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難産でしたがようやく三話目です

我ながらかなりひねくれ者になっちゃいました

 「食堂では普通科の学生は食事をしてはいけない」という暗黙の了解があって、座る場所も各派閥で決まっているらしい。

「らしい」というのも、それを知ったのが、食堂で注文した日替わり定食(今日は豚の生姜焼き定食)を受け取り、空いていた席に座り、生姜焼きを食べ始めてからである。

 ちなみに、それをクセのありそうな魔術専攻科の男子学生の先輩二人に絶賛、教えてもらっている(因縁つけられて絡まれている)最中である。

「おい、聞いてんのかよ!」

「そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ」

 生姜焼きを口に運びながら目の前の男その1(仮名)に言い返した。こういう連中には言わせるだけ言わせて正論で返し、さっさと退散するに限る。

「食堂は普通科使用禁止って知らないのかよ」

 ―成る程、どうりで注目を浴びてたわけだ。

 数日、野次馬に見られてばかりだったからその類だと勘違いしていたのを改める。

 「それは知りませんでしたねぇ。でしたら『普通科使用禁止』って看板でも置いといていただけませんか」

 それを証拠写真にして教育委員会に訴えようと画策する。「天下の青海高校では、魔術専攻科の学生が一致団結して弱い者(普通科)いじめしてます」と。学園側のもみ消しがバレてマスコミにどう叩かれるか見ものな展開だ。

「それに、この席は生徒会の役員しか座ることが許されてねぇんだよ」

「でしたら『予約席』とでも書いといたら良かったのではないですか?」

 しかし、目の前の二人は、浩明の返しにたじろぐ事なく続けてきた怒気交じりの言い分を聞き流し、味噌汁を飲み干してからトレイに戻した。

 ―この味噌汁、化学調味料じゃなくてちゃんと昆布出汁を取ってますね

 大人数をさばく学生食堂には珍しい

「おい、話を聞いてんのかよ!!」

「分かりました、残りを食べて退散しますので?」

 ―熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに……そんなのも分からないのか? 料理の基本だろう……

 それに残っているのは生姜焼きがあとひと切れ、その位は待っててくれれば、さっさと退散するというのに

「テメェ……、ふざけてんのか!?」

 どうやら、待ってくれる気は全くないらしい。

「ふざけてるつもりはないよ。相手するつもりもないだけですから」

 思わずそう漏らすと同時にテーブルが砕け散った。

 事の成り行きを見ていたギャラリーから短い悲鳴が聞こえてきたが、浩明は気にする事なく

「あれ、いいのかい、こんな事して?」

 とっさに掴んでいた残っていた生姜焼きの皿から、残っていたひと切れを口に放り込むと、椅子から立ち上がり

「この席は『生徒会専用』と言ってませんでしたか?」

 浩明の言葉に、自分のした事にはっとして表情が凍り付いき、顔色も真っ青に変わっていった。

「では先輩、私はご希望通り退散しますから、さっさと御主人様に尻尾を振りに行ってきた方がよろしいのではありませんか?

テーブルを壊した事、許してもらえませんか……とね?」

「き……貴様あぁぁ!」

 薄く笑みを浮かれて、手に掴んでいた皿を返却スペースに置きに行こうとしていた浩明の胸倉を掴んできた。

 ―ちょっとからかい過ぎたか

 周囲から沸き起こる悲鳴を尻目に、そんな事を考えていると

「あなた達、何をしているのですか!!」

 凛とした声が食堂中に響き渡った。




その少女が食堂に入ってくると、ギャラリーから「雅様……」「雅様よ……」という声がちらほらと聞こえてきた。そして、絡んできた男二人もその少女の姿を見た途端、みるみるうちに顔が青ざめていった。どうやら、見られたくない人間に見られたくない場面を見られたようだった。

 「雅様」と呼ばれた女子生徒は周囲を見渡してから、「これは一体、何の騒ぎです……か」と言いかけた所で、胸倉を掴まれている浩明と目があった途端に、表情が変わった。

 ―この子、どっかで……あぁ、転校初日に校門の前にいた……まぁ、いいか

「あぁ、君、生徒会の人?」

 思い出すのを止めて、本題に入る為に掴まれていた腕を外してから声を掛けると、

「え、えぇ……それが何か?」

 彼女は混乱していたのを取り繕ったように答えた。

「馬鹿な犬ほどかわいいのかもしれませんが、もう少し躾のほうをちゃんとされたほうがいいですよ? 飼い主も馬鹿に見られますからねえ」

「何ですって!?」

 皮肉と嫌みをこれでもかと盛り込んだ言葉に、彼女は表情を強ばらせた。

「最も、公共の場に『生徒会専用席』なんてモノを設けてる役員の方々には馬の耳に念仏かも知れませんがねぇ」

「ちょっと、どういう事か説明しなさい」

 言いたい事だけ言って去るつもりだったが、どうやら彼女の煽り耐性と怒りの沸点は相当低かったようだ。

「生徒会役員はあそこの席を「生徒会専用席」と称して、「円卓の騎士もどき」をしていると聞いたものですからねぇ」

「……例えが分かり辛いけど、生徒会がそんな権威を振りかざすような事をすると思ってるの?」

「知りませんよ。生憎と、最近、転校してきたものですから」

「そ、そう、あなたが? だったら教えてあげるわ。生徒会にそんな馬鹿げた事を行う役員はいないわよ」

 瓢げたように答えた浩明に、少女は凜と胸を張って答えた。

「あぁ……、つまりはあれですか。そこの先輩方は『虎の威を借る狐』……いや狐以下の寄生虫ってところですか?」

「なっ!?」

 ―どうやら軽蔑に値する人間と話してたようだ

 さっきまでの青ざめていた二人の顔が、怒気の篭もっり真っ赤に変わっていくのを軽蔑の眼差しで一目見てから浩明は背を向けた。

「それでは、後の事は頼みましたよ。ここにいる方々は弱い者イジメを見せ物としか見れない軽蔑に値する人種のようですからね」

 途端に背後から殺気と侮蔑の視線を感じたが、大して気にせず無視を決め込んだ。

「あ、そうそう」

思い出したように、出口で立ち止まり、顔だけ少女に向けた。

「そこの寄生虫二匹、壊したテーブルはちゃんと分解して肥料に変えとくべきですよ。寄生虫なんだからその位は出来るでしょ?」

「テメェ!」

 最後の一言が引き金となって、二人組の一人がコンバーターを起動させた。

 ―どうよら、こちらも沸点が低すぎたか

 食堂に再び緊張が張りつめた。

 誰もが普通科の浩明が魔術師を挑発する、というある意味、自業自得とはいえ最悪の事態を想定した。

 しかし、それは杞憂に終わった。

 何故なら

「これ、正当防衛ですからね」

 男その1が発動させる前に、浩明が投げた醤油差しが男の顔面、それも鼻骨に直撃していたからだ。

「敵の真ん前で、余裕を振りかまして詠唱しようなんて馬鹿丸出しですねえ」

 魔術師の魔法発動はコンバーターによる魔力粒子の変換と詠唱、そのプロセスはほん数秒であるが、裏を返せばその数秒は魔術師が無防備になる魔術師にとって命懸けの数秒になる。

 自分より劣っていると思い込んでいる浩明に対して、男その1に油断があったのは当然といえば当然であり、浩明がそこに付け入らないわけがなかった。

「あなた、何てことを!?」

「生憎、わざと痛い目にあいにいくようなドM体質の持ち主じゃないんで」

 少女の追求もどこ吹く風、肩を竦めて返した。

「どうもありがとう。わざわざ的になってくれて」

「この野郎!」

「やめたほうがいいですよ、今度は鼻血だけじゃ済みませんよ」

 鼻血を抑えてしゃがみ込んでいる男その1が更に抵抗しようするのを、やんわりと制して、その場を去ろうと背を向けた。

 しかし

「だったら見せてもらおうじゃねぇか!」

 目の前で友人をやられた男その2が、コンバーターを発動させた。

「『やめとけ』と言いいましたが。人を見た目で判断すると痛い目見ますよ」

「うるせぇ!」

 頭に血がのぼりきって浩明の声が耳に入っていない男その2は術式の構築プロセスを完了させていた。

「どうやら痛い目にあってみなければ分かんないみたいですね」

「待ちなさ……」

 少女が止めるのを無視して、浩明は今椅子を男その2の顔目掛けて投げつけた。

「ハッ! そんなのが効くかよ!!」

 男その2の発動した魔法は炎へと変わり、椅子を消し炭へと変えた。

「分かってますよ。だって、それ目眩ましですから」

「なっ!!」

 ―次の魔法発動ににかかる時間は十数秒。それで十分

 一歩、二歩、一気に距離を詰め、三歩目で、左足に炎を纏わせ、その勢いのまま跳躍した。そして、男その2の鳩尾に目掛けて一撃を入れた。





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