お豆さん
『お母ちゃんこれ何?』
慎太郎が台所で料理をしている信子に聞いた。
『それはね、いんげんよ。』
『じゃあこれは?』
好奇心旺盛な慎太郎はいろんな物が気になる年ごろらしい。
『それはプチトマト。』
『プチトマト?じゃあこれは?』
『それはお豆さん。』
『お豆さん?なんでお豆だけさん付けなの?』 『
『え?うーん、それはね、みんなに慕われてるからなの。』
ちょっと苦しいかなと思いながら信子はなんとか理由を探した。
『なんでみんなに慕われてるの?』
『うーん、栄養が満点だからかな。』
『慎太郎、そこのお饅頭二つに割ってごらん?』
パカッ
『ちっちゃい小豆がいっぱいはいってるでしょ?
それはお豆ちゃん。こっちの大きいのがお豆さんで、ちっちゃいのがお豆ちゃん。』
信子は笑いながら饅頭の半分を口に入れ、もう半分を慎太郎に渡した。
『慎太郎は今は慎太郎ちゃんだけど、もっと大きくなったら慎太郎さんになるんだよ。
早く大きくなって立派な慎太郎さんになってね。』
『うん、僕立派な慎太郎さん昆虫博士になる。』
『うふふ、頼もしいわね。』
あははは。
慎太郎は笑いながら饅頭の端をかじった。
『でもお母ちゃんは大きいのにお母ちゃんだね?』
『え?あっ、ああ、お母ちゃんはね、お母ちゃんでもあるしお母さんでもあるの。
慎太郎が大きくなって一人前になって素敵なお嫁さんをもらったら、その人からお母さんて呼んでもらうの。』
『ふーん。じゃあお父ちゃんは?』
『あの人は野球野球って野球ばっかりだから、その野球病が治ったらお父さんになれるかもね?』
信子は冷蔵庫から麦茶を出すと、コップに注ぎ、慎太郎に渡した。
『ふーん。じゃあお父ちゃんはずっとお父ちゃんのままだね。』
『そうね、うふふ。』
あははは。
『ただいまっ。』
何も知らない寛治がバットとグローブを持って帰ってきた。
『おかえりっ!お・と・う・ちゃ・ん。』