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第二話 三つの願い

 辺りは暗く、暗闇の中は見通せない。

 見えるのは目の前にあるパソコンの画面のみ。


 いつも使っているパソコンの画面。

 いつもやってるあのゲーム。

 僕はそれをぼうっと見ている。

 多分夢なんだと思う。

 体は動かせないし、頭も働かない。

 理性は驚いているのに体はリラックスしたまま。


 画面を眺めていると唐突に電子音が鳴る。

 操作をしていないのにゲームが始まった。

 選ばれたのはマルチプレイヤーモード。

 

 身体情報の入力。

 名前、年齢……入力が続く。

 「>入力を終了します」

 その文字列を目にした瞬間、僕は完全に覚醒した。


 ……は? え? なにこれ――夢?

 座っていた回転椅子を回して周囲を確認してみるけど、どちらを向いても暗がりばかりで光はパソコンの画面が発する明かりだけ。

 立ち上がってみると意外に天井が低かったらしく、したたかに頭をぶつけて悶絶した。


 いや、マジで痛いんですが。

 あー、夢じゃあない?

 現実?

 ……どうなってるの?


 とりあえず左右は透明な壁に挟まれているらしい。

 パソコン台の幅のみで、横からパソコンの裏に回りこむのは無理そうだ。

 天井の低い一畳間に閉じ込められてるってのが多分今の状況。

 はい。どう考えてもオカルトです。 


 さて、どうしようか。

 と言うかどう考えても目の前のこれ(・・)だよね。

 このゲームでなんかしろと?

 試しに操作してみるけど登録した身体情報の変更やキャンセルはできないらしい。

 

 考え込んでいると画面右上のヘルプキーが点滅を始めた。

 違和感ありすぎだけど、誘われてみるしかないよね。


 恐々しながら選択すると、画面がめくれるようなアニメーションと共にマニュアルと書かれたページが表示された。

 画面一面を使って何やら文章がびっしりと書かれている。

 確認すると左側片面は説明であり右側片面は契約書だ。

 何でも、ゲームの世界へ行くことができるらしくその契約書らしい。

 都市伝説か何かかと笑い飛ばそうにも現状がそうさせてくれない。

 どうやら本物らしいと納得して説明をもう一度確認する。


 まず初めに、行くのは「ザ・ダンジョン4 三つの願い」の世界だということ。

 ダンジョンマスターとしていくということ。

 ゲームと同じ条件で始められること。

 行くのであれば自分は死んだ、または死んでいたことになるのだということ。

 そして最後に「私」を見つけて「原初のダンジョン」をクリアするとどんな願いでも叶えられるということが書かれていた。

 また、行かないのであればパソコンの電源を落とすようにとも。


 どうするのかって?

 考えるまでもなく行くに決まっている。

 明彦や雪には悪いけど、家族のいない僕としては未練が少ないこの世界より太く生きられるゲーム世界の方が魅力的に映るから。

 多分僕は両親と一緒に死んだことになるんだろう。

 悪いけど、自分勝手させてもらうよ。

 

 契約書にカーソルを当ててキーボードで自分の名前を入力。

 エンターを押した瞬間マニュアル画面が閉じられ、さらに別の画面が表示された。

 

 ここからはいつもの手順。

 まずは初期DP10000が配布される。

 次にそれを使用してダンジョンの位置、ダンジョンの構造、モンスターや罠の設置、スキル取得やアイテムの売買などを行うのである。

 ちなみにDPは自分のダンジョンに侵入してきた敵を討伐したり撃退したりで入手することができるのだが、それはゲームが始まってからの話。

 まずは初期設定だ。


 初めに決めるのはダンジョンの位置に付いて。

 この世界は崩れたドーナツ型に人の文明圏が広がっていて、魔王が支配していた中央または世界の端の未発見領域に近づくほど危険度が上がることを念頭に、「ランダム」0DP、「特定地域」2000DP、「上位八国の内ランダム」が1000DP、「下位八国の内ランダム」が500DP、「国外・安全域」が300DP、「国外・危険域」が200DP、「未発見領域」が100DPとなっている。

 上位八国には住人が大勢いる代わりに上位騎士も多く、軍が強い風潮がある。

 下位八国には住人が少ない代わりに冒険者が多く、上位冒険者の存在もここだ。

 国外は魔物の方が多く、外や中央に向かうにつれ強くなる。

 未発見領域ともなれば何が潜んでいるか分からないどころか購入リストに載っていないモンスターが徘徊していることもあり得るという。

 ストーリーモ-ドでは一度も行ったことが無いんだけどね。


 ダンジョンの構造についてはまた簡単と言えば簡単で、基本的には3立方メートルの通路兼小部屋を並べて作ることになる。

 1部屋作成に1DPが必要で、部屋のサイズ変更や連結、材質変化に形状変化、環境変化までDPを使用することで変更することが可能。

 環境変化では一層につき100DPも使えば火山や氷海なんてのも設定できるのだけど、この環境で生じた炎や冷気、瘴気なんかに関しては作成者たるダンジョンマスターが影響されることはないので心配無用。作っていて自殺せずに済むのはありがたい。

 ちなみに全10000DPを使用して「ただの通路」を作ろうというのであれば、一部屋1DP連結に1DPで約15キロの通路が出来上がることになる。


 魔物(モンスター)は基本20種に、召喚する部屋の状況により種類と数が変動する。

 例えば18x18サイズの火山フィールドであれば【精霊イフリート】の召喚が可能であるとか。

 高度9メートル以上で鳥型モンスターを、高度30メートル以上で飛竜型モンスターを召喚することが可能になる。

 僕が知ってることは少ないんだけどね。

 ストーリーモードはクリア済みとはいえ、リストに載っている全数百種を網羅することはさすがに無理だったから。


 罠もモンスターと同様。

 落とし穴や吊り天井と言ったオーソドックスな罠から、底なし沼や間欠泉と言った環境系の罠、ゲームには付き物のワープ系や状態異常系の罠など目白押しだ。

 これも環境変化と同じくダンジョンマスターには無影響。

 自殺はやっぱり嫌だからね。

 個人的には「無限沸きモンスターハウスに挟まれた通路」なんて罠を作るのが好きだったりするのだけれど、それだけでDP1000以上は軽く使うので作成は慎重にすべきな今回は見合わせだ。


 スキルは……これも多くて選択に困る。

 他のゲームみたいに「ランダムで一個プレゼント」なんてことが無いから買わないと無力な一般人だし。

 属性魔術系がオーソドックスで、【地図】や【時計】が便利スキル。

 【アイテムボックス】なんかは是が非でも取るべきスキルなのだけれど、DPが8000もするから初期で取るには勇気が必要。

 というかダンジョンから出ないのであればほぼ無用のスキルでもある。

 ああ、大量の交易品を保存しておくには必要になるかな。


 アイテムは日用品や食料、装備などなど。

 売買は1DP以上の価値がある品物であれば何でもできるし手数料すら取られないので、価格変動や拾い物を売るだけで儲けられたりもするから一見やさしそうに見える。

 実際は「ダンジョンコアがある地域での」価格設定だから、未発見領域なんかになるとレアアイテムでも紙くず同然の値段でしか売れなかったり低レアアイテムの方が手に入り辛かったりして価格の見極めがかなり厳しかったりするし、攻略サイトに頼れない分玄人向けだったりする。


 他にも宝の設置や上位種の契約召喚、住居の改善など色々あるのだけれど、そちらは普通DPの収支が上向いてから手を出すべきものだからいつも通り見送りかな。


 今回は……どうしようか。普通に作ってもいいんだけど、クリア条件が設定されているのであればそれを可能にしたダンジョンにしたいかな。

 報酬が別にいらないと言ってもさ。


 ルールを再確認すると、ダンジョンマスターが他のダンジョンを攻略することが必須になる――つまり外に出て動かなければならないということだ。

 必要なのは防衛力と情報、そして攻略のための力もか。


 防衛力、つまり攻略されなければいい。

 僕が死なず、ダンジョンコアが破壊されなければいいのだけど、明彦には「三つの願いでもダンジョンマスターの不死は無理だった」と言われたし他の方法を考えないと。


 情報は、やっぱり町なんだろうね。

 町の中に入るにはお金か個人証が必須だし、後ろ盾のない人間が個人証を得るにはギルドへの登録が必要。

 とはいえ「職業:【ダンジョンマスター】」がギルドへ登録できるわけがない。

 というかマルチで知らずに登録しようとしたら背後からバッサリやられて即ゲームオーバーになった苦い思い出がある。


 攻略力はスキルの購入と実践、レベル上げかな。

 行動によってスキルを得ることもできるのだけど、ダンジョンマスターにとってそちらはおまけ。

 現地人のための設定だからやっぱりDPを貯めてスキルを得るという方針で行くことになるはずだ。

 

 じゃあ結局どうするか、なんて僕が一番楽しめる形式にするに決まってる。

 僕の願いはただ一つ「この世界は楽しそうだから世界を見て回りたい」それだけだ。

 ダンジョンマスターなんてのは行くための条件、ついででしかない。

 ダンジョンを広げたって外に出れなきゃ意味が無い。

 だったらやることは一つだよね。


 まず、ダンジョンの位置に付いて。

 これは「ランダム」でいい。

 DPがもったいないし、初期地点がどこだろうとやることはどうせ同じだ。


 次にダンジョンの形式に付いてだけど、これはあえて初期化する。

 というかテンプレートの簡易迷路すら削除してダンジョン自体を消してしまう。

 こうすることで僕のダンジョンは「ダンジョンコアを中心とした半径3メートルの球状空間」だけが残ることになる。

 つまり壁のないフィールド上に僕とダンジョンコアが放置されるってことだ。

 さらにテンプレートの破棄というデメリットを対価に1000DPを入手。

 これでやれることが広がった。


 モンスターや罠に関しては何もすることが無い。

 というかそんな小空間に何かしら召喚したり設置したりしても意味が無い。

 それに空間が小さすぎて雑魚しか召喚できないから居てもいなくても変わらない。


 そしてアイテム関係。

 食料品は欲しいけど、初期地点が悪ければ食事をするまでもなく死んでしまうだろうし今のところ買う気はない。

 

 だからDPを使うのはここ、スキル関係だけになる。

 んで、残ったDPの内10000を使って取得したスキルがこれ、【偽装[Lv1]】。

 【隠蔽[Lv1]】を取得するのに1000DP、[Lv2]に強制的にあげるために倍の2000DP、さらに[Lv3]まで上げたうえで強制進化させる必要があるこのスキルだけど、初期DPでギリギリ取れてなおかつギルド登録に必須というわけでこの選択と相成った。


 さて余ったDPだけどどうしようか。残り1000DP、とりあえずスキルの【地図】500DPと……後は食料にでも使ってしまおうか。

 保存食を5日分に水が湧き出る水袋の魔道具、ついでにそれらを入れる布鞄で500DPと。

 

 ステータス表示に直すと、

 

 [キャラクター]

   名前 :【千秋】

   性別 :【男】

   年齢 :【16】

   種族 :【ダンジョンマスター】

   職業 :【ダンジョンマスター[Lv1]】

   スキル:【偽装[Lv1]】、【地図】

   称号 :【ダンジョンマスター】、【秘匿者】

 [ダンジョン]

   配下数:0(F-)

   構造 :0(F-)

   功績 :0(F-)

   ランク:G

   DP  :0


 って感じかな。わーしょぼい。

 配下数は0だし構造も何もない。

 功績は初期だからしょうがないとして、それらの総合評価たるダンジョンランク:Gはどうなんだろう。

 上位モンスターや上位罠を使うには相応のダンジョンランクが求められるんだけど、後から必要になるかもしれないからできればあげときたい。

 とはいえ配下数や構造を上げるつもりはないから必然的に低ランク縛りになる。

 そこだけがちょっと不安だ。


 うん、見直してみても問題は無いかな。

 じゃあ設定終了で次のページへ。

 

 最後の設問はタイトルの通り。

 三つの願いを叶えましょう、か。


 条件は何だったかな。

 ダンジョンに関する願いであること、DPやお金に関しては不可、ダンジョンマスターの不死も不可、物理的に攻略不可能なダンジョンにすることも不可と。


 何ならいいの? って考えてみたら意外と範囲狭いかもね。

 ダンジョンの強化、ダンジョンコアの強化、ダンジョンマスターの強化、特殊アイテム生成やダンジョンコアの複製なんかもできたはず。

 とはいえやることはとっくに決めてあるのだけど。


 一つ目の願い――ダンジョンコアに【不壊】の機能の追加を望む。

 マスターが死ぬのは直接殺されるかコアを破壊されるかの二択だけ。

 直接殺されると死ぬってのは変わらないのだからコアの安全を取るべきだ。

 死ぬ確率が半減したとはいえ不死ではないんだから大丈夫だよね。多分。


 二つ目の願い――ダンジョンコアに【可動】の機能の追加を望む。

 いやさ、いくらダンジョンが広大になろうと難関になろうと置いていくのは怖くない?

 もし「不壊無視」なんて能力を持った武器でもあれば、道を歩いていたら唐突に死んだ、とかなりそうだし。できれば持ち運びたい。


 三つ目の願い――ダンジョンコアに【変形】の機能の追加を望む。

 持ち運べるようにしたとしてさ、球を片手に冒険ってそれ楽しいのかって話だよ。

 できれば持ち運びやすい形に変えて動きたいかな。

 まあ他にも理由はあるんだけど、それはおいおいってことで。


 入力して少し待つとローディングが終わったらしく、画面の中央にスタートと書かれたボタンが配置される。

 どうやら僕の願いはすべて認証されたらしい。


 深呼吸を一つ、伸びをして体をほぐす。

 目を瞑ってこれまでの思い出を振り返る。

 一、二度迷って覚悟を決める。

 そして僕はスタートボタンを押した。

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