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第2部8話

「それで、方針が決まったところで、赤松先輩達はどう動くつもりなんですか?」

 凪が今後の予定を切り出した。

 同じ人間に聞きに行っては非効率だ、何するのか聞いておかねばならない。

「悪いが、俺は一旦、委員会の方に戻らせてもらう。色々と引き継ぎして、今後の事も指示しとかないと満足に動けないんでね」

 委員長として当然の行動を止める理由はない。

「んじゃ、私達は?」

 慶に視線を向ける。生徒会長である慶を立てての行動だ。聞かれた慶は「そうねぇ……」と、頬杖をつき、浩明に目を向ける。

「星野君だったら、最初にどう行動するかな?」

「私ですか? そうですねぇ……先ずは現場を見て回ることですかね。何か見つかるかもしれませんし」

「じゃあ、それで行きましょ」

「え、いいんですか?」

 あっさりと決めてしまう慶に、思わず凪は聞いてしまう。

「私は星野君に従うつもりよ。やり過ぎだと思ったら止めるけどね」

 馴れない事は、慣れてる人に思いきって任せる。慶の意図は単純だった。

「それじゃ、さっさと行きましょ」

 慶の号令で浩明と凪は「分かりました」と頷いて生徒会室から出ようとしたが、第一歩目から躓く事になった。

「ちょっと待って下さい」

 三人を止めた紫桜の声。振り向くとその手には携帯端末が握られている。

「理事長から連絡が来まして、警察と消防署の方が話がしたいそうで現場まで来てほしいそうです」

「……話し合いの必要なかったわね」

 凪がぽつりとぼやいた。




 警察官と火災原因調査官という聞き慣れない肩書きの鈴城という職員に呼ばれたのは、現場で避難誘導をした赤松に、消火に当たった浩明と凪の三人だった。

 瓦礫が飛び散った校舎周辺、火元が有ったであろう二階の教室や床の吹き飛んだ屋上を一通り見た後、現場に残っていた学生達から消火の経緯をそう聞いて三人を呼んだわけだが、何故か一緒に着いてきた慶と紫桜に怪訝に視線を向けてしまったのはしょうがない事だろう。

 しかし、二人がが生徒会役員で、状況を把握したいと立ち会いを願ったら直ぐに許可が下りた。

「では、話を聞かせてくれるかな。爆発が起きたのをどこで知ったのかな?」

「灯明寺と一緒に図書室いた時です。待ち合わせをしていましたので」

「学校内の見回りですよ」

 まるで、子供に対する言い回しだったが、三人は気にせず答える。年齢からすれば、自分達はまだまだ子供だ。

 その後も、それを証明できるのは誰か、当時の状況など形式的な質問やどうやって消火したのかなどを聞かれた(消した魔法についてはぼかしてだが)。そして、

「最後にだけど、何か気になった事はあったかな?」

「では、ひとつだけ」

 最終確認の通過儀礼に浩明が応じた事に、鈴城は少し驚きつつも、「何かな?」と話すのを促した。

「風紀委員長、あの場での避難誘導は見事なものでしたねえ」

「え、あ、あぁ、怪我人を出さないように必死だったからな」

 急に労いの言葉を掛けられた赤松は、狼狽えつつも答える。

「ただ、気になったのですが、事態を聞きつけ、風紀委員と共に駆け付けると同時に避難誘導を始めている。しかも、多くの風紀委員が次々と現場に集まった。手際が良過ぎると思うんですよ」

「一応、避難誘導のマニュアルを読んでいるし、情報は学内ネットワークで確認していたからな」

「学内ネットワークですか、でしたら風紀委員長は随分と慎重派なのですねえ」

「何?」

 怪訝に表情を歪ませる赤松の前で、浩明は携帯端末を操作して、学生達のリアルタイム掲示板を全員に見れるように空間ディスプレイで展開した。

「今回の爆発騒ぎの情報をあげた掲示板ですが、最初に爆発があったと書き込まれた時間が四時三十分、風紀委員長が来たと最初に書き込まれたのは四時三十七分、この僅かな間に、それも移動しながら現場の状況を把握出来たとは思えないんですよ」

「掲示板の書き込みを見ながら移動していたんだ。その位は出来るだろ」

「書き込みを見ながら……、それはどうでしょう」

「おい、何が言いたい?」

 疑惑の目を向けられている事に苛立ち始め、睨み付けてくる。紫桜がハラハラと浩明と赤松を交互に見ている。

「会長、爆発音がした時、何が起きてどんな状況だったか、何で現場に来たのか教えてくれませんか?」

 急に話を振られた慶は、虚を付かれたよう応じる。

「そ、それは私も掲示板の書き込みを見たからよ。だけど、皆が一斉に書き込んだせいでサーバーが繋がりづらくなって、殆ど見れなくなって、何とか見れたら、大変な状況になってるから行かなきゃって。そしたら、天統君と雅ちゃんが「星野君がいるから」着いてくるって事になって……」

「最後は別にいいですよ。問題はその前です」

 聞きたかった答えを聞いてから、浩明は改めて赤松に向いた。

「爆発音が聞こえた事により学生達は何があったからと、ほぼ一斉にアクセスした事でサーバーに負荷がかかりアクセスしづらい状況、更に書き込みも殺到し情報は錯綜。実際、現場にいない会長は状況が把握しきれていなかった。

それなのに、同じく現場にいない委員長は憶測の飛び交うなか、正しい情報を的確に見抜き、爆発の規模が大きく避難誘導が必要だと判断し、直ぐに風紀委員を現場に向かうように指示をしていた。同じ状況、同じ掲示板を見ていた筈の二人で、行動にこれ程の差が出るのはいくらなんでも不自然です。考えられるのは、今日、旧校舎で爆発が起こるのを知っていた、あるいは起きるかもしれないと事前に警戒していたかですよ」

 全員の視線が赤松に向けられる。

「ちょっとちょっと、まさかの自作自演?」

「おい待て。そんな状況証拠だけで俺が犯人だって言うのかよ?」

 凪の疑いをかける問いに、赤松は浩明を睨み付けるが、浩明気にせず応対した。

「私は、あくまで知っていたのではと聞いているんですよ。確かに犯人という可能性がないのも否定しませんがね」

 ―そこは否定しないのかよ

 全員が同じ事を心のなかで突っ込んだ。

「ただ、可能性がないとは言え、やる可能性は非常に低いと思います。なにせ動機が有りませんからね」

「風紀委員会に対しての信用回復とか?」

「風評被害に対して自作自演で旧校舎を爆発させて的確な避難誘導をして信用を得る。仮にそうだとして、万が一、失敗した時の事も考えれば、リスクが高過ぎます。そんな危険な賭けに手を出すとは到底考えられませんよ」

「だから知っていたかって聞いたわけだ。じゃあ、なんで皆に言わなかったのよ?」

 凪の疑問に浩明は続ける。

「その理由は、その情報が信憑性が低かった。或いはその情報源が非常に信用性が低いものだった、例えば、匿名での掲示板への書き込みか、通報とかでしょうかねえ」

 一頻り言い終えると、浩明は赤松を見て、回答を求める。他の全員も同様だ。

「ったく、噂通りの野郎だな、お前は……。そうだよ、星野が言った通り、起こる可能性があると考えて動いていたよ」

 諦めと観念、複雑な顔で赤松は頭を掻きながら答える。

 数日前、赤松の携帯端末に、「本日、午後四時三十分に学校を爆破する」という犯行声明が匿名のメールで届いたらしく、同様の書き込みが学内ネットワークの掲示板に書き込まれていたそうだ。

「正直、イタズラ目的だと思ってたけど念のため、目につきそうな所に風紀委員を配置して備えていたんだよ」

「それで爆発が起きたら直ぐに現場に駆け付けられたのか」

「お互い連絡は取り合っていたし、学内を見渡せるように屋上にも配置していたんでね」

 万全の準備をしていたのだと、全員が理解した。

「つまり、イタズラ目的で犯行を予告したのではない正真正銘の予告爆破事件であり、連続して起こる可能性も高い可能性も有りえるという事ですよ」

「うわぁ~、理事長の胃に穴が空きそうな事になりそうね」

「胃薬、もっといいの準備しなきゃいけませんね」

 凪と紫桜の言葉に慶達は苦笑いをするしかなかった。 

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