第2部9話
お昼休みにシャッス!!
昨日、投稿する予定で寝落ちをしてしまった常高院です。
いつもイレギュラーな魔術師を読んで頂いてありがとうございます。
いつもは活動報告で告知をやっておりますが、見ておられない読者の方もおられると思いますので、この場でも報告をさせていただきます。
このイレギュラーな魔術師ですが、この度、話のリメイクを投稿しました。
今回理由としましては、足掛け数年かかった第一部ですが、感想でも多く指摘のあった、設定や性格のブレが多いことです
執筆開始当時、行き当たりばったりで書いていたこともあり、自分自身でも粗が目立つのも自覚しながら改めて練り直しをやっております。
このイレギュラーな魔術師をここまでやってこれたのも、応援や感想を頂ける皆様のおかげです。
これからも、皆様や期待に応えれるように頑張って行きますので応援よろしくお願いいたします
爆破事件が連続爆破の可能性も有ると分かり、関係者が気を引き締める事になった事情聴取の後、赤松は引き継ぎをして、そのまま関係者に話を聞きに行くと言って現場を離れ、同じく紫桜も、理事長に報告したいと、赤松について行った。因みに、連続爆破の可能性も有ると報告を受けた理事長は、そのまま目眩を訴えてソファに倒れ込んだそうだ。
そして、残った浩明、凪、慶の三人は、好意により、爆発の有った教室を見ていた。本来ならば許されない事なのだが、犯行声明が有った事を見抜いた浩明の姿を見せられて、自分達にはない何かを見つけるのではと言う考えもあっての事だろう。もっとも、警官の方々はもう引き上げるそうで、現場を荒らさない事を念頭に置かれてであるが
「灯明寺さん」
「なんです、会長」
「あれ、何をしてるのかな?」
一通り見た後、浩明の邪魔にならないよう廊下に移動した慶は浩明を見ながら、凪に聞いた。
「考え事してんじゃないですか?」
無言で床や壁を叩いたり、空いた穴から外壁を見たり、机や床に張ってあったフローリングや置いてあったものの残骸を見たりとを繰り返している。
端で見ている二人には何を見ているのか分からない。結果、凪の行き着く結論は
「まぁ、納得行くまで好きにさせとけばいいですよ」
放っておくに限る。
「心配しなくても、事件に関する何かを見つけてくれますよ」
「随分と星野君の事を信頼してるのね」
「それは当然ですよ。相棒ですから」
「相棒ねぇ……」
得意気に胸を張る凪に慶は困惑の視線を送る。
灯明寺凪の知名度は、今や魔術専攻科で知らない人間は殆どいない。普通科の魔術師であり、魔術専攻科で余り良い印象を抱かれていない星野浩明の相棒だと、堂々と自慢げに公言しているのだ。
何よりも浩明本人が、自ら頭を下げて協力をあおいだのだから、その信頼は絶大だ。
曰く、灯明寺凪は星野浩明のお気に入り。危害を加えようものならば星野浩明を敵に回す。
魔術専攻科で新たに生まれた不文律であり、なまじ浩明の実力を目の当たりにしている学生は、決して彼女には手を出さない。自ら好き好んで虎の尾を踏みに行く馬鹿はいないと言う事だ。
浩明の姉代わりの雨田夕が彼女を気に入ってるから、信頼していると言っているがそれだけではないだろう。
「灯明寺さんは星野君と仲が良いのよね?」
「へ……、まぁ」
思わぬ話題を振られて、思わず間の抜けた顔で慶を見てしまうと、慶は思わず笑みを溢した。
その反応に、羞恥で思わず顔を赤くしてしまい、慌てて慶が謝る。
「あ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ無かったのよ」
「いえ、分かってますから。ちょっと驚いただけなんで」
お互いに一頻り笑いあうと、改めて慶の問いに答える。
「んで、何?
会長は星野の事が知りたいんですか?」
「えぇ、家が隣どうしでよく遊びに行ってるんでしょ。それに……」
壁を所々叩いている浩明を一目見ると、凪との距離を肩同士がつくまでに詰め、浩明に聞こえないように小声で切り出した。
「彼の魔法についてもね」
「魔法……あぁ、魔法ね」
自分達しかいないのに、誰にも聞かれないような細心の注意を払う意図を悟ると、バツの悪そうな顔で、慶同様に小声で答える。
「悪いんですけど、私、それには答えられませんよ」
「答えられないって、やっぱり星野君に止められてるの?」
「それも有るんですけど、私、あいつの魔法って殆ど知らないんですよ」
「知らないって、いつも一緒にいるのに?」
「えぇ、いつも一緒にいるのにですよ」
凪は肩を竦める。
「あいつの魔法について分かるのは、彼の魔法に対する考え方は私達とは根本的に違う事」
「根本的?」
慶が首を傾げる。
「魔法を使える事に誇りを持つ魔術専攻科の学生と違って、星野は魔法を便利な道具としてしか見てませんよ」
「それは確かに、私達とは大違いね」
魔法第一主義者にでも聞かれたら闇討ちされかねない考えに、慶は苦笑を洩らした。最も、浩明にそんな事をしたら、逆に返り討ちに遭うだろう。
「そして、星野がそう考えるようになった原因が、彼がよく口にする師匠という存在だと言う事」
「師匠って、星野君がよく口にしてるわよね」
「えぇ、星野曰く、自分の常識を全て壊してくれた尊敬する方だそうよ」
星野浩明が慕う人間のなかで最も尊敬している人が二人いる。
一人は星野英二、天統家という牢獄から自分を救い出し、自由と家族をくれた恩人と、もう一人は、今のイレギュラーな魔術師、星野浩明を作ったと言っても過言ではない男、浩明からは師匠としか聞いた事のない男であるが、聞く限りでは色々とぶっ飛んだ考えの人だろう。曰く魔術師らしからぬ魔術師、曰く人外、曰く常識がない、曰く失敗すれば死、身の毛も凍りつくような事を、さも普通のやり取りみたいな感じで話す浩明に、凪が突っ込むのは二人の御約束だ。
「つまり、性格破綻の原因はその師匠って事なのね」
「実際、どんな事してたのかは詳しく聞けないんですけどね」
「それは……聞きたくないの間違いじゃないのかな?」
盛大に落ち込む凪に慶が苦笑を浮かべる。
「話はもう終わりましたか?」
「うわぁ!」
いつの間にか戻ってきていた浩明に、いきなり声を掛けられ、ふたりは驚いて、腕を掴みあい後退りした。
「おや、随分と仲がよくなったんですねえ」
驚きの余り、二人で抱きしめあうような形となってしまい、頭ひとつ低い凪は慶の胸元におさまっている状態で、結果的に同性カップルを思わせる百合色空間が形成されかけていた。自分も怖いけど、彼女は私が守らなきゃ的な保護欲を掻き立てる。そんな空気が彼女達から感じられる。これで腰でも抜けてへたり込んでくれればラノベの挿絵に間違いなく使われる構図になるだろうな、と浩明は頭のなかだけで留めておく。
「折角ですので、写真でも撮っておきますか?」
「やるな、馬鹿!」
慌てて慶から離れると、浩明が取り出した携帯端末を奪い取る。
「うわ、本当に撮るつもりだったの?」
画面を見ると本当にカメラモードになっていたので、呆れつつもカメラモードを終了させてから返した。
「おや、残念」
「うっさいわ。それで、何か分かったの?」
心底、残念がる浩明の頭を、話題を変える事で元に戻した。
「分かったというわけではないのですが、気になった事がひとつ、何故、旧校舎だったのかと思いまして」
「何故って?」
「犯人はどういった目的で旧校舎を爆破したのでしょうか。無差別テロなら授業中の校舎を狙うでしょうし、殆ど使われていない旧校舎を狙う理由がなんだったかのかと思いましてね」
「さらりと怖い事言うわね」
浩明の言う通り、校舎内でこのレベルの爆発がもし起こったら、身の毛もよだつ想像をしてしまい、慶は腕を抱いて震える。
「旧校舎のほうが狙いやすかったんじゃないの?」
「狙いやすい。そう言う理由が爆破する理由になりますかねえ。見た所、物置としてしか使われていないみたいですが」
瓦礫と化した机や椅子、辛うじて燃え残ったものの、熱風で飛ばされバラバラに散った生徒会の資料など、もう使う事の無さそうなものを見ながら聞く。
「確かに、サボりの溜まり場としては結構良いとこなんだけどね」
「灯明寺さん、授業をサボった事が有るの?」
「へ……あ、いや、授業が空いた時にですよ。ほら、選択してない授業とか有るじゃないですか」
「……まぁ、そう言う事にしといてあげるわ」
慶の肩書きを思い出して慌てて訂正すると、一応、慶は納得してくれた。納得していないのが丸分かりだったが。
「そうですか……、ここはサボるには良いところですか」
教室内を見渡しながら、浩明は呟いた。