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第2部3話

 熱風が肌に刺さる。熱めのシャワーのように肌に当たるような心地好い感じではなく、チクリチクリと細い針が刺さるような感覚だ。その感覚が炎の威力がいかに凄まじいのかをまざまざと理解させてくる。

 浩明の隣に立っていた凪は、熱さに顔を歪ませ、無意味と分かりながらも、熱風から守るように手で顔を隠した。

 今の自分の行動を思い出すなら、まさしく咄嗟に動いていたと言う言葉がぴったりと当てはまる。

 「防壁を張る」と、赤松がコンバーターを構えた瞬間、自分の腕を掴んでいた浩明がその手を離し、前に、旧校舎へと向かい駆け出していた。

「ちょ、ちょっと…」

 呆気に取られたのは一瞬、すぐさま意を決して後を追い掛けていた。それと同時にコンバーターに手を添えて、起動構築を始める。

 前に向かって走り出した浩明の意図は想像がつく。短い付き合いとはいえ、星野浩明の人となりは分かるつもりだ。だからこそ、何をするつもりなのか、自分の予想が当たっていれば、自分の力が必ず必要になる。

 だからこそ、最前列の先、人だかりから抜けた先、防壁の向こう側に立っている相棒の横に凪は並ぶように立っていた。




「あっついわねぇ、日焼け止め持ってくれば良かったかしら」

「君、どうしてここに?」

 横で見当外れな事を言ってる凪を浩明は呆れたように見ると、凪は人差し指を唇に当てて、見るものを受けるさせる満面の笑顔で答える。

「う~ん、今、星野がここにいる理由と同じ……かな?」

 しかし、直ぐに腕を組むと、その笑みを目を細めて意図を探るような笑みに変わる。

「で、防壁のこちら側に来た星野君は何するつもりかしら?」

「そうですねぇ……」と、こめかみを指で軽く突きつつ、旧校舎を見ながら考え込む。

「例えば、この大火災を鎮火させちゃう……とか?」

 先程の笑顔のまま、人差し指を立てて提案する。

「それはまた、人に見られるのは勘弁してほしいんだけどねえ」

「大丈夫、私、認識阻害魔法、得意だから」

 浩明の秘密主義を汲んで、視界を遮る提案を先出しする。

「ちなみに、起動構築は完了済み、後は発動するだけよ」

「準備がいいですねえ」

「そりゃ、私は星野君の相棒ですから」

 得意気に腕を組むと、浩明は凪の頭を軽く撫でる。

「さてと、馬鹿話もこの位にして、そろそろ動きますか」

「動くって消火活動?」

 浩明の雰囲気が変わったのを感じて、凪も切り替える。

「三度目の爆発が起こるか分からない今、ここも安全とは言えないし、何より証拠が消されるのは困りますからねえ」

 凪が「証拠?」と聞くよりも前に、三度目の爆発が鳴り響いた。

「へっ、ちょっとちょっと!?」

 爆発の衝撃で吹き飛んできた瓦礫、それも人間一人分の大きさをゆうに越える大きさのそれに凪が慌てて声をあげるが、その直後に自分の身体に衝撃が掛かると同時に、視界が反転した。

「な、な、何よこれ!?」

 凪が困惑するのも当然だ。浩明は凪を左手一本で抱えて、高く跳躍していたのだから。見上げていた筈の旧校舎を見下ろす形になる。

 防壁によって声が遮断されているから聞こえてこないが、向こう側で見ていた学生達からは小さな歓声が起きてるだろう。所謂、お姫様抱っこで、浩明の腕のなかに収まった凪は、自分がどういう状態にあるかを漸く理解すると、顔を真っ赤にさせて抗議の言葉をぶつけてくるが、それを、この後の段取りを切り出す事で切り捨てる。

「灯明寺、認識阻害魔法、いけるか?」

「え、えぇ、大丈夫よ」

 浩明の切り替えのはやさに付いていけるのは相棒として自覚か、凪も頭を切り替え、視線を旧校舎に向けて答える。

「視界を防いだ後、私が広域型の空間魔法で火を吹き飛ばすから、しっかり掴まっていてくれ」

「吹き飛ばす?」

 「消す」という表現ではなく「吹き飛ばす」

 違和感のある説明に聞き返すが、「見れば分かる」と返して、凪に発動を促す。

「了解」と答えると、凪は浩明の首に腕をまわした。二人の身体がより密着する体勢、首の後ろでコンバーターに手を重ねると、起動トリガーを発する。

 認識阻害魔法による風景との同化、その場にいる筈なのに、視覚で捉える事の出来ない事に、防壁の向こう側で、赤松が目を白黒させているのが振り向くと見える。

「星野、早く済ませてね」

 持続式の魔法は術者の魔力粒子を消費させる事で持続させる。凪の負担を思んばかって「分かった」と答えると、浩明は、抱き抱えてる左腕に力を込めて凪をより自身に密着させる。

「え、ちょっと!?」

「巻き込まれないようにしっかりとくっついてくださいね」

 自分の鼓動が相手に聞こえても可笑しくない近さ、それを誤魔化すように、顔を真っ赤にさせて体裁を繕うとする凪に忠告すると、浩明は空いている右手を炎に上げる旧校舎にかざす。




「ちょっと、何を……」

 「するつもりよ?」と続け掛けて、前方に引っ張られる感覚に凪の口が止まる。

 浩明に向けていた視線を、その右手に向けるとそこに形成去れていたのは透明な球体。シャボン玉を思わせるそれに、自分は引き寄せられているようだ。

 収束魔法?

 ならば何を集めている?

 凪のなかで次々と疑問符が浮かんでいく。

 そのままの大きさを保つそれを見ていると、木の葉がかさりと音を鳴らし始める。

 風?

 周りを見渡すと木々が自分達の方に向かってしなっている。芝生や所々から生えてる芝生もその葉の向きを自分達に向けている。

 確か浩明は火を「吹き飛ばす」と言っていた。

 「消す」ではなく「吹き飛ばす」。

 その違和感に首を傾げながら、今起こっている現象を見直す。

 集めているのは風……大気?

 それを集めて収束させて圧縮……

 目の前で浩明が起こしている現象、そして「吹き飛ばす」と言った意味が凪の頭のなかで噛み合った瞬間、凪は密着させていた身体をより密着させるように、絶対に離れないように浩明の首に回していた腕に力を入れた。

 その選択は間違ってなかった。数分後に訪れた一瞬の静寂の後、浩明が形成した球状のそれを炎に向けて、振り上げた拳で割った事により生まれた暴風によって。

 風が収まったそこにあったのは、地面から抜けるように斜めになった樹木、その中心には暴風により炎が吹き飛ばされ、僅かに煙を上げているだけの旧校舎の姿だった。



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