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第2部2話

「うわ、何これ、何処の組織のテロよ」

 轟々と立ち昇る爆炎。肌に突き刺さるように届く熱風。衝撃で飛び散ったコンクリートを前に駆け付けた学生達による人だかりが出来はじめている。

 それを前にして、駆け付けた凪が思わずそう漏らしても可笑しくはない。

「嘘でしょ、何よこれ……」

 浩明達の側にいた女子生徒からも、校舎に穴が出来ている事に呆然としている。

「危ないから離れて」

 そこを抜けるように走っていった男子生徒と数人が野次馬を押し退けて前に出て、下がるよう促す声が聞こえてくる。

「あれ、風紀委員長。もう来たんだ」

「風紀委員長……、そういえば新しい人が就任したんでしたかね」

「そうそう、頑張ってるみたいよ。逆風かなりキツいみたいだけど」

「おい、君達も……げっ、ほ、星野!?」

「うわ、すっごい嫌われよう」

 注意した相手が浩明だと分かった途端、注意していた風紀委員長、赤松憲正あかまつ のりまさの露骨な嫌悪感丸出しの言葉に反応したのは、浩明ではなく凪だった。

「それに灯明寺……」

「どうやら、君も同様に嫌われてるみたいですよ」

 続けて凪に向けられた言葉に反応したのは浩明だ。ふと、後方に目を向けると、風紀委員長の指示で現場から離れるよう誘導をしていた風紀委員達が悪意のこもった目付きで浩明と凪を睨んでいた。

 彼等が二人に嫌悪感を抱くのも当然だ。

 学内での揉め事専門の風紀委員会であるが、橘明美の退学後、副委員長だった赤松が委員長に昇格する形で就任し、指揮を取っているものの、思うようにいっていないようだ。

 先日発生した横領事件で共犯だった橘明美が委員長を務めていた事で、風紀委員会の信用は一気に下がった。

 行ったのが彼女だけだったとはいえ、就任当時、一枚岩にまとめあげていた彼女の手腕が本物だった事もあり、実は風紀委員会ぐるみで行っていたのではという疑念もわき、問題が起きても呼ばれない。駆け付けても「風紀委員にだけは言われたくない」と吐き捨てられているそうだ。

 巻き込まれた浩明を恨むのはお門違いといえども、「恨むな」と言われて素直に従う事は出来ないだろう。

 最も、彼だけではない。

 生徒会役員達に向けられた冤罪を晴らし、真実を明らかにし、真相究明に勤め事件解決の最大の功労者である浩明と凪であるが、学内での二人に対する風当たりはかなり悪い。

 前例のない教師による横領事件の後、主犯の橘と、共犯者だった橘明美、小早川秀俊は揃って学校を去る事となった。それも、懲戒解雇と退学処分という厳罰な処分がくだされた。それと共に横領事件については学校内でも話題に挙げるのは禁句となった。

 表立って禁止と言われているわけではないが、自ら学校の不祥事を取り上げるべきではないという不文律、そして一番の理由は、この事件を解決させたのが、散々見下し、落ちこぼれと揶揄して疑いを向けた普通科の魔術師、星野浩明の存在だろう。

 当初、疑いを掛けられた浩明は、天統総一郎達の取り巻き達からの襲撃を受けて、その全てを反撃する気力すら失わせる程の報復行為で応対した。返り討ちにあった学生はかなりの人数にのぼる。そのなかには、自信と心を砕かれ退学した人間も何人かいた。

 それこそ、物理的、精神的の両方から応対、再起不能にしたうえで「先にやったのは向こうです」と、正当防衛を主張して被害者を演じた。それが否定出来ないだけに教師も「やり過ぎだ」と注意しか出来ず、処遇も殆どお咎め無しの厳重注意にとどまった。当然、反発する学生もいたが、結城康秀との一件で、浩明との間にある圧倒的な実力差を見せつけられ、手を出せば確実に返り討ちのうえに加害者扱いでと処罰、腹のなかに百戦錬磨の狸と虎を同時に飼っている相手に喧嘩を売れる事の出来ない現実に、呪詛の念を送る事しか出来ない状態だ。

「何をしに来たんだ!」

「ただの野次馬ですよ」

「だったら下がれ。ここに居られたら何されるか分からないからな」

「何その問題起こすの前提の言い方」

 手を払って立ち去るよう促す振る舞いに凪が噛み付くが、浩明がそれを止める。

「そこの風紀委員長さんは、信用回復の上手くいかない八つ当たりをしてるだけなんですから、素直に従う振りして、腹の中で小者振りを笑っておけばいいんですよ」

「何だと!?」

 睨み付けて来る赤松に、「おぉ、怖い怖い」とわざとらしく距離を取ると、浩明は凪の腕を掴んで隣に抱き寄せる。

「学内の風紀を取り締まる筈の人間がまさかの犯罪者、その事に気付かず従っていた間抜けな自分自身、責任を持って立て直そうにも上手くいかない現実、八つ当たりをするのでしたらそこの壁でも殴って腫れない憂さでも紛らわしてれば頂けませんかね」

「……ぐっ…!」

 赤松が低い呻き声を挙げて歯噛みする。

 頭では理解している。浩明と凪の二人はただ罪を暴いただけ。自分が文句を言う資格が無いのも分かっている。逆に自分達が糾弾されても可笑しくない。

「それでは、邪魔者は退散しますので、頑張ってくださいね」

「おい待て」

 何か言おうとしているが、言いたい事だけは言ったので無視、後は退散だ。 

 しかし、次の瞬間に起こった轟音に直ぐ様、振り向き直すと、先ほどとは比べ物にならない高さの爆炎が空を焦がすかの勢いで火柱を立てていた。

「全員、はやくここから逃げるんだ!」

 赤松の避難を促すが、二度目の爆発による衝撃を受けてを見て、咄嗟に動ける人間は、その場に半数程しかいなかった。むしろ、冷静に動ける人間がそれだけ居れた事の方が感嘆に値するだろう。日常では滅多に見る事のない光景に呆然としている半数の方がむしろ正常というべきか判断に困る事態だ。

 「クソッ」と、毒付きながら赤松はコンバーターに手を添える。

 このままでは、避難どころの話で済まない。

 選択肢は二つ、瓦礫による二次災害を防ぐための防壁を張るか、根本である火災の鎮火。

 自信の実力を考えれば、選択肢は自ずと絞られた。

「お前達、防壁を張るから、その間に避難誘導を済ませろ」

 他の風紀委員に指示を飛ばすと起動構築を始める。

 時間を稼げればいいとはいえ、簡単に破られては困る。魔力粒子をありったけ変換させる。

「術式……起動」

 広範囲に高密度の防壁魔法。細かい瓦礫程度では破られる事のないだろう防壁が旧校舎と、学生達との間に展開された。

「よし、これで……」

 周りを見回すと、一瞬、呆気に取られていた生徒が何人かいたが、直ぐ様、持ち直して避難を始めた。しかし、些細な違和感にとらわれた。先程まで毒付いていた浩明と凪の姿がなかったからだ。爆発の直後に避難したかと、意識の隅に追いやり、旧校舎に視線を向けて言葉を失った。

 防壁の向こう側、何故か校舎側に並んで立っている二人の姿によって……


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