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あらあらかしこ  作者: 麦飯とろろ
週刊てのひら怪談 掲載作品
12/14

姉や

 昔の事さ。

 私の家は地主でね。山も田圃も持っていた。使用人も大勢いた。

 そして姉やがいてね。親の顔なぞもう朧なのに、その顔はしっかりと憶えているんだよ。

 色のたいそう白い人だった。縁日も夜中の便所もその白い手に引かれていった。だけど私が八つの歳に辞めていった。理由は知らなかったよ。ただお嫁にでも行ったかと思っていた。

 それから一年ばかりが過ぎた頃、小学校の帰り道だ。この学校ってのが、また山の中でね。子供の足で小一時間はかかる。夏の暑い日なんか汗みずくになる。汗を拭き拭き歩いてたら、途中の木陰に女が立っていた。

 藍色の着物のせいで、肌がひどく青白く見えてね、立ち竦んじまった。すると、女は顔を上げてにっこりと笑いかけてくる。

 姉やだったよ。嬉しかったね。私は本当に姉やが好きだったから。いなくなって本当に寂しかったから。

 姉やは前みたいに手を繋いでくれて、二人で山道を歩いた。

 姉やの手はやっぱり白くて、こんな暑い日中(ひなか)を歩いているのに冷たかった。家が見える辺りで姉やは足を止めて言った。

夜祭(よまつ)りに行きましょうか」

 どこでと問うと、自分の里の方だと笑う。私はもちろん頷いたよ。

「月が昇ったら迎えに参ります。でもお父様たちには内緒ですよ」

 子供ってのは内緒が好きだからね。それが姉やとの約束なら尚の事だ。私の胸は躍ったよ。

 夜が待ち遠しくて、夕餉を急いで平らげると、こっそりと家を出ようとした。だけど裏口で下男に見つかって、両親の元に連れて行かれた。

 親父にこっぴどく叱られたよ。

「昼に姉やが来たんです。里の方で夜祭よまつりがあるから一緒に行こうって。夜に迎えに来るって」

 私がそう白状したら、両親は障子紙より顔を白くさせてね。その晩は何故か両親と寝かされたよ。

 翌朝自動車に乗せられて、着いた先は姉やの葬式だった。

 身体を壊して辞めた事を幼かった私は知らなかったのさ。

 姉やはまだ十七だったんだよ。

 きっと独りで逝くのが寂しかったんだろうね。

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