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「作戦成功~」

 小早川から睨み付けられる視線など気にするものか。事が成功した事に凪は一人で満面の笑みを浮かばせ、存在感をアピールするようにくるりと一回転してスカートを翻させる。

「き、貴様、これは一体、何のつもりだ!?」

「灯明寺、事と次第では冗談では済まされんぞ」

 ふざけているとしか言いようの無い事態に、小早川は怒鳴り、明美も口には出さないが睨み付ける事で心情を露にしている。

「いやぁ~、頭のネジが千切れ飛んだ会長になら、本音がポロっと出てくるかもって星野が言うからさ」

 やはり星野の差し金か、と責任丸投げな発言をする凪に、より一層の敵意が向けられる。

「まぁ、なにがなんでも責任を負わせさせて失脚させたいって事が小早川先輩の口から聞けただけでも、成果はあったみたいだけどね」

 試合に負けて勝負に勝った、してやったりとばかりの笑みを向けられた小早川は、凪から目許を歪めて視線をそらす。自分でも失言だったと自覚しての行動だろう。

「成果とかはともかく、会長はどうしたんだ?」

「そ、そうだ、会長はどうしたんだ? こんな茶番劇を起こしておいて姿を現さないとはどういうつもりだ!」

 状況が飲み込む事が出来ていない総一郎が口を開くと、小早川が続ける。首謀者扱いで聞くのは、失言を誤魔化したいのだろう。

「会長なら星野と一緒に安全な所で一部始終見てるわよ。本当だったら会長にインカム持たせて、星野の推理を言ってもらう予定だったのに、私には無理って言うから、代わりに星野の相棒である私が擬装魔法で会長に姿を変えて喋っていただけよ」

 「星野の相棒」と言う部分を強調して説明する。

「驚いた。いつの間に会長を味方に付けたんだ?」

 明美が驚くのも当然だ。天統雅の件で解職請求を叩きつけると、学生達の前で宣言した人間が、救いの手を差しのべたのだから。

「味方に付けたというより、利害関係の一致ってとこかな?」

「利害関係?」

 ド派手に糾弾するのに最高の舞台に、浩明は当然のように生徒総会を選んだ。

 しかし、ただ糾弾するだけでは浩明の溜飲が下がるわけが無い。満座の前で潰す。

 それならば最も有効な一手は何か?

 相手が最も油断する相手を対峙させて、トリッキーな行動を取らせて、自滅に追い込ませる。

 その白羽の矢が向けられたのが、解職請求を出された大谷慶だった。

 後の展開はとんとん拍子に進んだ。

 当初、生徒会室で落ち込んでいた慶だったが、「推薦状を引き換えに、手を貸してやる」と、取り引きを持ってこられた事に驚き、戸惑いを浮かべていたところへ、「このまま生徒総会に望んで、いくら弁護しようと誰にも信じてもらえないだろうね」と、選択肢は無い事を、脅しとも取れる説得で協力を取り付けたのだ。

 最も、自分の行いで怒らせ、恨んでいるであろう星野が救いの手を差しのべてくれた事に、「ごめんなさい、ありがとう」と、頭を下げ、涙ながらに感謝の言葉を言い続ける慶をあやす事だったのが、ある意味、二人にとって一番、手間取った事だっただろう。

「推薦状? そんなもの貰うよりも試験勉強でもしてた方がいいんじゃないのか?」

「チッ、チッ、チッ、分かってないなぁ~」

 舌打ちと、人差し指を左右に動かしキザッたらしい仕草で、小早川を挑発する。

「星野が言ってたわよ。問題起こして停学したって思われたままよりも、問題起こした学校の騒動に巻き込まれて嫌気さして辞めたの方が、編入試験の時に印象がいいでしょ?」

 康秀の一件は今回の騒動による弊害、巻き込まれたと言い切るあたり、強かと言うべきだろう。

「さて、星野の事情も分かってもらえたようだし、話を戻して、使い込みの首謀者が誰なのか教えてもらいましょうか」

 壇上にいる役員達を見渡して続ける。

「ふざけるな、俺達を馬鹿にしといて、まだやるか!」

 小早川が異議を唱えると、明美も同調する。

「今度は星野にでも化けて糾弾するつもりか?」

 凪はその言葉を待っていたとばかりにわざとらしく言葉をにごらせる。

「それはちょっと……。小早川先輩の二番煎じは勘弁ですよ」

「なんだと!?」

 聞き捨てならない言葉に、小早川は声をあげる。

「だって、星野に化けて天統さんを襲ったのって小早川先輩ですよね?」

 会場は静まり返り、役員、学生、教師、全ての視線が小早川に向けられる。

「なっ、貴様、何を馬鹿な事を」

 突如向けられた視線に戸惑いながらも、怒りを露にする小早川に、凪は浩明の自論を切り出す。

「だって、一緒に仕事してた先輩なら天統さんの鞄に会長の音楽プレイヤーを入れるのも可能じゃないですか。それで、彼女を会長の所へ一人で行くように仕向けたんですよね?」

「ふざけるな、それだけの理由で犯人扱いするつもりか?」

「灯明寺、流石にそれはただの当てずっぽうだろ」

 同じ場所にいたから、犯行は可能、そんな理屈で犯人扱いされてはたまったものではない。

「でも、一連の状況から考えても犯人は小早川先輩ですよね?」

「貴様、まだ言うか」

「てか、先輩しかいませんよね?」

「おい!」

 言葉を荒げる小早川に、凪は怯むことなく続ける。

「動機は今回の使い込みの責任を、会長達に負わせる為てとこかしら?」

「違う!」

 否定する小早川に、凪は続ける。

「だけど、ファンクラブまで存在するように、会長達の人気は絶大。いきなり「使い込みをしている」と言ったところで、誰も間違いだと聞く耳はもたないわよね」

「俺の話を聞け!」

 一人称が変わるほどのうろたえ。生徒総会当初の、勝ち誇った姿は、もうそこにはなかった。

「そこで、学内での信用を落とす為に、完璧なアリバイを持つ星野を犯人扱いさせて、それを星野が無実を証明する事で信用を失墜させる予定だったんでしょ?」

「黙れ!」

 狼狽する小早川に、凪は最大の挑発の言葉を放った。

「小早川先輩、この際、正直に話したほうがいいですよ」

「こんのクソガキがあああぁぁぁ!」

 小早川がコンバーターに手を添える。

 自身の全ての魔力粒子を変換しての起動構築、粒子の変換量が多ければ多いほど威力は高くなる。絶大な魔力の籠った一撃ならば初級魔法であろうと、致命傷になる事さえある。

 現在、構築されている魔法は、彼の魔力粒子が全て籠った渾身の一撃なるであろう、その威力は間違いなく、凪に絶大なダメージを負わせる筈だ。

「馬鹿、やめろ秀俊、灯明寺を殺す気か!」

「うるせぇ明美、ここまでコケにされて黙ってられるか!」

「あれ、二人って名前で呼び合うほどの仲なんだ」

 この状況でもらした感想がそれかよ!?

 余裕どころか、蚊帳の外にいるような態度。

 この一撃の余波に備える全員が心の中でツッコミを入れる。

 自分に置かれている立場が分かっていないのか、と正気を疑う言動に唖然としているギャラリーを見渡してすと、素っ気なく凪は止めの一言を放った。

「やるならどうぞ」

 その言葉が小早川の僅かに残った理性を崩壊させる。

「術式……」

 起動トリガーが切られるその瞬間、凪はポツリと、それも自分にしか聞こえない程の小声で口にする。その言葉は、ある意味で彼を思いやっての言葉であり、凪がこの状況でも余裕を保っていた理由。自分の身に危険が迫った時の相棒の取るであろう行動を信じての言葉。

「ただし、や・れ・た・ら・の話だけどね」

 この言葉が言いきられる前に、会場にいた全員が理解した。何故、灯明寺凪はあんなにも平静を保てていたのか。そして、最も重要な人間がこの場に居なかった事を。

 炎を纏った蹴り、浩明の代名詞にもなりかけている炎熱蹴りが、小早川の側頭部に直撃された事によって。




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