけない、死ぬわけない……。俺が……死ぬわけ……」


 なんだか寒い。

 

 震えが止まらない。たまらず俺は膝を抱えて座り込んだ。おかしいな、血が止まらない。


「お、俺は……大丈夫だ……」


 自己暗示。

 

 自分に語りかける。突然、背中に暖かいものを感じた。男の子だ。俺の様子を見て、抱きしめてくれたようだ。

 

 普段なら女の子がよかったと文句を言うところだが、この時はこの子の暖かさがすごく心地よかった。


「そうだよな。部下をおいて死ねないよな」

 

 優しく男の子の頭を撫でた。

 

 ……食料を探しにいこう。せっかくマイホームも手に入れたんだし、お父さん頑張らないと。俺が出て行こうとすると、またも服を引っ張られたので、再び背負って出かけることにした。


 結果、ドングリっぽいものを拾った。たぶん食べられる。石ですりつぶして、二人で仲良く食べた。クソまずかったです。




 その後はすぐに寝てしまった。

 

 さすがに疲れたのだ。

 洞窟の中は比較的快適、とはいいがたいが贅沢はいえん。


 こうして、謎の地での生活一日目は終わった。 


 

 


 

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