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第2部6話

「いい加減にしろ。全員揃って何を考えてるんだ!」

 現場に現れた京極紫桜が、「理事長が呼んでる」と言うので、全員が理事長室に入ると、京極由乃からいきなり怒鳴られた。

 いきなりの事で、肩を震わせる生徒会長や風紀委員長達に対して、浩明はどこ吹く風の素っ気ない態度だ。もとより、呼び出された時点で予想の付いた事だ。

「赤松、先日の事件で、星野を疑った事でどうなったのか忘れたのか!」

 先日の事件を引き合いに出され、赤松は俯き拳を握り、悔しさを滲ませる。。

「生徒会役員に横領の冤罪にまでかけられる事態に発展したんだぞ!」

 それを解決させたのが、疑われていた浩明なのだから反論のしようがない。返す言葉もなく、赤松は黙り込む。

「大谷、お前は現場に何しに行くつもりだったんだ?」

 赤松に言うべき事を言い終えると、次に慶に矛先を向ける。

「事態の収拾に行くつもりでした」

「その仕事は風紀委員の仕事であって、生徒会長がやる仕事ではないだろうが」

「すいません……」

 軽はずみの行動に、素直に頭を下げる。

「それで……」

 総一郎に視線を向ける。

「天統、なんで大谷に付いていった」

「掲示板の書き込みに、現場に浩明がいるという情報が出ていたので、万が一の事態を考えて付いていきました」

「あの場で万が一の事態なんて、星野とお前達が顔を合わす以上の最悪の事態があるか?」

「私も、そう言って止めたんですけど、「弟に何かあったら会長でも許さない」って言ってきて……」

 止められなかった事を悔やむ慶の言葉に総一郎は頭を俯かせる。

「お前達なぁ、兄弟喧嘩は」

「私の兄は英二兄さん一人だけですよ」

 由乃を遮るように浩明が否定する。

「あぁ、そうだったな」

 事情を知っている由乃は、にべもなく答える。

「浩明、何を言ってるんだ。俺と浩明は血が繋がった……」

「法的にも戸籍上も、天統家には男女一人ずつしか子供は居ませんよ」

 天統家では、星野英二が浩明を引き取った後、浩明の存在を戸籍上から抹消した。曰く、浩明の存在は天統家の名を汚すらしく、当時は居なくなった事を嬉々として喜んでいたそうだ。後々、それを聞いた性格破綻後の浩明は、

「外の世界を知った今、天統家に籍が有った事が恥にしかならない」

 そう笑って言ってのけたそうだ。

「校長先生、取り敢えず救急車を呼んでも構いませんか。末期の妄想癖患者二人を軟禁してくれって」

「待て浩明!」

 携帯端末を取り出し、本当に百十九番通報をしかねない浩明を総一郎が慌てて止める。

「星野、天統兄、ちょっと冷静になれ。天統妹、兄を止めろ……って天統妹の姿がないが何処に行ったんだ?」

 平静を取り戻して、その場に集まった全員を改めて見回すと、雅の姿が無い事に気付く。

「御令嬢殿でしたら、今頃、何処かで腹を抱えて笑い転げてるんじゃないですか。あの場であそこまで私を悪人に仕立てて、同情を買っていたんですから」

「浩明、どうやったらそんな考えが起こせるんだ。雅はお前の事を」

「分かった。つまり星野を怒らせて居なくなった訳だな」

 泥沼に陥る寸前で由乃が、呆れるようにそう結論付けた。

「星野、毎回、毎回、好戦的に応じる性格はなんとかならないのか。毎回病院送りされては保護者への説明が大変なんだぞ」

「でしたら、私が同席しましょうか」

「そんな事出来るか!」

 保護者会に当事者を同席させる?

 それこそ非難の吊し上げだ。

「むしろ、保護者会を崩壊させそうよね」

「君ね、私にそんな大それた事出来ませんよ。出来ても「うちの子は悪くない」と支離滅裂に喚く姿をこっそり動画におさめて、英二兄さんの知り合いに頼み、翌日の全国ニュースで放送してもらうくらいですよ」

 人生崩壊させる気かよ。

 凪の言葉に返した言葉に、言葉を失う。この男なら本気でやりかねない、むしろやる。その兄である星野英二も同様にやるだろう。

 その姿に、反省の色無し(そもそも、反省しなければならない事をしていない)と見なして、「だから、そうじゃなくて」と言ったところで「あたたた」と呻きら椅子にへたりこんだ。

「ね、姉さん、薬、薬ですよ!」

 慌てて紫桜が速効性の錠剤タイプの胃薬と水を差し出す。

 由乃はそれを飲むと、

「紫桜、すまないな」

 腹部を押さえながら、コップを紫桜に返した。

「大丈夫ですか。見たところ、ストレス性の胃痛のようですが」

「君達、特に君と灯明寺がもう少し、いや、かなり平穏な学生生活を送ってくれれば、落ち着くんだがね」

 浩明の労いの言葉に、由乃が批判の言葉と眼差しで返す。

「姉さ……、理事長、先日の事件の後、保護者会や教育委員会への応対でストレスが溜まってるんですよ。なんでそんな教師を採用したんだって」

 言いづらそうに、一瞬、視線を逸らしてから続ける。

「そこに来て今度は爆発事故って、勘弁してほしいだがね」

「それはお気の毒です」

 素っ気なく答えると、由乃も気にする事なく「それで、だ……」と、切り出した。

「風紀委員と生徒会は、今後どうするつもりだ?」

「勿論、原因究明に乗り出しますよ」

「生徒会としても同じく、風紀委員と協力して努めるつもりです」

 赤松に、慶が同意すると、由乃は「そうか、分かった」と頷いてから、浩明と凪に視線をむける。

「星野と灯明寺はどうするつもりだ?」

「どうするつもりとは?」

 質問に浩明は質問で返すと、由乃は僅かに眉をひそめるが、すぐに元の表情に戻した。

「お前達の事だ。勝手な事をするなと言っても、この一件に首を突っ込むんだろ」

「生徒会と風紀委員のやる事に首を突っ込むつもりは有りませんよ」

「そうか分かった。赤松、大谷、今回の調査に星野と灯明寺を入れろ」

「はい?」

 普段、あまり動揺しない浩明でも、表情には出さないが驚き、聞き返した。

 浩明ですらそうなのだから、他の学生達は声をあげた。

「校長先生、どういうつもりですか!?」

 由乃に掴みかからない勢いで身を乗り出したのは赤松だ。余りにも考えられない提案だ。当然の言葉だろう。

「前回の実績を踏まえてだ。文句はないだろ」

「問題を起こしそうな者同士を一ヶ所に集めただけなんじゃない?」

「まぁ、それもある。どうせ起こるのだから一ヶ所で起こしてもらおうじゃないか」

 批判と嫌味を込めて凪が聞くと、否定する事なく答える。

 あるのかよ、と誰もが思ったが言葉に出さないのは自覚があるからだろう。

「兎に角、これは決定事項だ。紫桜、監視役として皆と一緒に行動。何かあったら私に報告しろ。いいな?」

「は、はい……」

 有無を言わさぬ口調に、哀れ紫桜は首を何度も振って頷く。しかし、

「理事長」

 未だ納得のいかない赤松が反論しようとしたが、「頼むからこれ以上、頭痛の種を増やすな」

 必死の、否、切羽詰まった頼みに赤松は先の言葉を出す勇気は持ち合わせてはいなかった。

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