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あらあらかしこ  作者: 麦飯とろろ
読者投稿怪談 掲載作品
10/14

幽明倶楽部

テーマ:ネット

 コンパにも飲み会にも顔を出さず、ノートも貸してくれない。そんな糞真面目な田川をからかってやろうと、ゼミ仲間の一人が言い出した。幼稚な思いつきは即実行に移され、意地悪く笑いながら、僕たちはネットカフェからメールを送信した。


【件 名:幽明倶楽部へのお誘い

 送信者:秋元里奈

 本 文:お久しぶりだね。元気? サイトを立ち上げたので遊びに来てね。http://www.×××.com】


 送信者の少女は田川の高校時代の同級生。同じ高校の奴から聞き出した名前で、卒業直前に事故死したという。

 併記してあるのはSMサイトのアドレスだ。情報サイトによると海外ものでかなり過激らしい。


 翌日。田川が来たらからかってやろうと手ぐすねひいて待っていたが、珍しく休みだった。

 その翌日も。さらにその翌日も。


 怒っているのか。それともリンク先にすっかりはまっているのか。

 どちらにしても僕はいまさらながらに気が咎めてしょうがなく、彼の家を訪ねてみることにした。

 

 古びた商店街をぬけ、ごちゃついた路地の一角に建つ、やはり古びたアパートの一階の右端。

 『田川』と手書きの表札が貼られたドアのチャイムを、僕はなんども押したが応答はない。

 なんのけなしにノブを回してみたら、ドアはすっと開いた。

 部屋の中は静かだけど、人の気配がするので、そっと覗いてみた。

 1Kらしき部屋。カーテンが閉めきられて暗い。

 田川の背中が見える。机に向かっているらしく、パソコンの画面だけが明るい。

 靴を脱ぎながら声をかけると、ようやく田川は振り向いた。

 もともとモヤシなやつだったのに、なんだかさらに痩せた気がする。黒縁の眼鏡がやけに大きく見えた。

 

 隣に立つ僕に、田川は興味もないようすでパソコンに向き直り、真剣な顔でキーを打っている。だが画面に表示されているのは【NotFound404】。


「なに……してんの?」

「チャット。里奈からメールが来てね。こっちで登録すると、むこうの会員がそれを閲覧する。知り合いがいたら、掲示板を設立して完了。いつでも話ができるようになるんだ」


 りな? 秋元里奈? 送信者の少女のことか。田川とあの子が知り合いなんて話、僕たちはきいていない。


「今も里奈と話をしてたんだ」

 嬉しげな田川の呟き。

 見つめている画面は【NotFound404】。

 しかし田川は目を輝かせながら、キーを打ち続ける。

 僕は呆気に取られながら、画面と田川を見比べ、そして気付いた。

 田川の眼鏡のレンズに映りこんでいるわずかな()は、黒色。点滅している赤や緑の字らしきものも見えるのに、実際の画面はそっけない白一色。

 いぶかっていると、不意に田川が笑い出した。(たが)が外れたように裏返った声を上げ、両手で机を叩いてゆする。

 その激しさに()されるように、僕は部屋から逃げ出した。

 田川が呼び止めてくることも追いかけてくることもなかった。


 その翌日も田川は大学に顔を見せず、さらに二日後、彼の訃報が届いた。


 参列者の少ない葬式の帰り、僕はネットカフェに寄った。メールを送った店だ。

 あのアドレスを入力してみるが、そこはやはりSMサイトだった。

 では、田川はどこへリンクしてしまったのだろう。

 僕はパソコンから延びるケーブルを目で追った。太く白い塩化ビニールの管は壁の中へと消えている。

 その先はもう僕に知るすべはない。

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