第10話 第二の成長
男は問題を解決するために街の人々に聞きまわって英語を喋れる人がいないかと尋ねた。
もしそういった人物がいれば通訳をお願いすれば良いと考えた。
だが、街中探しても英語を喋れる人は全くいなかった。
次に男のとった行動は、現実世界に戻り自分の言いたい事に近い英語の例文をインターネットで探して丸暗記することだった。
紙に英語を書いてもゲーム世界に持っていくことができない為、頭に叩き込む必要があった。
そして、忘れないうちにまた女の子に喋りかける。
だが、一筋縄にはいかなかった。
女の子と会話を続ける為には相手からの質問に対して女の子が満足する回答をする必要があったのだ。
質問が分からなかったり間違えたりするとfuckと言われ少しの間、口を聞いてくれない。
しかも質問の内容が毎回変化して規則的なパターンもない。
ただ、例文を丸暗記するだけでは課題をクリアすることが不可能だった。
男は全く別の方法でおっぱいを揉む手段はないかと、とりあえず魔王を一人で倒してみたが、魔王を倒した変態勇者として称えられるだけで結局女の子からは距離を置かれている。
魔王を倒した能力をフルで使い全速力ダッシュと拘束魔法の複合技術で街の女の子のおっぱいを揉もうとしたが毎回必ず守衛に妨害されて独房にしばらく監禁されてしまう。
守衛の力は勇者である男よりも強い存在だった。
ならばお前が魔王倒しておけよと男は独房に入れられる度に守衛に捨て台詞を吐くが無視されてしまう。
その他、色々試してみたが良い結果を得られることができず、いよいよ英語の課題で女の子にリセットしてもらうしかないと男は考えた。
更に現実世界で1年の時が過ぎた
「さて、今日でクリアしてみせるぞ!」
この1年間、僕の現実世界の生活は変わった。
まず、部屋に引きこもっていたのをやめて親に謝罪した。
そして、せめて自分の生活費は自分で稼ごうと居酒屋でアルバイトを始めた。
残念ながら店長はマスターのようにできた人間ではなかったが、僕はそれほど苦労することなく仕事をこなすことができた。
そしてアルバイトを始めて3ヶ月・・・店長から契約社員にならないかと話を持ちかけられた。
まぁ、対して文句も言わずテキパキと黙って仕事する奴隷が欲しかったと言う店長の魂胆は見え見えだったがそれでも僕は現実世界で初めて、人から必要とされたのだ。
僕は喜んで引き受けた。
普段は仕事をこなしつつプライベートの時間のほとんどを英語の習得に当てた。
親からはあまり無理をするなと言われたが僕にとって苦にはならなかった。
そして、空いた時間を作り「夢」へ飛び込みシスターの女の子と英会話を受ける。
初めは坦々とした質問しかしてこなかったが、時間が経つにつれ女の子も諦めたのかダルそうに英会話レッスンを開いて僕は効率的に学ぶことができた。
今の僕はほぼ、完全に喋ることができて読み書きできるようになっていた。
試しに英語がどの程度身に付けることができたのかを確かめるために、トーなんちゃらの試験を受けて1000点満点中970点の成績だった。
さぁ、そろそろ次のステップに行こうか。
がちゃ
「ハロー」
いつものように教会を尋ねる。
そしていつものように女の子はダルそうにしていた。
「・・・ふぅ」
一息呼吸を入れる。
精神を集中させて気合を入れる。
さぁ、始めよう・・・
「じゃあ、お望み通りリセットするぞ」
「・・・はい?」
女の子が日本語を流暢に喋ったような気がした。
いやいやいや・・・そんな馬鹿な!
この女の子が今まで日本語を喋ったことは一度だってないはずだ!
「もしかして・・・日本語喋れます?」
「は~?私が外国人に見えるのかよ?」
女の子がいつものジト目で僕を見てきた。
「えええええええ!?じゃあ今までの英会話は何だったのですか!?」
「何だって言われても英会話だろう。・・・で、リセットするの?しないの?」
女の子はめんどくさそうに机に頬杖をついてキャンディを舐めている。
「あの・・・まだ・・・その試練をクリアしてないんですけど?」
「は~?この1年、どんなけ私が付き合わされたと思ってるんだよ?いつもいつも深夜にきやがって・・・試練なんてしなくても分かるつーの」
「えっ・・・すいません」
英語でも口が悪かった女の子は日本でも口が悪かった。
「じゃあ、リセットするから目ぇ閉じろ~」
「えっ!?えっ!?ちょっと急じゃないですか!?まだ心の準備が・・・それにお礼だってまだ全然!!」
「はぁ~お前がお礼を言った所でリセットするんだから私は忘れるってことくらい知ってるだろ?そんな事も分からないから非正規雇用なんだよ」
「いや、それでもやっぱり挨拶くらいは」
「挨拶も何も散々英会話でやってるだろう」
これまで英会話を通して自分の生活や目的など色々な事について女の子と喋ってきた。
今更、挨拶不要か・・・君らしいな。
「じゃーな・・・元気でよ!」
目の前がどんどん白くなって行く。
もう後数秒もしない内に女の子の姿が見えなくなるだろう。
だから僕は最後に彼女に言った。
「Thank you」
「ああ・・・No problem」
僕の目の前から女の子の姿は完全に消えた。
本当にありがとう・・・
いつもダルそうで口の悪い女の子・・・彼女は英会話の学習の時、自分の名前をAKAGAMIだと名乗っていた。




