第2部13話
「お前達か! 里中を焚き付けたのは!?」
「ほ、本当に大変だったんですからね!」
浩明、凪、慶の三人は屋上にて、理事長室から戻ってきた赤松と紫桜と合流した途端、いきなり怒鳴られた。紫桜に至っては涙目でだ。
理事長に昨日の放課後の話をしている最中、地響きが聞こえてきたと思ったら、突然ドアが勢いよく開き、「ジヤーナリズムーーー!!」と叫びながら絵里が乗り込んできたそうだ。
目が血走り、頭をゆらりゆらりと振りながら理事長の前に歩み寄り、バンッと机を叩き「お願いが有ります」と事件に関する情報開示と配信を要求しだした。
理事長の由乃が、「出来るわけないだろ!」と雰囲気にのまれながらもきっぱりと断ったのだが、「報道の自由の侵害だ、我々にも知る権利は有る」と喰い下がらずに噛み付いたのだ。それも、目が血走り、地獄の釜の底から響くような声で迫るという異様な雰囲気で由乃に迫り、赤松と紫桜の二人は絵里を由乃から引き離そうとして、抵抗されて大暴れ、その勢いに押される形である程度の情報提供と、事件解決後の配信を取り付けていった。
概ねの勝利に、「マスメディアは権力に屈せず!!」と左手を掲げて雄叫びをあげながら、理事長室から去っていったのを唖然として見ていたそうだ。
その大惨事に発端が、十中八九、浩明達にあると決めつけた二人は、 合流したと同時に三人に詰め寄っていたのだ。
「あ、あの……、私達の名誉の為に言っておくけど、今回は私達のせいじゃ無いからね」
「なんていうか……ジャーナリズムの暴走?」
「何だと?」
気圧される形で迫られながら弁明をすると、最後には渋々といった形で怒りの矛を収めてくれた。
その辺の冷静さは残っていたようだ。
そこを見計らって慶が切り出した。問題の起こりそうな話題は早々に切り替えるに限る。
「それで、理事長への報告はどうだったの?」
「えっと……特に、何も有りませんでしたよ」
「まぁ、里中の件でまた胃腸薬を飲んでたみたいだがな」
「わお、このまま行ったら入院しちゃいそうね」
紫桜と赤松の言葉に対して凪がぼやくが、当たりかねない話なので突っ込むに突っ込めない。
「会長達の方は……」
「あ、これ、里中さんに調べてもらった斯波さんの資料ね」
受け取った資料を赤松は軽く目を通すと浩明に目を向けた。
「星野、これを見て何か気付いた事は有るか?」
「はい?」
赤松の問いに浩明は思わず聞き返した。
慶や凪、紫桜も驚いた表情で赤松を見ている。
「なんだ、何がおかしい?」
「いや、赤松君が星野君に意見求めるなんて思ってなかったから」
「情報の共有位、別におかしくないだろ」
三人を代表した慶の言葉に、赤松はぶっきらぼうに答えると、話題を元に戻した。
「それで、どうなんだ?」
「資料を見ただけではまだなんともと言ったところでしょうかねえ」
「なんだよ。少しは突破口が見つかればと思ってたのに」
期待外れの言葉に、赤松は落胆した。
「まぁ、突破口にしろ、この資料を踏まえた上でもう少し詳しく話を聞いて裏付けをする必要が有りますからねえ」
「裏付け? 分かった。その件は俺と京極で斯波さんに話を聞きに行ってくる。何を聞くつもりだ」
「いえ、そちらには普通に話を聞きに行っても答えてくれないと思いますよ。行っても同じ答えが返ってくるだけです。まずは関係者に話を聞いてまわる方が先ですよ」
「関係者?」
「えぇ、データの中の彼女ではなく、現実の彼女の人となりを知ってからでないと次には進めませんからねえ」
資料の交友関係欄に目を通しながら、浩明はそう言ったのだった。