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屋台の二人

1st終了後、2nd開始前の一幕。

とあるコンビの、何気ない会話です。

 屋外マーケット通りは、あちこちの屋台から漂ってくる、様々な食べ物のいい匂いに包まれていた。

 マーケット通りは、地元で採れた新鮮な野菜や果実、魚介類、スパイスなどの食材を販売するワゴンが、所狭しと並んでいた。その他、民芸工芸品などの土産物屋もあり、地元住人のみならず、観光客も多く訪れる、この地の名所となっている。

 通りの端にはいくつものテーブルや椅子が並べられており、屋台で買った食べ物を、ここで自由に食べられる。

 今は昼時。地元住人や観光客らが、買ってきた食べ物を持って、テーブルを囲んでいる。

 

 テーブルゾーンの真ん中あたりに、二人の男が向かい合って座っていた。一人は子どもと見紛うばかりに小柄で童顔。引きずりそうなほどに裾の長い、黒いレザーのコートを着ている。もう一人はひょろりと背が高く、明るい栗色の短髪。

 二人それぞれの目の前には、湯気の立ち上るヌードルの椀が置かれている。

 短髪の男が、パキリと割り箸をきれいに割った。向かいに座る小柄な男も、続いて割り箸を割る。箸はきれいに割れず、片方が途中で裂けてしまった。

「なんやねんこの割り箸!」

 小柄な男は、割り箸に向かって悪態をついた。

「マックス、いつまでたっても割り箸ちゃんと割れへんねえ」

 短髪の男はにこにこ笑いながら、ヌードルをすする。

「割り箸やろ。割れるの前提で作られたお箸やろ。なんで裂けんねん!」

 マックスと呼ばれた小柄な男は、割り箸の残骸を、乱暴に投げ捨てた。すかさずそれを拾う短髪の男。上着のポケットから、予備の割り箸を取り出し、マックスに差し出した。

「ポイ捨てしたらあかんでマックス。今度はちゃんと割りや」

「用意ええなディーノおにいさんは。世話の焼けるマックス様のお守りやさかいな、どういう行動にでるかお見通しってわけや」

「卑屈にならんと早よ食べ。のびてしまうで」

 マックスは慎重に箸を割る。今度はきれいな二本に割れた。


「なあディーノ、聞いたか」

「何が?」

 二人はヌードルを食べつつ、会話を続けた。

「なんか、ジェルゴ・シティで失踪した囚人どもが、全員捕まったらしいやん」

「ああ、ニュースで言うてたね。それが?」

「そんでそいつらを連れ出した奴は、まだ行方も身元も分かっとらんて」

「うん。そんで、それを解決したのが、サウンドベルの奴やって言いたいん?」

「そや!」

 ばん、とテーブルを叩くマックス。肩肘をテーブルに乗せ、身を乗り出す。

「首謀者には懸賞金かかるとこやったんや。たぶん結構な額になったと思うで。懸賞金かかったら、俺らの獲物や。それなのにこのザマやで。横から掻っ攫われた気分や」

「そんなんしょうがないんちゃうの。懸賞金かけられる前にやられたんやから、俺ら文句言えへんでしょ。あ、そうそう。メメント関連の事件に発展したみたいやね。サウンドベルの〈異法者ペイガン〉いうたら」

「あのスケコマシメガネに決まっとるやんか!」

 マックスはまたしてもテーブルを叩いた。

「マックス、食卓叩いたらあかんで。まあ、おそらくあのメガネさんやろね。情報屋から聞いたけど、最近相方出来たそうや」

「メガネの相方なんかどうでもええねん、しょーもない」

 マックスはふてくされた表情のまま、ヌードルの具材をひょいひょいと口に運ぶ。

「第9区でキープしてたおねーちゃんら、たった半年連絡せんかっただけで、あのスケコマシに乗り換えよった。俺のかわいこちゃん、みんな持って行きよった。腹立つわー。むっちゃ腹立つわー。あのスカした面シバいたらんと気ぃ治まらへん」

「半年もほったらかしとったら、そら愛想尽かされるわ。メガネさんが持っていった言うより、おねーちゃんらが勝手に入れあげてるだけやと思うけど」

「細かいこたどうでもええっちゅーねん。俺のおねーちゃんらが、俺から他の男になびいたっちゅーのが大問題やねん! 分かるやろ、男としてのプライドが傷つけられたんやで?」

「女の子ぎょうさん囲い込んで、あっちでイチャイチャこっちでイチャイチャするよなあかんたれには、言われたないやろ。メガネさん男前やし、背え高いし、クールやし、お仕事できるし、隙が全然ないもんな。そもそも身長と面構えの時点ですでに負けてるやん、キミ」

「男は背丈とか顔やない! 勝負処は“あっち”の方や!」

 マックスは、男女の睦み事を表現する手つきを、ディーノにしてみせた。

「マックス、そんなはしたないこと、大きな声で言ったらあかんで」

 ディーノは、突き出されたマックスの手を、やんわりと押し戻した。それから、相方の大声に「何事か」と振り返る周囲の人々へ、

「すんません、気にせんといて下さい」

 愛想よくぺこぺこと頭を下げた。

 マックスは、相方の気遣いなどにはお構いなしだった

「今度アトランヴィルに行ったら、絶対シバいたる。あの、上から目線なクーリッシュフェイスをボッコボコにしたる」

「リーチ全然足りてないから、そこ気ぃつけや。あと、クーリッシュフェイスてなんやねん」

「ボコボコにしたら、尻軽女どもはもう、スケコマシにくれたるわ」

「てことは、また別のおねーちゃん見つけたん?」

「今度のは超がつく上玉やでえ。見てみ」

 マックスは携帯端末エレフォンの画面を、ディーノに向けた。そこには、一人の女性の画像が映し出されていた。緩やかに波打つショートボブに、深い海色の瞳をした、清楚な美女だ。

「これはたしかに美人さんやね。相変わらずおねーちゃんに目ぇつけるのだけは早いな」

「グリーンベイの図書館におる司書ちゃんや。この憂いのあるちょっと垂れた目、たまらんなあ。今時こんな清楚可憐な子、めったにおらん。俺には分かる。この子はまだおぼこやで。この俺が女の喜びゆうのを、手取り足取り隅から隅まで教えたらな!」

「マックス、ちょっと音量下げや。傍からやと、中学生がエロい妄想しとるようにしか見えん。あと、その妙な使命感、なに?」

 他愛のない会話が一旦途切れたところで、二人は両手で椀を持ち、ヌードルのスープを飲み干した。同時に椀をテーブルに置き、満足そうに息を吐く。

 と、そこへ、エレフォンの呼び出し音が鳴り響いた。ディーノのエレフォンだった。

 ディーノはエレフォンを耳にあて、見えない相手に向かって背筋を伸ばした。

「あ、これはどうも、お疲れ様です。……ええ、こっちはぼちぼち。はいはい。……え、よそのゾーンですか? それってどこ……」

 ディーノの目が、マックスに何かを訴えかけた。

「はい、分かりました。今からお話伺いに参ります、ほな、ごめんください」

 通話を終了するディーノに、マックスが言った。

「仕事か。今度は誰をやるねん」

「うん。よそのゾーンでのお仕事や。アトランヴィル」

 喜色満面、マックスはテーブルを叩いて立ち上がった。

「なんちゅうグッドタイミングや! これはスケコマシに天誅かましたれいう、神さんのご配慮やで!」

 マックスはテーブルを離れ、長いコートの裾を蹴り上げながら、大股で歩き始めた。

「ディーノ行くで! 司書ちゃんのおっぱい拝みにな!」

 ディーノは慌てて相方の後を追う。両手に空の椀を抱えて。

「マックス、器はお店に返さんとあかんで。ここレストランとちゃうねんから。あと、主旨間違うてるから」


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