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第12話 完成

 「経営を学んでも、コミュニケーションの取り方を学んでも、結局は人の心を掴めないと意味がないのよ?」

 「は・・・はぁ」

 「だから、この私がみっちりと教育して君を器の大きな人間にしてみせる!」

 

 陽菜ちゃんは自信満々でそう言う。


 「それで~・・・具体的に僕は何をしたらいいのでしょう?」

 「ん~・・・」

 

 そして自信満々で言った割にはすごく悩んでいた。


 「え~っと・・・器の大きな人間、器の大きな人間・・・そう、例えば現実世界で総理大臣になるとか!」

 「総理大臣!?僕は更なるエロを得る為に総理大臣にならないといけないのか・・・」

 「・・・例え話よ、例え話」

 

 少し自分の発言が恥ずかしくなったのか顔を赤くさせた。

 でも恥ずかしいのは発言よりも・・・その格好の方だよね?


 「とにかく、これからは私が鍛えてあげるからそれまでリセットして逃げたりしたらダメよ!」 

 「ん?」


 僕は陽菜ちゃんの存在を疑問に思った。

 メタな発言は良いとしてもリセットの件は僕の口からは何にも言っていない。

 まるで、陽菜ちゃんは僕がリセット繰り返していることを知っているかのようだった。

 いやいや、そんな馬鹿な・・・だったらマスターやあの子にだって記憶は残っているはずじゃないか!


 「じゃあ、第一の関門へレッツゴー!」

 「お・・・おー」






 男は陽菜と名乗る少女から数多くの事を学んだ。

 陽菜からはマスターのように酒場の経営の仕方やあの子のように英語の習得など具体的なスキルは教えられなかった。

 やった事と言えば、再度このゲームのメインストーリを進めてこの世界を冒険すること。

 ただ、今回は一人で冒険するのではなく陽菜がその冒険に付き合ってくれた。


 冒険を通して数多くの人と出会い体験し、そして色々な事を学んだ。

 その冒険はおよそ現実世界で15年にも及んだ。

 ただ、魔王を倒すだけならば50時間もあればクリアできるゲーム。

 しかし、15年を経過してもまだまだこのゲームからは新しい発見を見つけることができその可能性は無限大だった。

 男は現実世界と上手く両立してその冒険を心から楽しんだ。


 冒険の途中、陽菜が男にぽろっとある事を洩らしてしまう。

 実は世界がリセットされても全てのNPCの記憶は男同様、リセット前の記憶を引き継ぐと言うことだ。

 つまりここの世界の住人は記憶をなくしたフリをしていたと言うことになる。

 男は驚き・・・そして泣きながら喜んだ。

 そして、笑顔で酒場にいるマスターとめんどくさそうに教会にいるあの子と再会し男は再び謝罪と感謝の言葉を言った。

 その後は半ば強引にパーティーを組み冒険のお供として二人を引き連れた。


 男は何故、このゲームでは触ることができるのか・・・何故、NPCなのにここまで人間と差がないのかを質問した。

 その答えは・・・このゲームは男が現実世界で暮らしているのとは異なる時空で作られたゲームだから。

 その衝撃的な答えに乾いた笑いしか出なかったが男はそれを心から信じた。

 男は次にどのような目的があって異なる時空からゲームが自分が住む現実世界にやって来たのかを聞いた。

 だが、その明確な答えは皆持ち合わせてなかった。

 何の為に作られたかは知らないがこのゲームを発売することが何かの為の必要な鍵らしい。



 その真相を探るためインターネットで可能な限り情報を探ってみたが相変わらず情報を得ることができなかった。

 いくつかの個人ゲームブログで、VR-オフラインRPG「夢」クソゲーレビューと記事が挙がっていたので読んでみたが誰もこのゲームの本質には気付いていない様子だった。

 男は「夢」に対して感謝の意味を込めて自身のブログでこのゲームをレビューをした。

 周りの人間に知られては恥ずかしい事など少しぼかしてレビューをする。

 だが、誰も男が書いたレビューを信じなかった。

 「女の子に触っていちゃいちゃできるゲームなんてあるはずがない!信じて欲しければ今すぐ証拠を見せろ!」

 だが、男は証拠を見せようとはしなかった。

 何故証拠を見せなかったのかは男自身にも分からない。


 「夢」が発売されてから男がレビューを書くまで既に10年が経過していた。

 既に市場には「夢」はなくどこを探しても見つけることができない幻のゲームとなっていた。

 もしかしたら「夢」を持っているのは男ただ一人だけなのかもしれない。

 男はそっと自分のブログを休止状態にさせた。

 

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