最強の末っ子来たる
「茶太郎こっちおいでっ」
「フニャっ」
かの子が名前を呼ぶと茶太郎は返事をするように応え、とぼとぼ歩いてきた。
その愛くるしい茶虎柄の猫は、かの子が一年前に拾ってきた我が家のアイドルだ。
最初、寛治も信子も野良猫を飼うことには大反対だった。
生きものを飼うことはとても大変なことだし、とても責任のいることだからだ。
2人とも動物は好きであったが、けじめと言うものはつけなければいけない。
毅然とした態度で、物事を伝える。
それが子供に対する教育だ。
「どうしたの?その子猫」
「公園で寂しそうにしてたの、ねぇ飼ってもいいでしょ?」
「だめよ。うちではネコなんか飼う余裕はないの」
「なんでっ!」
「だめっ!大体そんな汚いネコ......はっ! 」
信子は見てしまった。
純粋で丸すぎる黒目を......
――その日の夕方。
「ただいまっ。信子さんお風呂湧いてる?」
寛治が微酔い気分で帰宅した。
「ウニャー」
家を元気に走り回る子猫と寛治が玄関で対面した。
「うーん、可愛ええな。......えっ!?なにこの猫。」
「かわゆいでしょ?」
続いてかの子が出てきた。
「お父ちゃん飼ってもいいでしょ?」
かの子は懇願する目で聞いた。
「飼いたい」
続いて慎太郎が出てきた。
「いいじゃろ?」
続いて裏のおじいちゃんが・・・・・・なんで?
「だっ、ダメだよ。うちにはそんな汚いネコなんか飼う余裕はないよ。」
「いいでしょ?」
先程まで反対していた信子が続いた。
「のっ、信子さんまでなんだよ。あれ?」
信子を見ると麻薬にやられたような菱形の目をしていた。
「あなたもあの子の黒いお目目を御覧なさい」
「御覧なさいって、大体いくら子猫が.....はふっ!」
寛治は見てしまった。
見てはいけないもの。
子猫の純粋すぎる澄んだ目を。
こうして可愛い子猫は茶太郎と名付けられ、我が家の大事な末っ子になった。
近所付き合いのとても上手な子で、裏の野村さん家にも茶太郎専用のお茶碗があることは山倉家の誰も知らない。
茶太郎今夜は帰っておいでね。
子猫には逆らえません。