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 現役教師による学校予算の横領、その実行犯が教え子だったという前代未聞の事件は、その顛末もあいまって学校には連日、報道陣が詰めかけ、紙面を騒がす事態となった。通報の際に保険として提出したボイスレコーダーの内容がマスメディアに流された事、そして高校側が箝口令を敷く前に新聞部が真相を号外として学内ネットワークを通じて配信した事が大きな理由であったが、何より学生に衝撃を与えたのは、絵里がその号外の後、配信した連行される橘達の姿だろう。

 意識を失い担架で運ばれて行った小早川と明美の二人とは違い、警察官に両腕を抱えられていく姿に、学生達は息を飲んだ。虚ろに項垂れ、自力で歩けないのか引き摺られるように連れられ、その両目に光は宿っておらず、何かを呟いているのか、口を動かしている姿、それはまさしく廃人のそれであり、自分の快楽の為に罪を犯した犯罪者と言われてもすぐには信じれないだろう。

 この一部始終を配信したのは、浩明ではなく、意外な事に絵里の独断であった。

 後は煮るなり焼くなりどうぞ、役目を終えた浩明が渡した証拠のコピーをもとに、絵里は警察が到着するまでの僅か十数分で、記事を書き上げて配信するという荒業をやってのけた。

「これが、私なりの報復よ」

 脅されていたとはいえ、忘れたいであろう、浩明の古傷を掘り起こし、多くの人間を巻き込む事となった事に対し、真実を報道する。絵里なりの橘達に対する復讐とケジメの付け方に後悔はないそうだ。

 連行された橘であるが、取調室で虚ろに「ごめんなさい」、「こんなつもりじゃなかったんだ」と、自責の念にかられた言葉を繰り返して、取り調べが難航しているそうだ。



「……だ、そうよ」

 別々に事情聴取を終えて、合流と報告を兼ねて入った喫茶店で、二人は向かい合って席に着いていた。

 遅れて合流した凪はメニューと数分間の格闘の後、季節限定の苺のタルトとアイスティーのセットの注文を済ませると、来るまでの間に事情聴取で得た情報を、旬のシフォンケーキとまだ湯気を立てている無糖の珈琲を前に、携帯端末に視線を向けたままの浩明に報告した。

 本来なら、帰宅後に報告しあえばいいのだが、喫茶店を選んだのには、もうひとつ、生徒会からの呼び出しを受けたというのも有るからだ。その為、平日の昼下がりに制服姿で喫茶店にいる二人は、店員と昼下がりを満喫している客からは怪訝な目で見られたが、気にする事無く喫茶店独特の落ち着いた雰囲気を満喫していた。

「そっちはどうだったの?」

 報告を終えると、アイスティーを一口飲んで喉を潤す。ずっと話続けだったので喉が渇いていたのだ。聞き返された浩明は携帯端末をポケットにしまうと珈琲を一口付けた。

「こっちは殆んど説教でしたよ。やり過ぎだってな」

 それだけで凪は「あぁ~」と納得してしまう。

 今回の事件、結果的に浩明は、何人もの学生を病院送りにする事となったが、その全てに浩明はやむを得ず応戦という形で応じた。しかも、本来、無関係だったものを巻き込まれた形での正当防衛だから事件沙汰にも出来ず(これ騒いで恥の上塗りという真似は流石に止められた)、厳重注意を頂くだけというやった事に対して軽い処分で済んだ。

「でも、意外ね。アンタなら警察に突き出す前に自分でケリ着けると思ったわよ」

「私は人を裁けるほど偉くも、ましてや神でも有りませんよ」

 シフォンケーキをフォークで一口分切ると口に入れて区切るってから「それに…」と切り出した。

「連日、それも大々的に名前付きで報道されてれば、例え出所しても社会的には潰したも同然、あの二人も犯罪者という肩書きに耐えれるとは思えないからね」

「わぁお、厳しい~」

 後は勝手に自滅するだろうから手を出す必要がない、切り捨てた行為に苦笑を漏らす。若気の至りとはいえ二人は取り返しのつかない事をしてしまったのだ。厳しくもなるだろう。

「ところで、待ち合わせの時間はいつでしたかね」

「待ち合わせ……、あぁ、生徒会からの呼び出しね」

 携帯端末を取り出し、時間を確認する。

「まだ時間はあるわ。少し落ち着いてから行きましょ」

「そうですねえ、嫌な事はさっさと終わらせますか。編入試験の準備もありますし」

「そ、そうね……」

浩明は答えると改めてシフォンケーキにフォークを伸ばし、凪もそれに従うように自分のタルトにフォークを付けた。



「なんてこった……」

 凪は思わず天を仰いだ。

 生徒会室に入った二人を迎えたのは、大谷慶と同席していた京極紫桜、そこまでは良かった。良かったと言っても語弊はあるが、浩明と凪の目的を考えれば、少なくともこの場にいても可笑しくはない。問題はこの場に浩明が最も関わり合いたくない人間、天統総一郎と結城このみがいた事だろう。

「なんで天統先輩達がここにいんのよ?」

 凪の問いは間違いなく浩明も同様に浮かべた言葉。実際、「生徒会役員だから」と言われればそこまでだが、申し訳無さげに慶が浩明と総一郎とこのみを交互に見ているのを見れば招かれざる客がどちらかなのは一目瞭然だ。まさしく火に油だ。せっかく喫茶店で過ごした穏やかな時間を返して欲しい。

「ごめんなさい。どうしても星野君と話がしたいっていわれて」

「いやいや、会長さんが気にする事では有りませんよ。悪いのは常識知らずの馬鹿二人ですから」

 止められなかった自分の責任に頭を下げようとする慶を制して、矛先を総一郎達に向ける。

「さすがは天統家次期御当主殿。己が欲望を権力で押し通す術をようく心得ておられる」

「ひ、浩明君、私達はただお話がしたかっただけなんだよ!」

「話って、今更何が言いたいと言うのでしょうかねえ」

 毒付いた言葉が引鉄となり、総一郎は浩明の前で床に膝を付き、頭を下げる。

「浩明、すまなかった」

 所謂、土下座の姿勢で浩明に謝罪の言葉を必死の形相で許しを乞う。天統家の人間が見たら卒倒しそうな光景だ。

 しかして、その心が浩明に届くわけがない。浩明と天統家との関係はもう終わっているのだから。

「御当主殿、落ちこぼれの私に頭なんか下げて、どうされたのですか」

「今回の事、本当にすまなかった。お前を疑っていたのに、浩明は俺達みんなの事を助けてくれた。なんと礼を言ったらいいか」

「御当主殿、貴方は何か勘違いをされておりませんか」

 涙ながらに捻り出すように出てきた謝罪の言葉を、浩明はやれやれと肩を竦める。

「ちょっと浩明君、その言い方はないんじゃないの」

「結城の御長男へのやむをえない応戦により、私と灯明寺は停学処分を受けていたのですよ。そのまま退学などとなれば人生を潰しかねない事態。私は真実を明らかにする事で私自身と灯明寺を名誉を守っただけですよ」

 全ては自分達の為、礼を言われる筋合いは無い。浩明の他人スタンスは総一郎とこのみの心に重くのしかかる。

「会長、約束の推薦状、早く貰えませんか」

 これ以上は関わるつもりはないと、慶の方へ用件を切り出す。

「その件なんだけど……」

 申し訳なさげに紫桜に視線を向ける。

「実は理事長が直接会って話がしたいって言ってまして、お二人が来られたら連れてくるようにって言われてるんですよ」

「成程、そう言う事ですか」

 殆ど面識のない彼女がここにいるのか納得する。

「じゃあ、早速行きましょ。星野も早くここから出たいだろうし」

 土下座したままの総一郎と、どうしていいか傍らに立ち尽くしたままのこのみを一瞥してから凪は二人に提案する。

 その瞬間に、総一郎に睨まれるが無視する。彼女としても、これ以上浩明を刺激してもらうのは勘弁してもらいたい。後で浩明を宥めるのは自分の役割なのだ。形振り構っていられない。

「そ、そうね。行きましょ」と、慶と紫桜も席を立ち、先頭で出ようとする浩明に続く。彼女達にも、非が総一郎達に有る事が分かっているからだ。

「浩明、待ってくれ」

すがり付こうとする総一郎とこのみに振り向く事なく、決別の言葉を浴びせる。

「御当主殿、覆水は冷たい程に盆には返らないものですよ」

 許して貰えるのでは、という微かな希望が潰えた事に咽を漏らして泣き崩れる総一郎と、呆然とへたり込むこのみに誰も声を掛ける事なく、凪達も生徒会室を出た。



 校長室に入った四人を、理事長である京極由乃(よしの)は満面の笑みで迎えた。

「いや、よく来てくれた。まぁ、座ってくれ。立ち話もなんだしな」

 誘われるままに、ソファに座った浩明と凪と向かい合うように慶と紫桜、上座に由乃も座り、一呼吸おいて切り出した。

「今回の事だが、まずは謝らせてくれ。本来なら、理事長である私の問題に、学生である君達を巻き込んでしまいすまなかった」

 平身低頭、その言葉が当てはまる程に由乃は四人を前に低く頭を下げた。

「正直、私には人を見る目が無いと痛感させられたよ。教師としてあるまじき事だ」

「理事長、私も灯明寺も、弁明の言葉が聞きたくてここに来た訳ではないのですが」

 浩明の言葉に、由乃は「そうだったな」と、言葉を止めて、姿勢を正した。謝罪会見が何度も報道されていたので、同じ言葉は耳についていたのだ。

「今回の件で君達は、私からの推薦状と引き替えに事件の解決に取り組んだ。間違いないな?」

「まぁ、言い方に違和感がありますが、概ねその通りですよ」

 苦笑を漏らしつつ答える。

「その推薦状の事なんだがね」

「よもやと思いますけど、会長達からは聞いてないなんて言いませんよね?」

「勿論、その件については紫桜からの経由で聞いている。君達もその場にいたのだろ」

 由乃が紫桜に視線を向けると、頷いて肯定する。

 浩明と凪の二人で生徒会室に乗り込んだあの日、慶は推薦状の要求をその場で紫桜経由で取り付けた。当時、彼女が出来た浩明に対する信用の取り付けだったのだろう。

「まさか、それを反故にするつもりはないですよねえ?」

「それは君達が望むなら直ぐにでも渡すつもりだ。だが、学校側としては、君達には残ってもらいたい。そう思っているんだ」

「それはまた、どういう意味で言ってるんですか!?」

 由乃の言葉に凪がテーブルをバンッと叩いて噛み付いた。その音に慶と紫桜が驚いて身を竦める。

「星野が、この学校に来て、どんな事をされてきたのか分かってて言ってるんですか?」

 食堂で絡まれ、元天統家というだけでいわれの無い襲撃を受け、今回の一件では犯人扱い、挙げ句の果てに無期停学、感情に任せ凪は浩明が受けた被害の数を挙げてゆく。当の浩明が「落ち着け」と宥める位の剣幕だ。

「勿論、話は全て聞いている。教育不足の招いた結果だ。謝って済む問題ではないのも分かっている」

「だったら!」

 凪の言葉を遮って浩明が口を開いた。

「灯明寺、話を聞いてからでもいいだろ」

 当事者の言葉には、抵抗できず、凪はぐっと息を呑んで座りなおす。

「京極先生、理由を聞かせて貰えませんか」

 感情的になった凪に変わって浩明が切り出すと、姿勢を正して応じる。

「編入前に君の事を少々調べさせてもらった。なにせ魔術専攻科ではなく普通科への編入希望。恥ずかしい話だが、普通科の評判は知っての通りだからな」

「そうですか」

「星野浩明、元天統家次男。幼い頃から魔法が使えず、虐待を受けていたのを、五年前に叔父である星野英二に引き取られる。その際に戸籍を天統家から抹消、なかなか壮絶な幼少期を過ごしてたみたいだな」

「今じゃいい笑い話ですよ」

「アンタ、今のどこに笑える所が有ったのよ」

 凪達の顔が引き攣る。

「師匠に、あの家以上の地獄を見せもらいましたからねえ」

「やっぱり師匠ですかい!」

 何度目になるか分からない凪の未だに見た事のない彼の師匠に対しての突っ込みをいれる。自分自身を殺しかけた家よりも、壮絶な地獄とは何なのか、知りたいが知りたくはない話だ。

「最も、未だに落ちこぼれと言われてますから、昔を知っている人間にはあまり成長しているとは思われていないようですがねえ」

「おいおい、君を落ちこぼれだと認めたら、我が校に優等生など一人も居なくなるじゃないか」

 相変わらずの低い自己評価を由乃は苦笑を交えて否定した。

「まぁ、問題はその後、君の存在が出てきたのは家を出てから二年後、表沙汰にはなっていないが、裏では相当な有名人になっていたみたいだな」

「裏?」

 慶が声を挙げる。

「三年前、裏社会でもかなり幅を利かせていた組織が、僅か一晩で壊滅する事件が起きた。それもたった二人の魔術師によってだ。まぁ、魔術師なら不可能ではないが、それ以上に驚かせたのは、組織が壊滅したのに一人の死者も出なかった事。まぁ、殆どが精神病院送りになったようだがな。」

「それってもしかして近衛会の事ですか」

「なんだ、知ってた……そうか、大谷なら知ってて当然だったな」

「それはもう、大変な騒ぎになりましたから。魔術師の一大勢力として大谷家に敵対し、大手企業の脅迫、魔術師による暗殺、違法薬物の売買に関わっていたものの証拠が無く、手を出す事が出来なかった近衛会の人間が突然、警察に駆け込んできたんですから。助けてくれって」

 当時の惨状を述べる慶。実家が絡む話なのだから詳しい筈である。

「彼等の証言によると、襲ってきたのは壮年の若者と年端もいかぬ少年の二人組と言ってましたけど、まさか……」

「懐かしいですね。あの時は楽しみにしていたみたらし団子を台無しにされた仕返しに師匠と二人で暴れたんですよね」

「そんな理由で組織一個壊滅させてんじゃないわよ!」

 当時の事を懐かしむ浩明に、この場にいた全員の気持ちを代弁するよう、凪が突っ込み、由乃は思わず吹き込んだ。。こんな破天荒な理由で潰されたと知れば、今頃、拘置所にいる関係者は呆気に取られる事間違いないだろう。

 ひとしきり笑い終えると由乃は、脱線した話を元に戻す。

「いやはや、君には驚かされる事ばかりだ。それでこそイレギュラーな魔術師だ」

「イレギュラーな魔術師?」

 慶が首をかしげて聞くと、由乃は更に資料を取り出す。

「裏での星野の通り名だよ。本業は運び屋だが、トラブルに巻き込まれてはその類まれな推理力で解決する。しかも、殆ど魔法を使わない魔術師。やり方が余りにも常識外れ。故に付いた名がイレギュラーな魔術師」

「成程、そこまで調べていましたか」

 自分の事が書かれた調査報告書を一通り見終えると、浩明は「それで」と切り出した。

「そこまで調べた上で先生は何故、私に学校に残って欲しいと言うのでしょうかねえ。というより、そこまで知ったうえで、この学校に私を編入させた理由の方が知りたいですねえ」

 最もな質問に、四人の視線が由乃に向けられる。

「君を編入させた理由は簡単だ。この青海高校は魔術師宣言の直後に出来た高校だけあって、エリート思考の生徒が多くてな。そういう学生は社会に出ると必ず挫折する。そうならぬように上には上がいる事を知って欲しいとからだよ」

「成程、では残って欲しい理由は?」

「理由は二つ……、一つ目は、教育者としては失格かもしれんが、君達二人は学校の不正を暴いた功労者、その二人を自主とはいえ退学されてはこちらとしても恥の上塗りになりかねんのでな。それは避けたいんだよ」

「うわ、正直過ぎるでしょ」

「頭の回転が早い君達には、既に察していると思ったからな。敢えて腹を割ったつもりだよ」

開き直りと取れる自嘲の笑みに凪が返すと、「それで二つ目は?」と聞きなおす。

「二つ目の方だが、君達の、いや星野、君の将来を思ってだ」

 そう言い直すと浩明の方を見据える。

「甘えられない環境にいたのが原因だと思うが、君はまだ若いんだ。裏に身を置くべきではない。それに今回見せた君の信念は表で見せるべきだと思ったからさ」

 いかにもな教育者の物言いに「そうですか」と苦笑を漏らす。腹を割って本音を晒したうえで、ここまで気を遣われるのは有り難い話だ。

「理事長、ご好意は有難いのですが、生憎と学内では私に居なくなって欲しいと思っている人間しか居ないと思いますが」

「残って欲しいと言う人間だっているはずだろ。少なくとも、ここにいる人間は君達に残って欲しいと思っているんだがね」

 由乃の言葉を受けて、慶と紫桜を見ると浩明の答えに沈痛な眼差しで見ている。

「星野君、私達からもお願いするよ。せっかく出会えたのに、残った思い出が嫌な事しかない。そんなの悲し過ぎるよ」

「そうです。もっと時間をかければ分かり合える筈です」

 嘘偽りの無い必死な言葉、断り辛い空気に耐え切れず一息ついて天を仰ぐ。

「ねえ、星野。ひとつだけいい?」

 そこに凪が口を挟む。

「アンタの人生だから、私が口を挟む話じゃないのは分かってんだけどさ。ここで退学とかして引越しなんてなったら英二おじさんと夕さんを巻き込むんじゃないの?」

 思わぬ切り口から攻められてたじろぐ。まさか英二と夕の名前を出してこられるとは考えていなかった。

「アンタを天統家から救ってくれて、今まで育ててくれたんだから、これ以上巻き込むべきじゃないんじゃない?」

 止めの言葉に結論を決めた浩明は「やれやれ」と再び天を仰ぎ、凪の方を向く。

「君は時々、腹黒くなりますねえ。私の弱点をえげつなく突いて来るんですから」

「あら、何か間違ってる?」

 浩明の嫌味を凪は笑ってやり過ごす。改めて由乃を見据える。

「後悔しても知りませんよ?」

「そんなのする位なら君のような捻くれ者を最初から編入などさせると思うか?」

「成程」

 お互い不敵に笑い合う。それだけで由乃の意思を悟ると立ち上がる。

「話は終わったようですので失礼します。ここ数日、編入試験の為に使っていた時間が無駄になったようですから、復学するまでは遊び倒す事にしますよ。灯明寺、付き合え」

「ほ~い」

「ちょっと、まだ話は終わってないんじゃ」

 厚顔不遜な二人の態度に慶が嗜めようとすると、由乃が「構わんよ」とそれを止める。

「あぁ、ちょっと待て。最後にひとつだけ聞かせてくれないか」

「はい?」

 三人に背を向けて部屋を出ようとしていた二人が振り返る。

「星野、今回の件なんだが、なんで灯明寺と一緒に動いていたんだ?」

「はい?」

 虚を突いた質問に、迂闊にも浩明らしからぬ間の抜けた返事で答えてしまった。恐らく、関係者、そして凪本人も含めて全員が抱いた筈の疑問を問われたのだから、思わずそんな態度を取っても不思議は無い筈だ。四人の視線が浩明に集まると、浩明は頭を軽く掻き「あぁ、まぁ、あれだ」と、照れ隠すように切り出した。

「彼女の事は信頼してますからね」

「一ヶ月でそこまで信頼出来るものなのか。聞けば、彼女が「自分を疑ってるのか」と聞いた時に迷う事なく否定したそうだが、それほどの信頼をどうやって得る事が出来たんだ」

 当然の疑問に、更に浩明は「あぁ、それは」と答える。

「灯明寺は英二兄さんと夕姉さんのお気に入りでしてね。特に夕姉さんには実の妹のように可愛がられてるんですよ。私が最も信頼している二人にそこまで気に入られてる人間だからこそ、私は彼女を信頼できた。だからですよ」

「成程。因みに君達は付き合ってるのか?」

「なっ!」

 直球な問いに何故か、凪が一歩後ずさる。

 一方の浩明はたじろぐ事なく答える。

「まさか、私みたいな捻くれ者に、灯明寺は高嶺の花ですよ」

「そうか、もういい。行けばいいぞ」

 満足の答えを得たのか、由乃が促すと、浩明と凪は、「失礼します」と頭を一度下げてから校長室を後にした。

「やれやれ、わざとなのか分からないが、自己評価をわざと低く見るのも彼の欠点のようだな」

 二人の居なくなったのを確認してから、一言漏れた言葉に、慶と紫桜が誰ともなく頷いていた。



「ねぇ、怒ってる?」

「はい?」

 浩明の横を歩く凪が恐る恐るという感じで聞いてくる。表情も、機嫌を伺うように不安げだ。

「元々、退学するつもりだって言ってたのに私が引き留めた事。無理矢理だった? でもね」

「君、怒っていたら、付いてこいとは言ってませんよ。皆から頼まれたから応じた。それだけですから。それに、君に引き留められたお陰で残る事を決めれたのですから、感謝している位ですよ」

「星野……」

「とにかく、今日、明日は遊び倒す予定ですから付き合ってもらいますよ」

「勿論、私は星野の相棒なんだから、どこまでも付いていくわよ」

 満面の笑みで浩明の腕に抱きつく凪に、驚きつつも、まんざらでも無い表情で浩明は見るのだった。


 

 

 


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