すずめの家族
新緑がキラキラ輝く5月の休日の夕方、寛治、かの子、慎太郎の三人と茶太郎は庭にいた。
庭に作った花壇の花に水をあげたり、雑草を摘んだりする為だ。
「あ、すずめ」
慎太郎が泥だらけの手で、庭の奥に降り立った一羽のすずめを指差した。
「かわいいな」
寛治が汚れた手を払いながら、庭の奥に視線を注いだ。
「パンあげよっと」
かの子はそう言うなり、台所から4分の1程度に切ったパンを持ち出してきた。
小さく小さくちぎると、すずめの手前にそっと投げた。
パンに気付いたすずめは、ちゅんちゅん言いながら小さな固まりをついばんだ。
「食べた」
慎太郎はうれしそうに微笑みながら、父親に伝えると姉の手の中のパンをちぎってそっと投げた。
すずめは再びそれをついばむと、次をせがむように3人を見つめた。
姉と弟が順番にパンを与えてると、しばらくしてすずめはどこかに飛んでいった。
「お腹いっぱいになったのかなぁ」
「うん、満腹でお家に帰ったね」
弟の問いに姉がやさしく答えた。
それからまたしばらく花壇の手入れをしていると、庭に数羽のすずめが降り立った。
「あ、さっきの子」
「そうなの?」
「右の足の爪が赤い」
慎太郎がそう言うと、縁側で麦茶を飲んでいた寛治は、我が子の観察力に目を細めた。
「家族を連れてきたんじゃない?パンくれる人がいるよって」
「お、お利口さん」
慎太郎がその場ですずめを撫でる振りをするように、手を上下させた。
「すずめの家族も大変なんだなぁ、うんうん、わかるよ」
寛治が感心するように言うと、再び姉と弟が順番にパンをちぎってそっと投げた。
4分の1程度に切ったパンが無くなる頃、すずめの家族は満足したのか一斉に空へと飛び立っていった。
「ほのぼのしたな」
寛治が笑いながら言うと、二人の子供は黙って笑いながら頷いた。
それから程なく、母信子が急いだ様子で帰ってきた。
「ちょ、ちょっと全員集合!」
とても慌てた様子に、何事かと三人は庭から玄関の方に目をやった。
「これを見て!すぐ行くよっ!」
急かされるように、3人と信子は自転車に乗ってどこかへ消えた。
信子が持っていたのは一枚の紙ときゃべつが1玉。
そこにはこう書かれていた。
本日
きゃべつ1玉
20円
※お一人様1玉限り
人間もすずめも似たようなものである。