スーパーヒーロー散る
今日は慎太郎の誕生日。
我が子が六回無事に年を重ねてくれたことを感謝する日だ。 もちろんこの日の為に慎太郎が欲しいものをそれとなく聞き、準備は万端であった。 ヒーロー戦隊フラッシュマンの人形がすでに押し入れでスタンバイしていた。
『誕生日おめでとう慎太郎』
『ありがとう』
はにかみながら慎太郎が応えた。
少し照れ屋ながら立派に成長していく我が子はどんどんたくましくなっていく。
『慎太郎がお利口さんにしてたからお父ちゃんとお母ちゃんから素敵なプレゼントがあるんだ。前から欲しがってたやつがあったよね?』
『うん、スーパーザウルス。』
『えっ?あぁ、えーと、あれ?』
寛治、信子、かの子の三人は予想外の展開に固唾を飲んだ。
野球に例えるなら九回裏ノーアウト満塁のピンチである。
好投を続けた先発寛治最大の危機だ。
『えー、もっと欲しいのあるんじゃないの?』
信子がすかさずこのピンチを打開しようとした。
リリーフエースの登場だ。
『もっと欲しいもの? ......っ!いいの?』
慎太郎はようやく大事な物を思い出したようだ。
リリーフ信子は見事ダブルプレーに打ち取り、三人の心の中であと一人コールが響いた。
『言ってごらん?』
四番打者かの子が聞いた。
『えーと.....』
『えーと?』
『ヒーロー戦隊の....』
『ヒーロー戦隊の?』
敵の打者が打った球は弱々しく上がりキャッチャー寛治の頭上に落ちてきた。
勝った!!
三人の頭に勝利の二文字が浮かんだ。
ゲームセットかっ!
『ヒーロー戦隊の怪獣ゴンゴン』
『っ!!!』
落としたっ!!
チーム山倉まさかのサヨナラ負けっ!
最終回の守備、チームキャプテン寛治のエラーにより、試合は幕を閉じた。
結局7番目に名前が出てきたフラッシュマンだった。
押し入れを開けると隅の方で申し訳なさそうに小さくなっていた。
がんばれスーパーヒーロー。子供の熱は案外早く冷めるぞ。