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逆転ホームラン

町内にはいろんな人が住んでいる。                    

地区会長の中畑さん、いつも公園で立ち話をしている原さんと堀内さん、犬の散歩を欠かさない駒田さんなどいろんな人がいる。              

中でも変り者なのが向かいの黒間だ。       

大の野球好きで巨人一筋40年という筋金入りの巨人ファンだ。

息子の貞君はかの子と同じ小学六年生でリトルリーグに入っている。

こないだも敬遠された球を打ちサヨナラ勝ちしたらしい。

子供が同級生なのと、親同士年が近いのもあっていつも親しくさせてもらっていた。                      

「どーもっ。野球始まった?」    


「あら黒間さん今日もうちで見てくの?」     


「みんなで見た方が楽しいからさ。ほいっ、ビール持ってきたよ。寛ちゃんいる?」  

        

「居間にいるわよ」  

            

「おっじゃましまぁーす」           


黒間はいつもこの調子であった。


「おうっ、寛ちゃん」             


「あぁ、待ってたよ」             


「どうだい?試合は」           


「今二回表-0だね」  


酒を飲みながらピッチャーがどうした監督がどうだと議論するのが二人のお父さんの楽しみだった。   


「いやぁ参ったよ」           

黒間は頭をかきながら言った。          

            

「こないだもうちの息子がホームラン打ちやがってさぁ、監督もプロ入りがどうしたとか言いだしやがってまだ早いっつうんだよな。がははは。」                  

黒間は得意満面に自慢した。                       


「お宅のかの子ちゃんは女の子だからあれだけど、慎ちゃんはやっぱり野球やらすの?」     


「いやぁ、下のは運動神経ないからね。それに慎太郎は昆虫博士に成りたいっていってるんだ」                

「え?昆虫?あの?ぶっ、あーはっはっは。昆虫? ぷぷぷっ。いやあ、昆虫ですか?あの?飛んでる汚いヤツ?参った参った。虫ですか」        


黒間は腹を抱えて笑った。


『いやあ、しかし虫少年て言うのも・・・』


『おい。』                   


『え?』                    


『おいそこのボロ雑巾みたいな顔したお前っ!』              


『ぞっ、雑巾てっ!』    


『うるせーこのションベンハゲがっ!野球ができたら偉いのか?あ?うちの子はそりゃあ優しい子なんだよ。お前みたいに野球しか頭にないぼんくらとは分けが違うんだ。分かるかっ!』


既にビールを二本飲み干していた寛治は止まることを知らなかった。

            

『あ、ああ。』                 


『返事ははいだろっ!』             


『はっ、はい。』           


『アホみてーな顔して、はっ、はいじゃねーんだわ。指を全部ピンと伸ばして両膝に付けて・・・はいっ!!だろ?』         


『はいっ!!』                 


『もういいから家戻って極上の日本酒があっただろ?あれ取ってこい。』   


『いや、あれは・・・』             


『とってこい。』                


寛治の目がキラリと光った。


『返事は?』      


『はいっ!!』     

            

『よーし、いい返事だ。走れっ!』      

            

『はいっ!!』     


『黒は返事だけはプロ級だわ。あーはっはっは。』

            

寛治は酔うと性格が一変してしまう所があった。

            

『寛ちゃんそれ位にしてあげないと。』                  


見兼ねた信子が台所から割って入った。      


『あ?お前もお前だよな?毎晩コロッケばっか食わしやがって。見ろこのちっちゃい肉を。たまには分厚いステーキが食いてーやな。でっかいのは尻だけか?大体お前・・・』


『・・・おい』        


『え?』                    


『おいっ!!お前今なんつった?今なんつったんだっ!尻がでかい?そう言ったか?』         

『い、いえ。』           


『そう言ったな?』               


『いえ、覚えてません。』            


寛治の顔色が変わった。


『言ったんだわ。19時42分に確かに言ったんだわ。言っていいことと悪いことがあるな?えっ?

尻のことは言うなと言ったな?あっ?

この尻が何か悪いことしたか?あんっ?』


『いえ、ぎりぎり大丈夫です。』


『そうだわな!ぎりぎりだわな!大体肉が食いたかったらもっと稼いでこいっ!返事はっ!』                  

『はいっ!!』                 


寛治は指を全部ピンと伸ばして両膝に付けて返事をした。


『あとお前。』                 


黒間はドキッとした。              


『わっ私ですか?』   


『おい黒っ、お前しかいないだろ?』                   


『はいっ!!』                 


『もう反省してるみたいだから許してやるけど、うちの子を悪く言うと許さないよ。うちの子も黒の子も大事な宝物なんだ。』               


『はい。反省してます。』            


『よし。じゃあ20時からドラマ

「愛に汚れて」が始まるからチャンネル変えて。』    


『え?でも、今満塁のチャンスなん・・・。』               


『か・え・ろ。』                


『はいっ!!』                 


結局信子の前では二人とも成すすべが無かった。  

            

『黒ちゃん家で野球の続き見てきていいですか?』             


『終わったらすぐ帰ってくるんだよ?』


『分かりました。行こう。』                  


『うん。』                   


二人は泣きながら去って行った。         

その日巨人は二人の気持ちを象徴するように完封負けした。

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