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第2部10話

「2年1組の斯波かなでさんですね」

「そ、そうだけど?」

 赤松の確認に、玄関を開けた斯波かなでは、帰ってきたばかりなのか、上着を脱いだだけのシャツとスカートだけの姿で出てきた。。

 二人は翌日からの引き継ぎと理事長への報告を終えると、まず、書き込みをした学生の身元確認を行った。

 目的の相手は、最初に「旧校舎で爆発」と書き込みをした学生で、発生当時の事を聞こうと学内ネットワークからプロフィールを確認し、名前と所属しているグラブがテニス部であると分かり、さっそく部室に行ったのだが、爆発騒ぎの件もあり全ての部に活動中止の通知がまわされており全員帰宅した後、やむを得ず彼女の自宅に伺う事になったのだ。

 風紀委員長と理事長のはとこ、今まで接点のない異色の組み合わせのこの二人、余りにも珍しい光景に、彼女は二人を交互に見やると、「何か用?」と聞いてきた。

「今日、起きた旧校舎での件だけど」

「はぁ? 勘弁してよ。さっきまで同じ事を警察官に話してたのよ」

 用件に不機嫌を露にする。二度手間を求めればそうなるだろう。

「大体、なんで風紀委員に爆発の事を話さないといけないのよ」

「今回の件、学校側でも調査する事になったんだ」

「あの……申し訳ないんですが、私達にも話してくれませんか」

 事情を話し、紫桜が頭を下げると、斯波は仕方ないと、ドアから出て戸を閉めて寄りかかり、話し出した。

「別にたいした事じゃないわ。授業が空いて部活まで暇だったから旧校舎の近くで時間を潰してただけよ。それで授業が終わったから部室に行こうとしたら爆発音がして、煙が昇ったのが見えたから行った。それだけよ」

 腕を組み、素っ気なく淡々と言うと「これでいい?」と聞いてくる。

「どうして、旧校舎の近くに?」

「別に、誰にも邪魔されない所で一人になりたかったからよ」

 たまにあるでしょと、同意を求められて回答に困った二人は、爆発後の事に質問を変えた。

「何かおかしな事はなかったかな?」

「あかしな事って、燃えてる旧校舎に気を取られてそれどころじゃなかったわよ」

 投げやりな答え方に赤松はたじろぐ。見当外れではないが、同様の質問を警察官にもされて、うんざりしていたのだろうと察する。

「もういい? 警察官に質問責めされて疲れてんだけど」

「あ、あぁ。もう充分ですよ」

「ありがとうございます」

 日を改めよう。

 無言で二人頷き合い、斯波に頭を下げると、斯波は家の中に入っていった。



「タイミング最悪だったな」

「機嫌、悪そうでしたね」

 並んで帰路に着く二人は愚痴を漏らした。

 事情聴取直後に同じ事を聞きに行く。

 仕方がないとは言え、聞かれる側には迷惑極まりない行為だろう。自分達でも御免だ。

「明日はどうしますか?」

「それは、会長達と話をしてからだろう。向こうの情報も聞いてから決めないと」

「向こうの情報って、会長達は現場を見に行ってましたよね。星野さんが主導で」

「あの星野の事だ。何か見つけてくれるだろうよ」

 風紀委員会だけしか知らなかった犯行予告を見抜いた推理力は侮れないからなと、赤松は携帯端末を取り出した。




「会長の行動って、計算でやってるわけじゃないわよね?」

 何故こんな事に、と凪が思ってしまうのも無理はない。

 一度、合流しようと、慶に連絡を取って学校に戻り、慶達三人と合流し校舎に入ろうとするも、緊急会議の為に帰宅を促され、別の場所に移動する事になった。

 そこで、喫茶店にでも入ろうかと言う話が出たわけだが、「行ってみたい店が有る」と、慶の一声でその店へと決めた。

 先日、開店したばかりのケーキ屋で、喫茶スペースも有り、女性のパティシエが一人で切り盛りしているそうだ。先日、友人が手土産で持ってきたその店のケーキのあまりの美味しさに驚き、一度行ってみたいと楽しげにみんなに話した。

 女性と言うのは甘いものに目のない人種だ。その時の事を恍惚の表情で語る姿に、否が応でも期待が高まる。しかし、住み慣れた街で見慣れた景色、移動している途中、自分の家の近所の景色に変わってくると、額に嫌な汗が浮かんでくる。

「会長……、まさかと思いますけど、行ってみたい店って「YAGAMI」ってケーキ屋じゃないですよね?」

「あ、そうそう。そこだよ、知ってるお店?」

 出来れば違ってほしい。その願いはあっさりと砕かれた。

 駄目だ。このメンバーであの店に行くのは危険過ぎる。

「あの、その店だけは止めませんか?」

 せめてもの抵抗は、店を変えるように持っていく。そうするしかないと切り出す。

「なんで? もうすぐ着くのに」

「いや、何て言いますか……その……ですね」

 歯切れの悪い反論は、店に着くまでの短期決戦では最悪の悪手だ。

「別にどこでもいいだろ」

「いや、そういうわけじゃなくてですね」

 様子のおかしい凪に、赤松が口を挟んでくる。

 圧倒的不利の状況で、凪にはどうする事も出来ず店の前に着いてしまう。

「あの……悪い事言いませんから、今からでも別の店に行きませんか」

「ここまで来て入らないわけないでしょ」

 凪の言葉を一蹴して、慶はドアに手をかけ、中に入っていく。

 チリーンとドアの上部から聞こえる来客を知らせる鈴の音。

 店内で、膝を曲げて、ケーキの並んだショーケースを覗いていた女性が、すっと立ち上がって振り向き笑顔で迎える。

「いらっしゃいませ……」

 笑顔で迎えた女性が、少し驚いた顔に変わった。

 慶達が反応に首を傾げるが、直ぐ様、女性の表情が変わる。先程とは違う笑顔。慈愛のこもったそれは家族に対してのものだ、

「あら、お帰りなさい、ヒロ君、凪ちゃん」

「ヒロ君、凪ちゃん?」

 浩明と凪に視線が集まる。

「ただいま戻りました」と表情を崩さずに浩明。

「ゆ、夕さん。ど、どうも」と、ばつの悪そうに凪が挨拶を返していた。

「え、どういう事ですか?」

 紫桜の疑問は直ぐに答えが出てきた。

「夕、どうしたの? 騒がしいみたいだけど……、あれ、ヒロ?」

 あぁ、成程。

 店の名前を聞いて、灯明寺凪が必死に行き先を変更しようとしてきたのか。

 そして、その理由を言い淀んだ理由もだ。

「ただいま帰りました。英二兄さん」

 店の奥からエプロン姿の星野英二が出てきた事によって。


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