傘
テーマ:黒
コンビニを出ると、傘立てに僕の傘がなかった。
さしてきたのは、透明のビニール傘。
でもそこにあるのは、黒い傘、一本だけ。
振り返った店内には、退屈そうな店員しかいない。
昨夜から降り続く雨はまだかなり強くて、濡れていくのはためらわれた。
しかたなく僕は、一本だけ残っている傘を手にとった。物々交換だと思おう。
傘は手開き式。こうもり傘とでもいうのか。穴もあいていなければ、骨も折れていない。ハンドルもシャフトも木製で、しゃれている。
最初はもうけたような気がしていたが、すぐにいやになった。
さして歩いてみると、この傘。ひどく重い。シャフトが肩に食い込んでくる。
途中、ドラッグストアの前で僕は足を止めた。
明るい店のネオンに照らされて、足下の水たまりに黒い傘をさした僕が映っている。
その傘の上になにか、丸いようなモノが乗っているように見えた。
ロールシャッハテストのような不確かな影絵。
香箱の猫。
体育座りの人。
頭が大きすぎるダルマ。
うにうにと姿の定まらない影絵をにらむ僕の手の中で、傘の重さはいやます。
店内から流れてくる冷房が背中をひやひやなでる。
僕はゆっくりと傘を足下におろした。露先からしずくが流れ落ちる。
黒い小間には、円く転がる雨粒。
ただ、それだけ。
僕はゆっくりと傘をたたんで、店先の傘立てに押し込む。そしてドラッグストアに入り、百円のビニール傘を買った。
店から出れば、相変わらずの雨。
傘立てに黒い傘。
僕はそれを見ないようにして、買ったばかりの傘をさして帰った。




