1話
よろしくお願い申し上げます。
sid 赤鷹
─── ピーーーッヒョロロローーー
大空高く舞い飛ぶその姿は、真っ赤な翼に緑の目をした鷹だ。
広大な山々を飛ぶその姿は、嬉々とした空気に包まれている。
─── ピィーーーッ
聞こえて来た指笛の音に誘われるようにゆっくりと旋回しながら鷹が舞い降りた先は、真黒な髪を横に一纏めにした日本人形の様な女性の腕。彼女の名はカエデ=ソウジョウ。冒険者パーティ【赤鷹】のリーダーだ。その姿からは予想が付かない程の手練れの冒険者である。
「ラウ?あまりはめ外さないでね。もう直ぐカルマの国境だから、攻撃されても文句言えないよ」
「キュルルル」
鷹はカエデの言葉に落ち込んだ様な鳴き声を放つ。
「そう言うなカエデ。ラウも久々の山越えで嬉しいんだろう」
「分かってるけど、心配なのよ」
落ち込んだ鷹…ラウをフォローしたのはカエデの倍位の背丈に緑の髪をした二枚目─── カエデ曰く「10人中8人は振り向くわね」らしい ─── アルギス=ハークライトだ。剣を主に扱い、風魔法を得意とする緑の魔法剣士だ。
「クスクスッ…カエデはラウが大好きですからね。」
2人と1羽を微笑ましそうに見ていたのは、セリアム=ライゼン=ウィルハイト。腰まである水色の髪を流す様に縛った美麗男子(彼に女性らしいの言葉は禁句である)で水魔法を得意とする治療術師だが、彼もまた戦闘は普通の冒険者より格段に上だ。
「そうよ。ラウは私達の空の目だものラウが居れば旅が凄い楽で大助かりだもの♪
── それにラウが居なければ今の私は……」
カエデは最後に何か呟いたが他の2人には聞こえなかった様だ。
「キュル!キュルルル!」
「そうよ。うんうん。いいよ着いたらね」
カエデの呟きに気づいていたラウは、カエデに褒められた事で自信を持ち直し嬉しい声を上げて慰めも踏まえてカエデに頬ずりする。
カエデはラウの言葉が分かる様でラウに何か強請られたようだ。
「さあ。もう少しよ。行きましょ!」
国境の関所が見えだし、足に力を入れ3人と1羽は目的の地へと歩みを進めるのだった。
sid 宗一郎
─── 冒険者ギルド・カルマ支店内部。
黒髪に茶色と黄色のオッドアイを持つ少年が入って来た。
「いらっしゃいませ。ようこそ冒険者ギルド・カルマ支店へ」
「依頼完了の手続きを頼む」
「畏まりました。ギルドカードをご提示下さい」
ギルド職員にカードを提示し一息つく。
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(宗一郎視点)
俺の名は東山宗一郎。18歳。このユーディリア皇国に俺と後もう1人、幼馴染みの門屋紗江が勇者召喚で呼び出されたのは今からちょうど1年前。
俺の国は日本と言う異世界で、言うなれば平和が象徴の国だ。そんな国だから召喚されて「我が国の勇者になってくれぬか?」と言われた時は正直戸惑ったわ。今のご時世にラノベの中で異世界召喚とか流行ってはいるが、まさか現実にそれがあるとは思わなかったからな。
それから色々と説明をされるにつれ、元の自分の世界に帰れない事も聞かされた俺はまぁ王様は悪い人では無いと感じたのも手伝ってこの国の勇者を引き受けた。
紗江の奴は訝しんでいた様だが、戦いに無縁の国から来た事を知った王様からの配慮で冒険者ギルドのAランクになるまで勇者である事を公表しない事を約束してくれた事である程度納得し、共に勇者をやることになった。(まぁ期限付きではあるがな)
そんな経緯で今は紗江と共に冒険者ギルドで依頼を受け、着実にランクを上げている。
「はい。確認致しました。依頼完了を受理致しました。更にこれよりソウイチロウ様のランクはBランクとなりました。おめでとうございます」
「ありがとう」
ランク書き換えを終えてギルドの外に出ようとした際、ギルドの扉が勢い良く開き冒険者の1人が中に居た仲間に「おい!【赤鷹】のパーティがこの国に来ているらしいぞ!」との報告が聞こえてきた。
パーティ【赤鷹】とは、冒険者ギルドが自信を持って勧める最高ランクのパーティだ。
冒険者ギルドは唯一国が関わることが出来ない企業であり(例外はあるが…)
更にギルドは各国に点在し全ての国を支える一片を担っている。そんな冒険者ギルドには【パーティ】と呼ばれるシステムがある。
パーティを組んだ冒険者達はパーティ登録をするのだが、冒険者ランクがFランクからSSSランクがある様に、パーティにもランクが有り、Dから順にC、B、A、S、SS、SSSランクまでがある。ランクにより受けられる依頼はソロ同様様々だが、SランクSSランクとSSSランクは桁が違う。中でもSSSランクは国家級の依頼が提示されており各ギルド支店のギルド長から呑みその依頼が受けられる。つまり、ギルド長が認めた者でSSSランクの冒険者パーティ以外はソロのSSSランク冒険者でもその依頼を受けることは皆無でなのである。
そのSSSランクにその【赤鷹】のパーティがいる。─── ここだけの話赤鷹のパーティは全員SSかSSSランクという噂だ ─── つまりは最高ランクのパーティが今このユーディリア皇国のカルマの街に来ているのだ。(因みに俺達のパーティはAランクだ)
とまぁ説明をしたが、それはさて置き興奮覚めやらぬ彼等を尻目に俺は外にでて、待たせて居る仲間の元に向かった。
「紗江、カウラそれにランディ待たせたな」
「そんなに待ってないわよ」
「はい。予想より早かったですわ」
「依頼は決めてこなかったんすね」
─── 先程も言った様に、冒険者ランクD以上はパーティを組む事は必須。その為、その時同じDランクだった冒険者仲間の治療魔法師のカウラと魔法剣士のランディに声をかけパーティ【シュヴァルツ】を結成した ───
「さて行きましょか。宗が晴れてBランク一番乗りしたことだし、今日はお祝いね!」
「そうですわね」
「ソウイチローは何がいいっすか?俺達が今日は奢るっすよ」
まるで自分の事の様に喜んでくれる仲間に、俺は感謝の気持ちでいっぱいだった。
そんな興奮覚めやらぬ気持ちで夕飯のメニューを考えていたら、ふと先程の冒険者の言葉が浮かび、3人に報告する。
「…あ!…そう言えばこの国に【赤鷹】のパーティが来てるそうだぞ」
「ふ〜ん」
そう言った瞬間紗江は出店で買ったと思われるスナックをポリポリと食べながら興味な下げに相槌をうち、カウラとランディは目を見開き固まった後叫び出した。
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