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茶太郎

うちにはまだ可愛い家族がいた。         

茶太郎だ。                   

茶太郎はかの子が公園から拾ってきた雄ネコで茶色い体にまだらな白色い模様が特徴であった。               

『お母ちゃん、茶太郎にハムあげていい?』                


かの子は冷蔵庫を開けながら言った。                   


『いいけどお父ちゃんのおつまみが無くなっちゃうからあげすぎないでね?』             

『うん。おいで茶太郎つ』           


かの子は手のひらに乗せたハムを茶太郎に向けて差し出した。                 

ふがふが言いながら平らげると茶太郎は求めるような目でかの子を見た。               

『お母ちゃんもっとあげていい?』                    


『いいけど・・・残しといてよ』        


よかったねと茶太郎に言うとかの子はハムを切り、一心に見つめる子猫の前に座った。

   

『どうぞ』                  

『ふがふが』                 

『おいしい?』                 

『ふがふが』                 

『ハム好きなんだね』

『ふがふが......』



・・・その日の夜。



『ただいまっ。いやぁ暑いな。こんな時はナイターを見ながらビールだーね。信子さん?』


『だーね。』                  


寛治は信子に軽く微笑むと冷蔵庫を開けた。                


『えっと、お隣さんに頂いたハムがあったよな。えーと。・・・あれ?無い?信子さんハムないね。』  


『だーね。かの子が....』           


『えっ!』       


寛治は突然の事に呆然とした。

娘には嫌われたくない、しかし言うべきことは言わなければ。


『かの子っ!こっち来なさい』         


『はい?』                   


『なんでハム全部食べちゃったんだ?』                  


『だって、茶太郎がおいしそうに食べてたから』             


『茶太郎が?』                 


『うん。茶太郎が』              


『茶太郎が.......』             


寛治はソファで気持ち良さそうに寝る茶太郎に目をやった。

その時、寛治は無防備に眠る子猫を見て気付いた。


可愛い・・・・。

怒れない。                   


『うん』         


寛治は意を決したように頷いた。


『うんうん。いいよ、いい。かの子と茶太郎が喜んでくれたらお父ちゃんそれでいいっ。うん』                

寛治は自分に言い聞かせるように言った。                 


『寛ちゃん、今日はピーナッツで我慢してね』              


『んだーね、だーね』             


寛治はうっすらと浮かんだ涙を吹きながら居間へ行った。                      

パチんとテレビを付けると巨人戦にチャンネルを合わせた。                     

『馬鹿野郎っ!そこは高めに変化球だろっ!』   

『あー、なにやってんだっ!』          


寛治の怒りは巨人に向けられたようだ。                  


『そこっ!だめだだめだっ!まったくもう。あーあ、ハム食べ......』   

『えっ!!なんか言ったのっ!?』             


台所から信子とかの子の声が響いた。                   


『な、なんでもありません』          


寛治はゴロゴロする茶太郎のお腹をつつきながら言った。

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