初秋なり
「お母ちゃん、なんで僕は生まれてきたの?」
慎太郎は茶の間で縫い物をする信子に聞いた。
「それはね、お父ちゃんとお母ちゃんが出会って仲良くなったからだよ」
信子は糸の先っぽをパチンと切ると、優しくほほ笑みながら答える。
「じゃあ、なんでお父ちゃんとお母ちゃんは出会ったの?」
慎太郎は、針に新しい糸を通すのに集中する、母の背中に寄っかかりながら更に聞いた。
「うん?それはね、かの子や慎太郎と出会うためだよ。そうやって幸せになれるように神様が仕合わせてくれたの」
「ふーん。なんか分からないけどお母ちゃん幸せなんだね。ところで、今日のおやつは神様がシュークリームを仕合わせてくれないかなぁ」
そう言いながら、針で針山を意味もなくプスプス突き刺した。
「あらぁ残念。今日の神様は慎ちゃんに豆餅を仕合わせてくれたみたいよ」
信子は言いながら、名札を張りつけた体操着を、出来栄えを確かめるように息子の胸の前に広げる。
「ちぇっ」
昨日と同じおやつに口を尖んがらせた。
「いらないのならかの子に全部あげていいんだね?」
「食べます食べますっ」
「うふふふ」
「あははは」
笑いながら慎太郎が信子の膝に頭を乗せ、寝っ転がる。
残暑厳しい昼のこと、赤とんぼの群れは右へ行ったり左へ行ったり。
その秋の象徴達はひぐらしの奏でるメロディに乗りながら、ゆっくりと円を描き、新しい季節を我が街に連れてきてくれた。