第5話 夢の現実
男は自分が体験した事が本当かどうかを確かめるためネットで検索する。
だが有益な情報を得ることができなかった。
夢を起動してから1週間が経過
男はおっぱいの感触を忘れられずにいた。
おっぱいマウスパットを揉んでみたりとしたがあのリアルには到底敵わない。
だが、あの後の続きがどうなってしまうのか恐ろしくてプレイできずにいた。
「・・・何を怖がっているんだ・・・所詮あれはただのゲームじゃないか」
男はもう一度、あの世界に行こうと決意した。
あの時と同じようベッドに横たわったが、今回は前と違い緊張で手を震わせながらVR機器を頭に装着した。
そして、目をそっと閉じ意識が世界を飛び越えた。
夢の世界に飛んだ男は、前回逃げるように終わらせた地点と同じ場所にいた。
ステータスや所持品も何も変化していなかった。
「・・・よし」
男はほっと安堵する。
しばらくその場に棒立ちしていが、何もイベントが発生せず自分がこのまま普通にプレイできることを確信したからだ。
とりあえず何も考えずに街を散策してみようと男は思い行動した。
すたすたすた
「・・・」
しばらく街を歩いて前回プレイした時と異なる点を発見した。
男に対する周囲からの目線が冷たいのだ。
男のNPCは変化がなかったのだが、女の子NPC全員が男に対してジト目で見てくるような感じがした。
男は試しにとある美少女に話しかけて近づこうとすると、近づいた分だけ距離をとられた。
男は何かのイベントかと思い、早足で近づこうとすると美少女は涙目になったり恐れたりしてダッシュでその場から逃げる。
「へ、変態さんだー!!」
「あっ・・・いや、その!!」
どんな女の子に話しかけようとしても話すら聞いてもらえない状況だった。
男は確信した。
これはおっぱいを触ったペナルティ措置だと言う事を。
ゲームプレイ総時間50時間経過
「・・・はぁ」
男は街の酒場でジュースを飲みながらため息をついた。
おっぱいを触った罪に対する美少女に近づけないペナルティは時間経過で大人しくしておけばやがて解除されるだろうと見込みを立てていた。
しかし、そのペナルティが解除される気配が全くないのだ。
なので総時間40時間を越えた辺りから、ペナルティを解除するために自発的に何かを行わなければいけないかと思い行動してみたが何も手がかりが見つけられなかった。
また、正攻法じゃ美少女に近づけなかったのでスニーキングをして不意をついて後ろから近づいたりレベルを上げて上昇したステータスを駆使して全力ダッシュで近づいたりと試みたがどれも上手くいかなった。
ペナルティを解除するための情報どころかこのゲームについて詳しく書かれた情報すらない為、男はお手上げ状態となっていた。
「どうしたんだい、変態のお兄さん!そんなため息ついちゃって」
この酒場のマスターらしきガタイの良い丸坊主のマスターが話しかけてきた。
俺は街中で変態として認識されており、行ったことすらない新たな街に行ってもその噂は既に広まっている設定らしく変態扱いされているのだ。
人から馬鹿にされることはもう現実世界で日常茶飯事・・・今更そのくらいで揶揄された所でどうと言うことはない。
だが、こんなプログラム通りに沿って行動しかできないNPCすら馬鹿にされるのはとても癪に障る。
どうせこいつらに魂なんて入ってない。
男はそのマスターに怒りやストレスをぶつけた。
「あ?お前みたいなホモみたいな奴にすら馬鹿にしてくんのかよ!?てめぇの相手をしてる暇はねぇんだよ!恋人探しなら他の奴にしとけよ!」
普段なら絶対に言えないような事を言ってしまった。
後悔と罪悪感がこみ上げてくる。
だが、相手は所詮NPC
ゲームのNPCなんて簡単な会話しかできない。
恐らく、この発言だって難しくて認識されず無視されるかテンプレ台詞が返ってくるのがオチだろうと自分に言い聞かせる。
だが、そのNPCの発言は男が予想していたものとは全く異なるものだった。
「はっはっはっ!こんな見た目してるが俺はぁホモじゃねーよ兄さん!気ぃ障ること言って悪かったな!」
男は笑いながらジュースのおかわりを男に渡す。
「これは、怒らせちまったお詫びだ!ぐいっと飲んで落ち着いてくれや!」
「えっ・・・えっ・・・?」
男はこの状態をおかしいと感じた。
まるで普通の人間と話しているような感じだったのだ。
もしかしてこのゲームはオンラインで繋がっていて、目の前にいるのは同じプレイヤーなのではないかと考えた。
いや、そのハズはない・・・VR機器をインターネットに接続していないのだから。
今の会話は偶然テンプレ返答文が上手く一致しただけなのだろうか。
男はそれを知るためにマスターに話しかける。
「いえ・・・すいません。少し気が立っていました」
「良いってことよ!で、・・・どうだった?」
「どうだったって、どういうことですか?」
マスターが言ってることが良く分からない。
一体何のことを指してどうだったと感想を求めているのだろうか。
「そりゃあれしかないだろう!おっぱい触った感触だよ感触!!」
「っ・・・!?」
男は恐ろしくなった。
これは明らかにNPCとの会話ではない。
その話し方、その表情はもはや人間のそれと変わらないと男は思った。
男の呼吸が乱れる。
やっぱり、このゲームは実はオンラインで繋がっていてこのマスターはプレイヤーなんだと考えた。
自分の見た目は現実世界の自分と同じ顔でやっている。
ネットに自分の顔を晒したくないと考える日本人の大半はゲームの世界では顔を変えるしゲーム会社もそれを分かっているため、キャラクターエディットがある。
現実世界と同じ顔でプレイしている自分は今、間違いなくネットで晒し者になるか、既になっているだろうと確信した。
男はこれまでにない恐怖でまた逃げるようにゲーム終了ボタンを押そうとする。
「まぁまぁそんな恥ずかしがる事はねーよ兄さん!おっぱいの感触について語り合うのは男として当たり前じゃないかぁ!」
「えっ・・・?」
男は目の前に行われている異常事態に目を驚かせた。
そのマスターは男の腕を軽く掴んでゲーム終了させないように阻んでいたのだ。
掴まれる感触はまるで現実のそれと違いがなかった。
普通ならばこうやって触れ合うことは、当然同性でも触れられないよう規制されている。
触ろうとしても空を切るようにして触れられないか見えない壁みたいなものによって邪魔される。
しかも、ゲーム終了を阻むようにして触れられたのだ・・・こんな事はあり得ない。
「おおっと~!いや、今触っちまったが俺はホモじゃないからな!絶対に違うからな!」
「やっぱり・・・今のは触ったのですか・・・?」
「いやいやいや!軽いスキンシップじゃないか・・・これでホモ認定するのはやめてくれよな!」
そう言ってマスターは飲み終えていないのにジュースのおかわりをさらに男に奢った。
男からは驚きと好奇心が恐怖を上回り、ゲーム終了ボタンを押すのを取りやめた。
「このゲームではやっぱり触れることができるのですか?」
「えっ?触れることができるからおっぱいを揉むことができたんじゃないか」
おっぱいの事はとりあえず置いておき次の質問、いや確認に移る。
「・・・あなたは、プレイヤーなんですよね?」
「おいおい兄さん!そんなゲーム設定ぶち壊すような事聞くんじゃねーよ。俺はNPCだよ」
「えっ・・・?嘘ですよね・・・?からかってるだけですよね・・・?」
「そもそもこのゲームはインターネットに接続されてないってことは兄さんが一番良く知ってるだろう?」
「でも・・・!こんな会話をNPCとできるはずがないじゃないか!まるで人間と会話をしているようにしか思えない!」
「はっはっはっ!!他所は他所、うちはうちだよ!!」
マスターはまだ手もつけてないジュースが残っているのに新しいおかわりを追加して男に奢った。