遠足の日
待ちに待った遠足の日の朝、戦場と化した我が家の台所と元気の無いおとうちゃんのお話。
明日はかの子が六年生の遠足に行く日だ。
うれしそうにお菓子をリュックに詰めたり、着ていく服を丁寧にたたんだりしている。
「ふふふ、やってるやってる。かの子っ、明日晴れるといいな」
寛治は準備をする我が子の背中に語りかけた。
「......」
「かの子ちゃん?」
寛治は確認するように問い掛けた。
「なーに、今忙しいのっ」
「あっ、あぁ、ごめん」
余程忙しかったのか、かの子の思いもよらぬ冷たい態度に少し淋しい気持ちになった。
「旅のしおりは入れたし、水筒は明日冷蔵庫から出して、後は・・・・・・うん、大丈夫。
後は明日晴れるといいな」
ベランダでは、家族と同じ4つの照る照る坊主と一匹のネコ坊主が、初夏の涼しい風に吹かれ踊っていた.
――次の日の朝は緑山小学校の六年生みんなが望んだとおりの快晴であった。
寛治が眠い目を擦りながら下へ降りていくと、かの子と信子がお弁当を作っている。
「かの子っ、卵とって」
「はいよ、お母ちゃん」
「お母ちゃんこれ火止めるよ?」
「うん、お願い」
戦場のような台所の様子に寛治は少々たじろいだ。
「おっおはよう」
「えっ!なに?そこにパンがあるし食べてっ」
「・・・・・・はい」
忙しいのは分かるが寛治は少々淋しい気持ちになる。
朝のニュースを見ながらパンを食べると身仕度をし、そそくさと仕事へ向かった。
「はあっ、娘なんて大きくなるとあんなもんかね」
快晴にもかかわらず寛治の足取りは重かった。
「お母ちゃん行ってきまぁす・・・・・・あれ?」
かの子が急ぎ足で出掛ける時、いつもと違う異変に気付く。
玄関に置いてあった白い箱、蓋にはマジックでかの子と書かれてあった。
「ん?」
箱を開けると真新しい赤色のスニーカー、上に一枚の紙が置いてあった。
***気を付けて行っておいで。お父ちゃん・お母ちゃん・慎太郎・茶太郎より。
「みっ、みんなっ、ありがとう。無事帰ってきますっ」
ピカピカのスニーカーの紐をキュッと縛ると元気よく走って出掛けた。
――お昼時、寛治はあまり食欲がなかった。
「かの子も年ごろだから仕方がないのかなぁ、はあっ。」
溜息をつきながら弁当箱をパカッと開けると、海苔で作った顔にLOVEという文字。
挟まっていた紙には「これ食べて午後からがんばってね(^。^)∨ かの子・信子」と書いてあった。
「うおおーっ!」
寛治はお弁当を一気に食べると三十分も早く仕事に戻った。
毎日これなら出世も早そうである。
それをデスクから見ていた松井部長は目を細める。
「私は毎日自分で作ったお弁当だよ」
ぼそっとつぶやき、自ら作った出し巻きの味に再び目を細めた。
また遠足行きたいですね.