おでんの日
「お父ちゃんね、みんなの事が大事なんだよ」
夕食時、ほろ酔い気分の寛治は優しく家族に語りかけた。
「みんなが元気でいてくれるからお父ちゃんはがんばれるんだ。みんなが一緒にこうしている事が幸せなんだよ」
寛治は家族一人一人の目を見ながら続けた。
今日は語りたい気分なのであろう。
「例えばさ、このおでんを御覧よ。ほっぺがぷにぷにしたかの子は玉子、石頭の慎太郎はじゃがいも、母ちゃんはみんなを優しく包むお出しだね」
一つの鍋で所狭しと重なり合うおでんを、狭い家で暖かく暮らす家族に例えた。
「じゃあ、おひげがじょりじょりしたお父ちゃんはゴボウだね」
「あははは」
末っ子の慎太郎がそう言うとみんなが笑った。
「でもさ、おでんにゴボウは入ってないから、お父ちゃんだけきんぴらだね」
「ほんとだ、あははは」
長女のかの子が言うとまたみんなが笑った。
「ちょっ、ちょっと待ってくれよ、きんぴらは出しに包まれてないじゃないかっ!」
寛治が慌てて言った。
半べそ状態である。
「じゃあ大根にしてあげようか?」
「ううっ、ああっ、いいの?ありがとう」
温かく見守るように、空では満月が優しく光っていた。
自分は中身がいっぱい詰まってるがんもだと言いたかったが、今日のところは大根で我慢する寛治であった。