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あらあらかしこ  作者: 麦飯とろろ
読者投稿怪談 掲載作品
4/14

ヒルコガミ

テーマ:京都 (性描写があります)

 深夜にチャイムが鳴った。こんな時間に誰かと、いぶかしみながらドアスコープを覗いた私ははっとなる。

 開けてはいけないと思いながら、私はなぜかドアを開けていた。

 入ってきた女はあの日と変わらず美しかった。違うのは、丸くせり出した腹だろう。

 まさかと思う私の目の前で、その脹らみはへこみ、同時にびしゃりと濡れた音を立て、女の足の間に赤黒いものが落ちた。

 金臭い。

 濁った水溜りから這い出てきた()()の白濁した目と見合った瞬間、私は腰を抜かしていた。


 昨夏、京都を訪れた私は国立博物館から建仁寺へと歩く途中で道に迷った。雨まで降り出し、目についた町家の軒先に飛び込む。

 肩先の雫を拭いながら、私は物珍しさから開け放たれた格子戸の奥を覗き込んだ。

 そこへ和装の女が顔を覗かせた。気まずさに慌てる私に、笑いながらやって来ると、袂から出した手拭で濡れた私の肩を拭いてくれた。甘い匂いがした。

 中をご覧になりますかと問うた女は、肯いた私を気さくに中へと招じた。

 通り庭から中の間、台所を覗き、最後に奥の間から坪庭を見せてもらう。

 小さな池のある庭は、粉糠雨にしっとりと濡れていた。よく見ればその片隅に小さな社がある。私があれは何かと問うと、女は、

「ヒルコガミ。骨を持たずに生まれる不具の神。人に宿ることでしか存在できない」

 よくわからない説明に戸惑っていると、いつの間にか、女は私の背にそっと身体を寄せてきた。

 胸から股間をさぐられ、驚いた私は、女の手を振り払った。

 力を込めたつもりはなかったが、女は紙人形のように後ろへと倒れこむ。乱れた裾から、あられもなく細い臑がのぞき、下穿きをつけていない奥が見えた。

 春情に突き動かされた私がその衿に手をかけると、女は細い腕で私の肩を自ら引き寄せた。

 仄暗い座敷で私は遮二無二に女を貪り、その胎内へ精を解き放つ。充足し離れようとする私の腰へ、白い足がうねうねと絡みつき、そのまま媾合は幾度も続けられた。

 疲れ果てた私が動けなくなると、女は繋がったまま白い肢体を反転させ上になる。

 精を放っても女が腰をくねらせれば、意思とは関係なくおき上がり、傷みと疲れに私はいつしか許してくれ止めてくれと泣いていた。


 覚えているのはそこまでで、気がつけば、独りふらふらと嵯峨野を歩いていた。悪い夢を見たのだ、忘れようと思っていた。


 血濡れた赤子はゆっくりと私の膝を上り、腹を這い、胸を伝うと、顎に手をかけた。

 捻じれた太い糸のようにまだ臍の緒がついている。

 赤子はふやけた指を唇にかけてきた。信じがたいほどの力で私の口をこじ開け、濡れた禿頭を突っ込んでくる。

 苦しい。

 息ができない。

 口腔を犯す、生臭く柔らかい物体。かつん、と臍の緒を噛み切ると、口いっぱいに血の味が広がった。

 咽を押し広げ、赤子は這いながらどこか深い場所へと落ちていく。

 霞む視界のかなたで女は変わらず微笑んでいた。

 私の意識は薄らぎ、そしてわたしがきえていく――。

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