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第2部12話

 斯波かなでの事が知りたい。

 そう決めた翌日、浩明と凪、慶の三人は新聞部の部室に来ていた。事前に連絡を受けていた里中絵里は不機嫌を隠すことなく三人を迎えた。

「星野君、新聞部をなんだと思っているか聞いていい?」

 星野家での話し合いの後、浩明は斯波かなでの情報収集を絵里に頼んだ。

 当初、「なんで私が」と断ったのだが、同席していた慶と赤松にも頼まれれば断るのは無理と、渋々だが協力を約束してくれた。紫桜が「これ、いいんですか?」と、やり方に疑問を浮かべたが柳に風で流し、凪が諦めるように言った。目的の為ならなんでも利用する。それが他人の肩書きだろうとだ。

 抗議の言葉を無視して、浩明達は絵里から受け取った資料に目を通していく。

「ねぇ聞いてるの?」

「申し訳ありませんが、少し黙っていてもらえませんか」

「ちょっと!」

「まぁまぁ落ち着いて」

「ああなったら周りの声なんか雑音にしか聞こえませんから」

 抗議の言葉を、言っても無駄だと慶と凪が止めに入る。

 二人が浩明に付いた目的は殆どが浩明に対するフォロー、というより浩明に対する敵意の防波堤だ。

 二人に止められて、言っても無駄と悟って諦めの溜め息を洩らした。その代わりに話題を変えて凪と慶に話を振った。

「それにしても、噂は本当だったのね」

「噂?」

「生徒会長、風紀委員長と星野君達が一緒に行動しているって話よ」

「あ、あぁ、それ?」

 言われてから、何が言いたかったのか気付いてはっとするように答えた。

「もう、噂になってんだ」

 一緒に行動を始めた昨日の今日で、学校中の噂に発展している。浩明の生徒会、風紀委員会に対する態度を考えれば魔術専攻科の学生には正しく驚天動地のありえない光景だ。

「それで、どんな経緯で一緒に行動する事になったのよ?」

「どんなって……なりゆき?」

「理事長の指示でしょ」

 凪の疑問符を慶が苦笑をもらして答える。苦笑が入ったのは当たらからずも遠からずだからだ。

「ところで、残りの二人は?」

「赤松君と京極さんは理事長のところに行ってるわ」

 一日一度の経過報告をする事を守れば、自由に動けば良いと言われている。昨日、行った話し合いについて行っている事を告げると、絵里は納得するように相槌をうった。

「それはまた……、赤松君、喜んで京極さんについていったんでしょうね」

 事件当時、浩明に糾弾されて一触即発寸前だったのは現場にいた学生の殆どが目にしている、紫桜に同行する事に、内心、安堵の溜息を吐いているのが容易に想像できた。

 データを読み耽る浩明を見ながら、三人は苦笑を漏らした。



「つまり、斯波さんがサボるのに旧校舎を使わなかっただけで、彼女を疑っているわけね」

「えぇ、気になるところが有りまして」

 一通り資料を読み終えた浩明は、絵里からの問いにそう答えた。新聞部部長として、爆破事件の事を聞いてきたので答えれる範囲で応じた。

「それだけで疑うのは暴論過ぎない?」

「勿論、疑おうと思えば疑える事は他にも有りますが、確信を得るためにも、彼女の事を知る必要が有りましてねえ」

 彼女の情報を纏めたデータを指して答える。

「それで、その結果はどうだったの?」

 口角を軽くつり上げて聞いてくるのを、そうですねえ……と一拍おいてから、浩明は答えた。

「正直に言えば、まだ分からない事だらけですからなんとも、といったところでしょうか」

「何よ、少し位は分かってる事が有るんじゃないの?」

 お茶を濁したような答えに、絵里は口を尖らせた。

 少しでも聞ければ儲けもの、そう思って聞いたら全く効果無しではわざわざ資料を集めた労力が報われない。

 それに反論したのは慶だ。

「里中さん、この件は理事長の指示で動いてるから、安易に話す訳にはいかないのよ」

「そんなぁ……」

 理事長が出てこられては反論のしようがなく、項垂れて頭を落とす。

 しかし、それも一瞬、絵里はくわっと頭を上げると、不気味な笑みを洩らし出した。顔が下を向いたままなので表情を読み取る事が出来ないが、人に見られたくない顔をしているのだけは確かだろう。

「ちょっと行ってくるわ」

 ぽつりとぼやくように、だけど、三人に確実に聞こえるようにそう言うと、ゆらりと身体を揺らしながら、部室から出ていった。

 その不気味な雰囲気に耐えきれず、凪と慶が「ヒィッ!」と短く悲鳴をあげて後退りした。

「か、会長、あれ、どこに行くつもりなんですか?」

「さ、さぁ……?」

 先輩である絵里に対して「あれ」呼ばわり、普通なら、目上の人相手になんて言い方だと注意されてしかるべき言動だが、注意すべき慶も、同意見だったので、素直に返事を返した。

 代わって、一人平静に見ていた浩明が凪の疑問に答えた。

「多分、理事長室に向かったのだと思いますよ」

「り、理事長室?」

「恐らく直談判に行ったんでしょうかねえ」

「じ、直談判って……今回の事も記事にするつもりなの!?」

「そこは分かりかねますが、だいぶジャーナリズム精神が変わったようですねえ」

 絵里の用意した斯波かなでの資料を、二人に見せた。

「彼女の出身中学、家族構成、友人関係はともかく、テストの順位、教師からの評判、果ては交際経歴まで記載されてますよ」

 どうやって調べたのか個人情報を事細かに記載されている事に驚きの余り、背筋が凍りつくような悪寒を覚えた。

「この間まで、ほのぼの系の記事ばかり書いてた人だったのに……」

 前回の事件、真相を暴く記事を配信した事がすっかり彼女を変えてしまったようだ。

 凪のぼやきが部室にぽつりと響いたその頃、理事長室から、怒号が響き渡ったのだった。

 

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