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茄子を思いっきり手刀で割ったら中からイケメンが出てきて美味しく頂いちゃいましたっていう夢を見た

作者: 木原ゆう

 本日は晴天なり。

 世界はこんなにも平和だと感じる今日この頃。

 私の手元には一本の立派な茄子が自己主張を醸し出しています。


 色気のある艶を帯びた紫色がなんかエロティックですね。

 そんな事を思いながら私は腹式呼吸を始めます。


 ひっひっふー。

 ひっひっふー。


 足先からふくらはぎへ。

 ふくらはぎから腰へ。

 地面から湧き上がる『気』を呼吸に合わせ吸い上げていきます。

 まるでタコの吸盤の様に――。


 ひっひっふー。

 ひっひっふー。


 腰まで上がった大地の『気』は背中を通り、遂に私の右手へと注がれて行きます。

 意識を集中し、世界の理を悟った私は呼吸を止め。

 一本の艶みを帯びた茄子に向かい、手刀を――。


「(びくっ!)」


 ……。

 今、茄子が動いた気がします。

 気のせいでしょうか。

 昨日、飲みすぎたせいでしょうか。


 寸止めした拳をもう一度振り上げます。

 既に大地から吸い上げた『気』は拡散してしまいましたが、そもそも妄想です。

 細かいことを気にしない私は、手刀を作り直し、茄子へと振り下ろします。


「(びくんっ!)」


 ……。

 やっぱり、動いてます。

 私の手刀が振り下ろされる事を恐れているようにも見えます。

 口元をニヤリと歪めた私はそっと茄子の御身を突いてみます。


 つんつん。


「あっ……」


 なんか声が漏れました。

 もちろん私の声ではありません。

 確かにこの茄子から聞こえて来ました。


 私は思案します。

 どうしようこれ。

 そもそもどうして私は茄子を手刀で割ろうとしているのか。

 その未来にどんな意味が込められているのか。

 興味が尽きることはありません。


「……」


 ばれていないとでも思っているのか。

 目の前の茄子はまた大人しくなりました。

 人語を喋る茄子――。

 このまま割ってしまうのは惜しいのではないか。

 私はそう考えました。

 急にお金が欲しくなりました。

 売ろう。

 高く、売ろう。

 私の心に光が差し込みます。


「……『ひっひっふー』って……くっ」


 茄子がなんか喋りました。

 それどころかちょっと震えているようにも見えます。

 何故か私は頭に来ました。

 馬鹿にされているような、そんな気さえしてきたのです。


 私は全身に渾身の力を込めます。

 全知全能の力を東西南北に込めます。

 そして大きく息を吐き――。


「はああああああ!」


 ポンッ。


 という音と共に茄子が綺麗に真っ二つに割れました。

 そして中から現れたのは――。


 ――怯えた顔をしたイケメンだったのです。





「……」


「……」


 私達はお互いに目を合わせました。

 これが世に言う一目惚れという奴なのでしょうか。

 今、私の目の前にはイケメンがいます。

 割れた茄子の中に。

 怯えた目つきで。

 私を見ています。


「……」


 そっと片手を差し伸べてみます。

 イケメンは明らかに不審がっています。

 大丈夫。

 私は怖い人間じゃないよ。

 精一杯、聖女のような微笑で、私はイケメンに笑いかけます。


「びくっ!」


 イケメンが大きく肩を揺らしました。

 私の聖女の様な微笑みにノックアウトでもしたのでしょうか。

 気持ちは分かります。

 痛いほどに。


 彼は何だか肩を痛めている様でした。

 片方の手で擦っています。

 私はどうしたのか尋ねました。

 彼は何も答えません。


「……」


 それにしても、可愛いです。

 これは神が私に与えてくれた奇跡なのかも知れません。

 まさか茄子からイケメンが現れるなんて。

 日頃の行いが良かったからかもしれないです。

 

 問題は、これからどうするか、ということです。

 目の前にイケメンがいます。

 きっと彼には身寄りがいないことでしょう。

 これから私が引き取って養っていかなければなりません。


 この世の中は不条理です。

 働かざるもの喰うべからず。

 そうです。

 彼にも何か役割を与えなければなりません。


 茄子から現れたイケメンの彼に与える役目――。


「びくっ!!」


 彼が今までに無いほどに震え出しました。

 きっと私の笑顔を見てときめいてしまったのでしょう。

 なんて可愛いのでしょうか。

 

 私は目を瞑り、彼に顔を寄せます。

 間近で彼の息遣いが聞こえて来ます。

 私達はこれから、この一つ屋根の下で生活を共にする――。

 そう考えただけで、私の心は闇から解放されて行きます。


 そして二人は結ばれ――。


 ――永遠の愛を誓いあったのです。















「……ていう夢を昨日みたんだけど、これ小説に出来ないかな」


「無理だと思う」





fin.


~1年後~


「ねえ、ダーリン。ほら、動いたよ」

「ああ、本当だね」

「この子ったら早く生まれて来たいって自己主張しちゃってる」

「元気な子に生まれてくれそうだな」

「ねえ、私達の出逢いって覚えてる?」

「どうしたんだい、急に」

「なんか……幸せ過ぎて感極まっちゃって」

「はは、君は可愛いな。もちろん覚えているとも」

「あなたが茄子から現れたときは本当にびっくりしたわ」

「僕もびっくりしたよ」

「でもね、一つだけ不思議なことがあるの」

「一つだけかい?」

「あの日。あなたの入った茄子を手に入れた日……。近所の八百屋さんで特売で売られていた茄子」

「お買い得だったんだね」

「あの茄子を売ってくれたご主人がね……ご主人、が……」

「どうしたんだい? そんなに顔を真っ青にして」

「……」

「ハニー?」

「……いえ、やめましょう。ううん、そんなはず無い」

「はは、何をそんなに怖がっているんだい?」

「大丈夫。私達は幸せになるの。そうよ。そうに決まっている」

「あ、また動いたんじゃないか? 僕に似たイケメンの子が生まれてくるといいね」

「ええ、そうね。きっと素晴らしい子が生まれてくるわ。きっと――」






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― 新着の感想 ―
[一言] な、茄子を売ったご主人がどうなったというのだーーー!?(笑)Σ(゜Д゜)
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